ニトリの今年度の目標の一つは、値下げで客数を増やすことだ(記者撮影)

今年4月に一時1ドル=160円台と歴史的な水準に達したドル円相場。足元でも157円付近の水準で推移している。多くの商品を輸入・販売する小売業にとって、円安は直接コスト増につながる重要な要素だ。

「100年に1回あるかないか、ありとあらゆるピンチだった。今回はどうしようもない」――。原材料高や超円安、特需の反動も重なる事業環境に、ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長も白旗を揚げた。

ニトリの前2024年3月期決算は、売上高が前期比5.5%減の8957億円、営業利益は同8.8%減の1277億円と減収減益だった。ニトリは小売業界を代表する優良企業の一社。36期連続の増収増益と成長を続けてきたが、ついに記録が途絶える結果となった。


円安の影響でコストが膨らむ

ニトリは業界の中でも高い収益性を誇り、商品の9割を中国やベトナム、タイなどの海外で生産し、輸入するモデルで成長してきた。それゆえに、円安の影響は想定以上の大打撃となった。

ニトリの場合、対ドルで1円円安に振れると利益で約20億円のマイナス影響がある。前期は仕入れにかかる為替レートが1ドル=132円23銭から146円60銭へ円安が進行し、380億円のマイナス影響が発生した。


似鳥会長は「今年、来年を見てほしい。期待に応えていく」と意気込む。円安でも利益成長を達成できるか(記者撮影)

対策として半数近い商品の入れ替えも実行したものの、コロナ禍の巣ごもり特需の反動も重なり、増収増益の記録がストップしてしまった。

今2025年3月期は売上高が前期比7.2%増の9600億円、営業利益は同1.5%増の1296億円と小幅に回復する計画だ。為替レートは1ドル=150円を前提に置いている。

今期は値下げによる客数の回復を狙っていく。似鳥会長は「こういう時代は安くしないとだめだ。特に去年の暮れから(値下げを)始めた。今年も継続していきたい」と意気込む。

一方で、似鳥会長は1ドル=160円を前提とした商品開発の方針も明らかにしている。原材料と生産地を見直し、仕入れ高を抑えながら、商品に磨きをかけていく。

具体的には、質感や美しさを重視した商品など高価格帯の商品を投入する。例えばカーテンは、生地をプリントではなく織って模様を形成した高級感のある商品を開発。従来の2900〜3900円よりも高い、7900〜9900円の価格帯で投入する。

すでに店舗で実験的に販売しており「意外と売れる」(似鳥会長)ため、これから本格的に販売を広げる考えだ。

円安に悩むのはニトリだけではない。100円ショップも、従来は100円で実現できた品ぞろえを見直さざるをえない状況だ。業界第2位、セリアの河合映治社長は「当社は傘を長年扱ってきたが、(利益を確保できる)原価に収まらなくてやめた」と語る。

100円以上の商品を扱う競合他社もあるが、セリアは100円の商品に特化して展開している。そのため、前期は1ドル=150円のレートに対応した商品へ、1年かけて入れ替えを進めた。

「第4四半期(2024年1〜3月)は前年同期に比べて粗利率が改善した。1年かけてようやく改善の効果が表れてきた」(河合社長)。円安への対応は、一朝一夕に進むものではなさそうだ。

消費者の節約需要をつかめるか

一方、100円以上の商品を扱う会社も苦しい。「ワッツ」「ミーツ」などを展開するワッツの平岡史生社長はこう打ち明ける。

「商品を作るための仕入れも、原価も高くなり…。無理矢理100円でやろうとすると、粗利益率を減らさざるを得ない。経営として(100円の商品は)一定量以上はできない」

100円以上の商品に対して消費者の抵抗感がなくなり、ニーズが出てきたという見方もあるが、商品開発上の問題はやはり大きいようだ。

あらゆる商品の値上げが相次ぎ、消費者の節約志向は高まっている。「お、ねだん以上。」を掲げるニトリも、100円ショップにも商機はある。厳しい仕入れ環境の中で、どのように商品を開発し、集客増につなげるのか。超円安の試練は、小売業としての腕の見せどころだ。

(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)