「歯肉がんの検査方法」はご存知ですか?症状や治療法も解説!医師が監修!

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「口腔がん」は耳にしたことがある方もいるかもしれませんが、その一種である「歯肉がん」についてはご存知でしょうか。

歯肉がんは歯周病のような初期症状で気付きにくい場合があり、発見が遅れるとリンパ節への転移や嚥下機能の低下を招くことがある恐ろしい病気です。

この記事では歯肉がんの検査方法のほか、症状や治療法も併せて解説します。よく似ているとされる口内炎との見分け方についても紹介しますので、参考にしてください。

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監修医師:
若菜 康弘(医師)

鶴見大学歯学部大学院卒業 / 現在は若菜歯科医院の院長

歯肉がんとは?

歯肉がんは歯肉にできるがんのことで、口腔がんの1つに分類されます。口腔がんのうち約25%を占め、舌がんに次いで2番目に多い病気とされています。
口腔がんのうち約15%が下顎、約10%が上顎の歯肉に発生することが分かっており、上顎より下顎の方が発生しやすいのが特徴です。

歯肉がんの検査について

先に述べた通り歯肉がんは口腔がんの一種なので、検査方法は口腔がんと同じです。具体的には問診・触診・視診病理検査画像検査の3つのフローをたどります。
まずは問診や視診で患者さんの口内環境・生活環境について伺い、医師が目で見ることで腫瘍がないかをチェックします。

病理検査

視診・触診の結果がんが疑われる場合には、確定診断のために主に2つの方法で病理検査を行います。

細胞診

組織診(生検)

細胞診はがんが疑われる部位の表面をごく小さなブラシや綿棒でこすり取る方法で、侵襲性はありません。
一方組織診は麻酔を行ったうえで病変と周囲の組織の一部を切り取る方法で、より診断率が高く、確定診断としても使われます。
いずれも採取した組織を顕微鏡で調べることで、がん細胞かどうかを判別する検査です。

画像診断

画像診断は病変の浸潤やほかに転移していないかを確認するために行われ、歯肉がんに対して行われる検査は下記の5つが代表的です。

X線検査:歯肉がんが骨に浸潤していないか調べられる

CT検査:がんの位置・大きさ・周囲への広がり・リンパ節への転移などを判別する

MRI検査:骨や歯以外の組織状態の診断。被ばくの心配がない

超音波(エコー)検査:周囲への広がり・リンパ節への転移を調べられる。被ばくの心配がない

PET検査(陽電子放射断層撮影検査):一度に全身のがん検診をすることができる。臓器だけでなく骨への転移も検査可能

それぞれ得意としているものや被ばく量などに違いがありますので、患部の状態に合わせて選択します。

歯肉がんの症状は?

歯肉に歯肉がんが発現した場合、歯を支える組織に徐々に広がっていくことから、症状がさまざまな口腔内トラブルとして現れます。がんの早期発見のためにも、どのような症状があるのか1つずつ見てみましょう。

歯肉にしこりのようなものができる

口内は鏡を使うことで自分でも十分に見ることができますので、気になる病変が見つかった場合はまず自身でじっくり観察し、清潔な手で触ってみるとよいでしょう。
明らかにその部位が硬いしこりとなっている場合は歯肉がんの可能性がありますので、医療機関の受診をおすすめします。

なかなか治らない口内炎ができる

がんはお口の粘膜の表面を覆っているごく薄い皮から発生し、がんの前段階にあたる前がん病変では白く見えることがあります。これは白板症といわれるもので、この段階では痛みはありません。
進行すると周辺がえぐれて出血しやすくなり、口内炎のような症状が出てくるのが特徴です。歯肉がんだけでなく、口腔がん全般の患者さんの訴えで多いのが口内炎ですので、「2週間前にできた口内炎が治らない」というときは、まず歯科医院を受診しましょう。

歯がぐらぐらする

歯肉がんは歯周ポケットから発がんすることがあり、歯のぐらつき(動揺)・歯肉の違和感・歯茎からの出血など、歯周病とそっくりの初期症状が現れます。
また、歯肉がんは奥歯の歯肉に発生することが多いので、奥歯の動揺には特に注意しましょう。

入れ歯が合わなくなる

がんが進行することにより歯ぐきが腫れて、短期間のうちに入れ歯が合わなくなる場合があります。特に入れ歯の触れている内側の歯茎や粘膜に、がんなどのあらゆる病気が隠れている可能性を考えて早めに歯科医院を受診することをおすすめします。
また歯ぐきのがんに限らず急激に体重が減少して、その結果入れ歯が合わなくなる場合もあり医師による精密検査が必要な場合もあります。合わない入れ歯を自己判断でそのまま使い続けないよう、日常生活の中で心がけてください。

歯肉がんの治療法

歯肉がんに限らず、口腔がんの治療法は手術による切除・放射線治療・抗がん剤による治療の3つに分かれます。早期であれば機能障害もあまりなく、回復が見込めますので、早期発見・早期治療が非常に大切です。ここでは3つの治療法について、1つずつ解説しましょう。

手術

歯肉がんの治療の中で有効な方法とされているのが手術による摘出で、がんに侵されている歯と歯肉を切除します。
歯肉がんの手術にはいくつかありますが、その選択は歯肉がんが下顎と上顎のどちらに発生しているか、どれだけ顎骨に浸潤しているかによって変わってきます。

下顎辺縁切除術:下顎骨の一部を切除する手術

下顎区域切除術:下顎骨を切り離す手術

上顎部分切除術:上顎骨の一部を切除する手術

上顎亜全摘術、上顎全摘術:上顎全体を切除する手術

歯肉がんは顎の骨に浸潤しやすいので、手術の際に顎骨の一部を切除するケースがあります。その場合は歯の一部も削ってしまうため、欠損部分には特殊な入れ歯(顎義歯)を用いて機能の回復を図ります。
切除する顎骨の範囲によっては、顔の輪郭の変貌や嚥下機能の障害が起きてしまう可能性があることには留意しましょう。下顎骨を切り離した場合は、肩甲骨の移植もしくは金属プレートの使用などで再建します。
顎義歯も条件次第ではインプラントを選択できるようになりましたが、いずれも元どおりにすることはできません。

放射線治療

一般的に歯肉がんを含む口腔がん全般において放射線治療単独で行うことは少なく、手術の補助療法として実施することが多いです。
特に手術でがんが取り切れなかった場合や頸部のリンパ節に転移が見られる場合には、手術の後に放射線および化学療法を行う「術後化学放射線治療」が実施されることがあります。
主に進行してしまったがんに対して考慮される方法で、残っているがん細胞のすべてを死滅させ、再発リスクを下げることが目的です。

化学療法

残念なことに、現在口腔がん治療において、化学療法単独でがんを完全に治療することはできません。そのため歯肉がん・口腔がんに対しては、進行により遠隔転移が認められた場合に全身化学療法が実施されます。
また、がんの範囲などから手術が困難な患者さんであれば、化学療法と放射線治療を併用した化学放射線治療を選択することもあります。

歯肉がんの検査についてよくある質問

ここまで歯肉がんの検査・症状・治療法などを紹介してきました。ここからは歯肉がんの検査についてよくある質問にMedical DOC監修医がお答えします。

歯肉がんの検査を受けるべき目安を教えてください。

若菜 康弘(医師)

お口の中のトラブルは自分でも見やすい部位ですので、例えば「口内炎が2週間経つのに良くならない」「口の中にしこり・腫れのようなものがある」と、いつもと何か違うと感じた際には、かかりつけの歯科医院や歯科口腔外科などを受診すると良いでしょう。また、がんが進行すると次第に肥大化し、口を開けづらくなります。そのため会話や食事に支障をきたしたり、出血や悪臭を伴ったりしますので、そのような症状がある方はより注意が必要です。

歯肉がんの検査には保険が適用されますか?

若菜 康弘(医師)

実際に口内炎やただれなどの病変がある場合は、保険が適用されます。ただし、予防を含めた「健診または検診」という形では保険適用外です。歯肉がん・口腔がんの早期発見のためにも、たとえば健診や検診は年に1回受け、違和感を覚えたら直ちに受診するなど、制度をうまく使い分けましょう。

編集部まとめ

がんは確定診断を受けない限り、触診や視診だけでは判別がつきません。残念なことに、せっかく早期に医療機関を受診したにも関わらず、口内炎や傷が大きくなって腫瘍になったものと誤診されて手遅れになってしまったというケースもあります。

歯肉がんを含む口腔がんのほとんどは、最初は痛みを感じることが少なく口内炎と勘違いして放置してしまうケースもあることから、早期発見と早期治療が非常に重要です。

歯肉がんと関連する病気

「歯肉がん」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

口腔がん舌がん口唇がん白板症

紅板症(紅色肥厚症)

口腔内には前がん病変といって、口腔粘膜が白色や紅色に変色する病気がしばしば見られます。白板症は約3%~5%が、紅板症はおよそ半数ががん化するといわれていますので、粘膜の変色には特に注意が必要です。歯肉がんは口腔がんのうちの1つで、お口の中の衛生状態が悪い場合、口腔がん全般のリスクが高まります。歯茎だけでなく、お口全体のケアも意識するようにしましょう。

歯肉がんと関連する症状

「歯肉がん」と関連する症状は5個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

歯茎から血が出る

歯茎が腫れる

口が開けにくく、食事や会話がしづらい

口臭がある

歯がぐらぐらする(歯の動揺)

上記のような症状がなかなか治らないようでしたら、早めに医療機関を受診するようにしましょう。

参考文献

口腔がん(国立がん研究センター)

口腔がんの検査・診断について(国立がん研究センター)

口腔がん(がん研究会 有明病院)