ファストフードと食品スーパー型品揃えの“ニューコンボストア” ミニストップ神田錦町1丁目店

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 ミニストップの黄色はどこへ…? ミニストップの新型店舗の説明会が、5月18日(土)に行われた。出席した記者は、看板が目に飛び込んできたときに衝撃を受けたという。

【写真】普通のミニストップとはかなり違う…新型店舗の店内を見る

「説明会は、東京・千代田区の新型店舗「神田錦町1丁目店」近くの会議室で午前10時に始まり、経営陣によるプレゼンと質疑応答の後、実際に視察に行くという流れで行われました。会場から歩いて100メートルくらいですかね、交差点の角地にある新店の看板は青と白だけで、正直ローソンかと思いました。記者たちもちょっとざわついて、その日、一番写真を撮っていたのがこの時でした。ちなみに説明会では新店のファサード(=入口上の看板)の変更について、事前の説明は一切ありませんでした」(業界紙記者)

 ミニストップおなじみの青と黄色の組み合わせは、カリフォルニアの青い空とカリフォルニアの代表的な果物であるオレンジをイメージしたものだと、同社のホームページにある。では新店から“消えた”オレンジはどこに行ったかというと……店内にあった。

ファストフードと食品スーパー型品揃えの“ニューコンボストア” ミニストップ神田錦町1丁目店

大手3社との差はこれで埋まるのか

 オレンジがひとつ235円で並ぶのは小さな果物売り場だ。ミニストップが今回発表した「ニューコンボストア」は食品スーパーに近い品揃えを実現させている。肉・魚・野菜を120アイテム、トップバリュ製品を1,000アイテム以上取り扱うことに、メディアの視線は集まった。たとえば、朝日新聞デジタルは「肉・野菜充実、ミニストップ イオンの流通網を初利用」、毎日新聞は「ミニストップが『食品スーパー』兼ねた新型店公開 PB充実」という見出しの記事を配信している。

 しかし、今回の説明会にも参加したマーケティングアナリストの渡辺広明氏は「セブン-イレブンでは先に、生鮮3品を導入する実験店『SIPストア』を始めています。これと比較されがちですが、ミニストップが抱える問題を解決することができるかというと…」と語る。いったいどういうことか。

 コンビニ業界をめぐる数字をみてみると、セブンイレブンが平均日販65万円と独走し、ファミリーマート55万3,000円(2024年2月期)、ローソン55万円(2024年5月)がこれに続く。一方、ミニストップは大きく引き離され、既存店日販は41万9,000円(2023年4月)という状況だ。

 ミニストップの藤本明裕社長は「(イオン商品調達やイオンフードサプライなど)イオングループの調達網を活用して、農産品約70アイテム、畜産が約30アイテム、水産が約20アイテムをそろえた」と話す。仮に、このたびの生鮮の試みによって前を走る3社との差を埋めるとなると、1日だけで5〜10万円も売らなくてはならない。生鮮がミニストップの救世主にはなりにくい。さらに、

「仕入原価も物流費も上がっているこの局面では、生鮮3品は決して利益率の良いものではなくなってきています。しかも、コンビニであるミニストップは利益を本部と加盟店で折半しなくてはならない。実入りはスーパーよりさらに少ないことになります」

“あと一歩”なサービス

 もっとも、新型店舗の売りは生鮮だけではない。ソフトクリームを筆頭に、スナック類の質の高さで知られるミニストップのブランドを活かした“専門店品質”の商品も注目だ。

「セルフオーダー端末で注文してすぐに作ってくれるホットドッグ(214円)は主食になるし、いいと思います。ただ“専門店品質”を謳うのであれば、パンとソーセージだけでなく、刻み玉ねぎも欲しいところ。私が気になったのは氷とソフトクリーム、フルーツが入った『シェイクソフト』(590円)です。ミニストップが展開するソフトクリーム専門店の商品が、新店舗ならば食べられるというのは魅力的。マンゴーを試食させてもらいましたすが、大ぶりにカットされていて食べ応えがありました。その反面、大きすぎて、ストローで潰してもなかなか吸うことができませんでした。500円以上する価格帯の商品であることを考えると、フルーツを最後まで食べられるような、お客様目線のもうひと工夫がほしいところ。会場で藤本社長にこの点を質問すると、『鋭意改善します』という反応でしたが」(渡辺氏)

“あと一歩”な状況はフルセルフのレジでも見られた。タバコも客自身が持ち出せるようレジ横に並んでいるのだが、販売には年齢確認が必要なため、フルセルフレジの見える範囲で店員を1人置かなくてはならないのだ。店員がいない場合にタバコをレジでスキャンすると、「店員を呼び出している」との表示がなされ、結局待つことに……。これでは何のためにタバコをセルフで扱えるようにしたのかわからない。

大失敗はしないだろうが…

 ミニストップをめぐる状況は厳しい。藤本社長は「24年度はアプリ、Eコマース、クイックコマース、地域がつながり、リアル店舗と融合させOMO(=とオフラインの融合を意味する「OMO(Online Merges with Offlineの略)を実現する」と強調するものの、ミニストップアプリのダウンロード件数は160万件にとどまっている2,000万ダウンロード記念をおこなっているファミリーマートのアプリ「ファミペイ」と比べると見劣りしてしまう。

 今回の新型店舗はあくまで「研究開発的な位置づけ」としつつ、さらに増やしていく意欲もミニストップは見せている。近隣にイオンフィナンシャルサービス株式会社と株式会社イオン銀行、イオンディライト株式会社など複数のイオングループ企業の本社がある“お膝元”ゆえ、新店はそう簡単に失敗しないだろう。だが成功したとしても、そのまま全国へ展開できる材料になるかといえば疑問が残る。

 渡辺氏はミニストップを待ち構える未来について次のように説明する。

「同じイオングループ内の小型スーパー『まいばすけっと』が急成長し、1都3県の店舗数は1,130店を超えました。コンビニが得意としたドミナント出店を駆使し、低価格でコンビニに優位性を示して、2,000店舗を目指しています。今の『ミニストップ』がこれに対抗できる術を持っているとはなかなか思えません。 もしも代名詞であるソフトクリームを『まいばす』に持っていったとしたら……何がミニストップに残るでしょうか。もし、店内厨房のあるミニストップを買収するコンビニが現れるとしたら、ローソンかもしれません」

 フラッグシップ店の看板から消えた黄色は“イエローカード”になっていたのかもしれない。2枚目をもらうことなく、ピッチで存在感を取り戻すことができるのか――。

デイリー新潮編集部