【中島 恵】いま「中国の若者」がこぞって”ドリアン”を食べるワケ…需要が高まりすぎて東南アジアに懸念が集まる

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ドリアンに湧き立つ中国社会

中国で、とくに若い世代を中心にドリアンが大ブームとなっている。数年前からドリアン専門店がオープンするなど、じわじわ人気が出ていたが、今年は従来のタイやマレーシアに加え、ベトナムやフィリピンからの輸入量も増加し、SNS上には日々、「ドリアン自由」(ドリアン三昧、自由自在などの意味)という投稿が相次いでいる。

「今日もドリアン1個、食べちゃいました!ドリアン自由、うれしい!」

中国のSNS、小紅書(シャオホンシュー)や斗音(ドウイン)などの動画には、ドリアンを食べるインフルエンサーの動画が次から次へと流れてくる。コメント欄には「私も食べたくなってきた」「ドリアン、美味しいよね」などと書き込まれ、人気を博している。注目を集めるため、一度に数個も食べる強者もいる。

中国ドリアンがブームになり、食べられ始めたのは2017年頃からだ。それ以前から雲南省や広東省など南方の一部地域では食べられていたが、全国区の果物ではなかった。

だが、ここ数年、輸入量が急激に増加。23年の輸入量は142万トンを超え、2018年(43 万トン)の3倍以上になり、世界の需要の90%以上を中国が占めるまでに。価格も23年は1キロ50〜60元(現在のレートで約1050円〜1260円)だったが、輸入量が増えたことから1キロ30〜40元(630〜840円)にまで下落。

SNSの検索に「今年はドリアンが安い」などのワードもあるほどで、ドリアンの価格が気になって仕方がないという人も多い。

濃厚な味と食感がやみつきに

なぜ、中国ではそれほどドリアンが人気になったのか。

SNSの投稿や筆者の知人たちの話を総合すると、主に以下の要因がある。1つ目は「濃厚な味わい」など、その美味しさだ。

「クリームチーズのような、ねっとりとした食感が中国人好みなのでは……」と上海在住の20代の知人はいう。大学時代に住んでいた北京では食べたことがなかったが、果物専門店やドリアン専門店ができてきて、おもしろ半分で食べてみたら美味しく、以来「ハマってしまった」そうだ。

友人宅で、デリバリーのドリアンピザも食べたことがあるといい、ほかにドリアン焼き肉、ドリアンアイスなどもあるとか。

腐ったような臭いが強烈という理由で「周囲の人、皆が好きなわけではありません。好みがはっきり分かれますね。どちらかといえば、10〜30代の若い世代に人気だと思います。好きな人はしょっちゅう買って食べているみたい」という。

ビタミンが豊富で美容にいい、という栄養素も、若い女性にささったポイントのようだ。ちなみに、品種はタイやマレーシア産の『猫山王』『金枕』などが人気だ。

大人気のスイカに迫る勢い

2つ目の理由は「ブームに便乗」だ。これまでドリアンを食べた経験がない人が多く、目新しい存在だった。しかし、東南アジアなど海外旅行に行った際に初めてドリアンを食べて美味しかった経験や、SNSで取り上げられるようになってブームに火がついたため、それに便乗してピザ店などで取り入れられ、人気を呼んでいるのだ。

SNS上には「10年以上前にザリガニブームが起き、今はドリアンがブームになっている。ザリガニも、あっという間に専門店があちこちにできて、ザリガニを専門に養殖する産地などができたが、ドリアンもそれに似た感じ。

国内では雲南省や海南省などで生産されており、ドリアンだけを販売する小売店もある」という分析もある。

中国では、果物専門店をよく見かける。さまざまな果物を販売しているが、長い間、その中心にあったのはスイカだった。ドリアンは「果物の王様」と呼ばれているが、中国では果物=スイカといってもいいほど身近な存在だ。

以前、中国や日本に住む30〜50代の中国人に取材したところ、「幼い頃、夏になると、家にはスイカが5〜10個くらい常備されていた」「毎日、半分食べていた」という証言もあるほど。中国では水分代わりにスイカを食べる習慣があり、価格も以前は日本より安かったので、夏になれば、ほぼ毎日食べる人が多かった。

かつてスイカは1個単位、最近では核家族化により、半分単位で売られていることが多いが、そこにドリアンが登場し、スイカに迫る勢いで人気となっている。専門店ではまるごと1個売られているが、スーパーなどでは、中身のみパックに入れて売る場合もある。

東南アジア中国ドリアン需要に応えるかたちに

3つ目の理由は冒頭にも書いた通り、輸入量が増加し、全国各地に流通し、ドリアンを目にする機会が増えたことが挙げられる。東南アジアから陸路の交通網が発達したこともある。かつては、東北地方では南方の果物を目にする機会は少なかったが、今では地域にかかわらず、遠方でとれる果物や輸入の果物が店頭に並べられるようになった。

SNSの発達により、情報格差も少ないため、身近でとれない果物でも、インフルエンサーが宣伝することによって知られるようになった。経済的に豊かになったこともあり、料理も含め、それまで食べなかったものを食べるようになったのだ。

これらの理由から爆発的なドリアンブームが起きている。しかし、タイやベトナムでは、中国への輸出を伸ばそうと、コーヒー農園やゴム農園が次々とそれらをやめ、ドリアン農園にシフトしており、「中国一極集中」が進んでいる。SNS上では「ここまで中国シフトをして大丈夫なのか?リスクはないのか」との意見もあり、中国人がドリアンに飽きてしまったときを懸念する声さえ高まっている。

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