和久井容疑者(本人のSNSより)

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 東京・新宿のタワーマンション前で住人の平沢俊乃さん(25)を待ち伏せて刺殺した和久井学容疑者(51)。うら若き女性との「結婚」を夢見て、多額のカネまで工面した挙げ句に及んだ残忍きわまる凶行――。そんな容疑者の“狂気”について、専門家が重大なポイントを指摘する。

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【写真】本人のSNSから浮かび上がる“マニア垂涎”の「名車」を愛した容疑者の素顔とは

 和久井容疑者は犯行の理由について、「平沢さんと交際していた。結婚を前提に(平沢さんが経営する)ガールズバーを応援するため、車やバイクを売って1000万円以上を出した」といった趣旨の供述をしているという。

 しかし捜査関係者によれば「交際の事実は確認されていない」とされ、容疑者の一方的な“思い込み”が動機につながった可能性も指摘されている。実際、平沢さんは2021年12月と22年4月、「店の客(和久井容疑者)にしつこく言い寄られたり、待ち伏せされたりする」と警察に110番通報。翌月、和久井容疑はストーカー規制法違反で逮捕された。

和久井容疑者(本人のSNSより)

「平沢さんが経営していたクラブの関係者などによると、平沢さんはこの時期、『自分の身が危ない』『ストーカーが怖くて家から出られない』など、本当に怯えていた様子だったそうです。また常連客も取材に対し、『結婚の話は“わくちん(容疑者)”が勝手に吹聴していただけでは……』といった話をしています」(民放キー局記者)

 真相には不明な点も残るが、常連客の間からは「若くて美人で頭の回転も速い“高嶺の華”の存在だった彼女と、本当に結婚するつもりでいたことが不思議だった」との声も漏れているという。

愛車が象徴する「女性像」

 精神科医の片田珠美氏は、注目すべき点として、まず容疑者が所有していた「車とバイク」を挙げる。自身のSNSで21年、「16年間大事にしてきたバイク(NR)」と「20年9カ月乗った車(ホンダNSX)」を手放したことを報告した和久井容疑者。「彼の知人は“車体はいつもピカピカで、かなりのカスタマイズを施した自慢の逸品だった”と話している」(同)という。

「精神分析的には、多くの男性にとって『車は女性の象徴的代理』と捉えられます。男性が所有する車への愛着や嗜好はしばしば女性に対する考え方や扱い方を反映しており、“カスタマイズに凝った”といった報道からは、容疑者の愛着対象への“こだわりの強さ”が窺えます。また“いつもピカピカ”や“車もバイクも真っ赤だった”との情報から愛着対象の外見へのこだわりも強かったことが読み取れます」(片田氏)

 長年、カネと労力を惜しまず愛情を注いできた車とバイクを売る決断をしたのも、平沢さんが愛車たちと同等以上の愛着対象となっていたことを示唆しているという。ちなみに和久井容疑者はバツイチで、「約5年前に奥さんが家を出たのは、容疑者が車とバイクに“のめり込み過ぎたから”との話もある」(前出・記者)そうだ。

「それまで車とバイクに向けられていた“パッション(情熱)”が、今度は平沢さんに“恋の情熱”となって向けられるようになったと考えるのが自然です。ただし、“パッション”という言葉には情熱だけでなく、受難という意味もあることからも分かるように、必然的に危険性をはらみます。理由は車やバイクと違って、生身の女性は自分の思い通りに乗りこなすことなどできないからです」(片田氏)

 それでも年齢差や境遇の違いなどを気に留めることなく、和久井容疑者が「結婚」を盲信した背景には“2つのキーワード”が隠されているという。

引き金は「二重の喪失体験」

 片田氏が続ける。

「願望を現実と混同してしまうことを、精神医学の用語で『幻想的願望充足』といいます。たとえ周囲から“不釣り合い”と映っても、2人は結ばれ、幸せな生活が待っている――。容疑者はそんな幻想を抱いていたと推察され、さらにはフロイトのいう『惚れこみ』の状態にあった可能性も極めて高い。メディアの取材に応じた容疑者の父親が被害者との結婚の話を聞いた時、“やめといたほうがいい”と注意したにもかかわらず、容疑者は“(平沢さんは)可愛くて素直でいい子なんだよ”と聞く耳を持たなかったと証言しています。恋愛対象を過大評価して理想化し、“あばたもエクボ”と無批判に受け入れる状態を『惚れこみ』と呼びます」

 恋い焦がれる気持ちが執着へと変わり、ついに“暴発”した背景について、片田氏がこう話す。

「犯行の引き金になったのは、車とバイクの売却、そして店への“出禁”措置で被害者まで失う『二重の喪失体験』だったと考えられます。それまでの生活を支えてくれていた愛着対象をすべて失い、暴発を抑制するブレーキがなくなってしまった。被害者の無念は察するに余りあり、容疑者との詳しいやり取りや関係性については今後の捜査の結果を待つほかありません。ただ、もともと容疑者が通っていた店は“疑似恋愛”と割り切って“恋愛遊戯”を楽しむ場だったのではないでしょうか。容疑者が遊び慣れていなかったためか、女性の営業トークの一部を真に受けたり、都合よく解釈したりした可能性は捨てきれず、事件に後味の悪さを残しています」(片田氏)

デイリー新潮編集部