17億円を支払え!漫画村元運営者「一切払う気ない」「逃げ切ります」払わないとどうなるのか…「俺が手にしたので何億円くらい」相手弁護士の見解は?

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 海賊版サイト「漫画村」(閉鎖)でマンガを不正に公開されたとして、集英社小学館、KADOKAWAの出版大手3社が損害賠償を求めた民事裁判で、東京地裁は元運営者・星野ロミ氏に計約17億円を支払うよう命じた。だが、元運営者は「一切払うつもりはない。逃げ切る」という。出版社側は勝訴したものの、「逃げ得」はあり得るのか。経済アナリストの佐藤健太氏が解説するー―。

東京地裁が約17億円を支払うよう命令

「民事は負けたとしても無いところからは取れない。気持ちはすごい楽。仮に民事で負けたところで財産がないところからは取れない」。海賊版サイト「漫画村」の元運営者である星野ロミ氏は4月18日に公開したYouTuber動画で、このような持論を展開した。

 出版大手3社が著作権をめぐり損害賠償額として約19億円を求めた異例の裁判は、東京地裁が約17億円を支払うよう命令した。すでに閉鎖されているため忘れている人もいるかもしれないが、「漫画村」は2016年頃に開設された国内最大の海賊版サイトだ。「ONE PIECE」(ワンピース)や「キングダム」といった人気マンガを作者や出版社に無断で公開し、著作権などを侵害していた。

 星野氏は2019年に渡航先のフィリピンで身柄を拘束され、著作権法違反と組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕。福岡地裁は2021年6月に懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6300万円の実刑を言い渡した。星野氏は服役後の2023年9月に「マンガはアップロードしていない」などと無罪を訴えて再審請求を行っている。刑事裁判とは別に、2022年7月に出版大手3社が提起したのが今回の損害賠償訴訟だ。人気マンガを刊行する出版社側は「民事でも責任追及されるべきだ」と訴え、小学館が約9億円、集英社は約4億3000万円、KADOKAWAは4億円の損害が生じたと主張した。

俺が手にしたので何億円くらい

 4月18日の東京地裁では「実質的に電子配信された作品を購入したのと変わらない状態が続いた」などと出版権や独占的利用券の侵害を認めた。「漫画村」は2018年4月頃に閉鎖されるまでの間、5億件を超えるアクセスがあったとされ、裁判では平均閲覧数や販売価格などをもとに損害額が計算されている。

 約17億円の支払い命令は、海賊版サイトをめぐる賠償額としては過去最大だ。だが、星野氏は判決後に撮影したYouTuber動画で「そもそも18億円なんてもっていない。見せしめにするための裁判だと思っているのであまり気にせず、今後も頑張っていこうと思っている」と主張。判決に不満をにじませ、支払う考えは一切ないとの姿勢を示している。

 2022年11月に公開された実業家・三崎優太氏のYouTubeチャンネルに出演した星野氏は、自らが「どっかで働くとかできないくらいコミュニケーション能力が低かった。それで人と関わらないでできる仕事をやろうと思って」と振り返り、「違うサーバーにアップロードしているのを漫画村のサーバーを経由して保存しないで表示するシステムをつくった。著作権法違反ではないのかなと思って公開した」と説明。利益は「俺が手にしたので何億円くらい」と話し、旅行などにお金を使っていたという。

財産無ければお金は取られないし払わなくても罰則は無い

 星野氏は4月18日の「X」(旧ツイッター)に「大谷翔平の水原 ―24億 漫画村の星野ロミ ―18億 芸人粗品 ―2億 こう考えるとたいした事ないな」と投稿。21日にも「賠償命令が出ても財産無ければお金は取られないし払わなくても罰則は無い 生活に必要なお金・物を抑えられないからパソコンや布団も取れない」(原文)とつぶやいている。

「財産はない」「払うつもりはない」と主張する星野氏は、このまま約17億円の支払い命令から逃げ切ることが可能なのか。まず、星野氏が支払うことを拒否し続けた場合、星野氏が保有する財産が調査される。不動産や預貯金、有価証券などの財産があれば差し押さえられ、回収に充てることが可能だ。

 だが、賠償額は約17億円と莫大である。給料の一部から回収することもできるが、星野氏がそれだけの財産を持っていなければ強制執行しても、直接お金を回収するのは困難と言える。支払い能力がなかったり、判決後も払われなかったりするケースは実は少なくないのだ。仮に海外に財産があるケースでも、差し押さえに費用や時間がかかる。

 星野氏は4月23日の「X」に、「日本の裁判で勝ってもほぼ意味ない--財産が海外にある場合日本の判決で差し押えできる? 英国、ドイツ、米国一部の州であれば、当該国の裁判所に強制執行を申し立てれる それ以外の国の場合強制執行をかけることはできません」(原文)と投稿。“三重国籍”を公言する星野氏は、支払い命令から逃げ切れるとの自信を見せている。

弁護士は「時間がかかっても回収に努める」

 こうした姿勢に出版社側がいかに対応するかは現時点で不明だ。判決後、原告の代理人弁護士は「時間がかかっても回収に努める」としたが、3社は「当時、最大規模であり、海賊版サイトの象徴でもあった『漫画村』に関し、刑事処罰を求めるのみならず、民事上生じた責任を追及することは、著者が安心して創作できる環境を整え、心血を注いで生み出された作品を預かる出版社の責務であることから、原告3社が共同して提訴した」と説明。その上で「一部のネタバレサイト、SNSの無断アップロードなどは存在しているが、国内発の海賊版サイトに関してはほぼ根絶できた」と強調している。

 出版社として作者の権利を守り、著作権侵害という行為には毅然として対応することを強調しつつ、今回の裁判が「抑止力」となったことの意義を感じさせる。その理由は「漫画村」のような海賊版サイトがなおも存在している点にある。出版社などでつくる一般社団法人「ABJ」によると、海賊版サイトは約1000件あり、日本人向け上位10サイトのアクセス数は2021年10月に合計4億回(月間)を超えた。海賊版サイトによる被害額は2023年に約3820億円に上ったという。

違法性を認識しながらダウンロードすること自体の罰則も

 上位10サイトのアクセス数は今年に入り、1億回超にまで減少しているが、新興サイトは次々と出現している。こうした海賊版サイトによる被害を背景に2021年1月にスタートした改正著作権法には、違法性を認識しながらダウンロードすること自体の罰則も盛り込まれた。インターネット上に違法に掲載されたマンガなどの著作物をダウンロードすることは、個人で楽しむ場合でも違法となったのだ。写真や新聞、イラスト、コンピューターソフトなど全ての著作物が対象となり、海賊版を継続してダウンロードした場合には2年以下の懲役・200万円以下の罰金となる可能性がある。

 海賊版サイトの多くは、広告収益が目的だ。アクセス数が少なければ、サイト側も割に合わなくなる。最近は映画を違法に編集した「ファスト映画」や過激化する動画で注目を集めようとする傾向が強まっているが、違法性があれば当然罰せられる。映画館の「NO MORE 映画泥棒」だけではなく、すべての著作物において「NO MORE 海賊版」を一人ひとりが自覚すべき時代に入っている。