創価高校野球部〜躍進の舞台裏(後編)

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【スイッチノッカー誕生秘話】

 創価高の堀内尊法監督を語る時、絶対に忘れてはいけないのはノックの腕前だ。全国にノックの名手はたくさんいるが、左打ちでも右打ちでも自在に打てる"スイッチノッカー"は珍しい。


全国でも珍しいスイッチノッカーの堀内尊法監督 photo by Fujioka Masaki

 堀内監督はもともと右打ちだった。松山商業(愛媛)時代、窪田欣也監督の指示で左打ちに挑戦し、その後はスイッチヒッターとして甲子園でもヒットを量産した。左打ちでノックを打ち始めたのは大学を卒業してからだと、堀内監督は言う。

「高校時代に左打ちの窪田監督、右打ちの澤田勝彦コーチに、毎日ものすごい数のノックを打ってもらいましたが、右と左では打球の質が違うことに気づいていました。大学でコーチになる時に、岸雅司監督から『選手がうまくなるためにノックを打ってくれ』と言われて、右でも左でもノックできたほうがいいと思ったんです。選手の守備をうまくするためにはそれが一番だと考えて」

 ゴロの練習から始めて、そのうちライナー、やがてフライも自在に打てるようになった。

 スイッチヒッターであったとしても、簡単に"スイッチノッカー"になれるわけではない。堀内監督の野球に対する取り組み方があればこそである。

 1986年夏の甲子園で松山商業が準優勝した時のコーチである澤田氏(のちに松山商業の監督として1996年夏に全国制覇)は、堀内監督についてこう語る。

「左打ちを始めた時はもちろん、全然バットに当たりませんでした。でも、毎日練習をしていくうちに、ちょっとずつ前に飛ぶようになる。堀内みたいに、自分の力がないことを自覚してそれを克服した人間はほかにはいません。最高のお手本ですね。創価大学で活躍するようになってから聞いたけど、『高校の時は毎日1000本素振りしました』と言っていましたね。毎日、とことん練習したうえで自宅に帰ってそれだけ素振りをすることなんて普通はできません」

 堀内監督には自らに課していることがある。

「ネックウォーマーをしたり、ジャンパーを着たままノックを打つことはありません。いくら寒くても、選手がユニフォームで頑張っているんだから、同じ格好でやります。そうしないと失礼だと思いますから」

 ここにも恩師の教えがある。澤田氏は言う。

「あの当時、選手には皮手袋を使わせませんでした。だから、こちらも素手でノックを打った。毎日、何百本も打つわけだから、マメはできるし、皮膚が裂けて血も出る。ボールを渡す選手が血染めのボールを見て驚いたもんです。でもそれが、自分なりのポリシーであり、選手に対する配慮ですね」

 時代が変わっても、受け継がれることがある。

【シートノックから試合は始まる】

 ノックは打者の打球を模して打つものだが、左打者特有の打球を右で打つのは難しい。ライン際の切れ方、ドライブのかかり方はどうしても違う。

「右打ちでは打てない打球、左打ちでは打てない打球がありますから、僕はそれを使い分けます。相手のラインナップを見て、左バッターが多い時には左でより多く打つようにしています」

 できるだけ実戦に近い状況で選手にノックを受けさせようと堀内監督は考える。

「フライだけをまとめて打つチームもありますが、うちはそうしません。ゴロがくるかフライになるかわからない場面を想定して、ボテボテのゴロを打ったり、外野と内野の間にフライを打ったりしています。体ならし、目ならしのためのノックで終わったらもったいない」

 堀内監督には、シートノックに関する独自の考え方がある。

「高校の監督になった時、選手たちにこんな話をしました。『野球の試合には0回の表と裏がある。シートノックから試合は始まっているんだ』と。『創価はこんなプレーをするのかと相手に思わせろ』と」

 創価のシートノックは、選手が止まっている時間はほとんどない。内野手はボールを捕って投げ、走ってまた捕って投げる。走者を挟むランダウンプレーも入っている。これほど連動性の高いシートノックを行なうチームは少ない。7分間の試合前ノックの質の高さは日本でもトップクラスだ。

「わざとワンバウンドの送球をさせて、それを捕って投げるというのも組み込んでいます。7分という限られた時間のなかで、選手たちがどれだけ多くボールを触れるかを考え、できることは全部やっています。どの選手も、相手チームの2倍くらいは触っているはずです」


創価高・堀内尊法監督 photo by Fujioka Masaki

 この春から高校野球では飛距離を抑える新規格の金属バットが採用される。これまでに比べて長打が減ることが予想されている。

「これまでだったらホームランになっていた打球が外野手に捕られてしまう。飛距離が落ちるので、確実に野球は変わります。フォアボールとエラーが勝負を左右する度合いが高くなるでしょう」

 当然、守備力が勝負のカギになる。

「捕れるボールは確実に。ひとつひとつ、アウトにする。守備練習でも『自分たちはこれをやった』という自信があれば、勝負を分ける場面でも動じることはないと思っています」

 2007年夏を最後に甲子園から遠ざかっている強豪は、この冬、堀内監督のノックによって守備力に磨きをかけている。