今年こそ本を読みたい、でも時間がない……そんなあなたにおすすめしたい、読むのが楽しくなる読書法をご紹介します(写真:Fast&Slow/PIXTA)

動画やSNSなどネット利用が増える一方で、読書が減っている、と危機感を感じている人は少なくないでしょう。が、読書の仕方を少し変えるだけで、読書習慣を身につけることができます。

本稿では、テレビプロデューサーの傍ら日々膨大な数の本を読み、東京大学大学院の博士課程でメディア研究も行う角田陽一郎氏が、今年こそ本を読みたい、という人に読書が楽しくなる本の読み方を紹介します(『どうしても動き出せない日のモチベーションの見つけ方』より一部抜粋・編集して構成しています)。

速読のコツは「速読しないこと」

読書は、YouTube やアプリ、ニュースサイトなどで情報を得るのと比べたら、圧倒的に時間がかかります。だから、本を読むなら速読して、早く情報を手に入れたいという方も多いと思います。

ただ、読書という行為においては、情報を得る以上に、その本から自分が何を感じ取り、どう変化していくかが大事だと思っています。その意味で速読は、その本に書いてある情報だけを手に入れる、という読書の限定された機能しか使ってないのでもったいない。新幹線だとゆっくり景色が楽しめないのと似ている気がするのです。

「本はゆっくり読むと、速く読める」。これは井上ひさしさんの言葉だったかと思いますが、例えばトルストイなどを読むと、登場人物が死ぬほど多くて、ついていけなくなります。なので、物語の最初はわざとゆっくり読むんだそうです。すると、「あ、この人物はこういうキャラクターなんだ」とだんだんわかってくる。

初期設定のうちに速読しようとすると、むしろわからなくなるので、ゆっくり読んで、それでつまらなければ読まなきゃいい。読んでいるうちに話が動いてきたり、自分自身が興味を持ててくると、速度はひとりでに上がっていきます。

その時にはもう設定が把握できているので、後半ものすごい速さで読める。結果、速読しているのです。

前半はゆっくり、後半はスピーディーに

『カラマーゾフの兄弟』という、ドストエフスキーの世界的な名作があります。新潮文庫で上中下巻の3冊に分かれていてなかなか取っつきづらいのですが、ある時期の新潮文庫に小説家・金原ひとみさんのこんな推薦文がありました。

「上巻読むのに4カ月。一気に3日で中下巻!」

これもまさに「初期設定」で時間がかかったけれど、その後のめり込んで速読になったことが端的に示されています。速読するためには、まずゆっくり読む方がいいんです。

サイエンスや実用書、ビジネス書であれば、まえがきから前半はゆっくり丁寧に読み進め、大体その人の言いたいことがわかったらパラパラ飛ばし始めます。3、4章ぐらいで「あとは大体同じことを言ってるから後で読んでもいいや」となることもあります。速読しようとは考えていませんが、結果的に速く読めています。

速読をしない方が精神的にも本との付き合いがうまくいくし、テクニック的にも、速読しない方が結果的に速いのです。

また、私は「複数の本を同時に読む」ということもおすすめしています。私自身も、お風呂で読む本、移動中に読む本など、シーンごとに読む本を決めていて、常に同時並行で30冊ぐらい読んでいます。

読書をする時、1冊きちんと読み終わってから次の本を読もう、と思っている人は多いと思います。私自身、人から本を薦められた時「いま読んでる本がある」「これを読み終わったら」といつも言っていました。でもある時気づいたのです。「そんなこと言ってたら、いつまで経っても読めないじゃん」と。

いろんな本を読んでいれば、絶対どれかの本で挫折します。そうしたら、次の本に進めない。なので、読み終えられるかどうかは気にせず、読みたい時に読みたい本を読もうと決めたのです。すると、むしろどんどん読める量が増えました。いろんなジャンルの複数の本を同時に読んだ方が、結果的に読むのも進むし、読み終わるんです。

複数の本を読んでいると起こる「シンクロニシティ」

複数の本を同時に読んでいると、本同士の内容がまるで必然のようにつながってくる瞬間=シンクロニシティがあります。全く異なるジャンルや内容の本なのに、「あ、前に読んだあの本と同じことを言っている!」「あの本に書いてあることはこういうことだったのか!」とつながるのです。

でも、1冊の本だけだとそれが起こらない。2冊以上読んでいるからシンクロしてきます。水道橋博士は、人との出会いを星座に例えています。初対面だと思っていたけど、実は数年前に同じ場所に居合わせていた、とか。読書も同じように、さまざまなジャンルを読んでいると思いがけない星座がつながっていく瞬間がたくさんあります。

先日、『科学とはなにか』(講談社ブルーバックス)という本を読んだのですが、著者は佐倉統さんという東大の科学の先生で、各章にアガサ・クリスティのポアロのセリフが書いてありました。

この著者はアガサ・クリスティが好きなんだなと思ったのですが、巻末に、『アガサ・クリスティー完全攻略』(霜月蒼著、講談社)という本がすごく面白くて、こんな科学の本を書きたいと思ってこの本を書いた、とありました。『完全攻略』はアガサ・クリスティが書いた全作品を解説していて、かつネタバレしていないというなかなかすごい本です。

趣味として読むアガサ・クリスティと、自分の専門分野である科学は別物と思ってしまいそうですが、佐倉さんは本を書く時に、「アガサ・クリスティを使ってみよう」と星座をつなげたのです。

自分が好きなもの、面白いと思うものを、どう自分の領域で利用するか、星座をつなげようかと考えてみる。「つながるじゃん!」と気づいた時、自分の中での好奇心の範囲はぐっと拡がります。

移動時間は大きな「読書チャンス」です。私は、車で移動する時、オーディブル(Audible)という、Amazonの「音声で聴く本」をよく聴いています。

仕事場から東京へ出るには、車で1時間強かかるのですが、その間オーディブルを聴くことで、1日2時間以上、読書の時間がとれます。再生速度は1倍だと遅くて、2倍だと速すぎるので、1.6倍ぐらいが私にとってはちょうどいい。この速度だと、一冊聴き終わるのに平均3、4時間ぐらいなので、2日間ぐらいで1冊読めちゃうんです。

オーディブルでおすすめなのは、「紙で読むのはちょっと辛い」という本。読むのは辛いけど、読まなきゃとは思っている本、それをオーディブルでとりあえず聴いてみます。すると、結果読み終わる、読了しちゃうんです。オーディブルで読み終わることを私は「Au了(おーりょう)」と言っています(笑)。

『サピエンス全史』を書いたユヴァル・ノア・ハラリに『21 Lessons』という著書があるのですが、ぶ厚いのでなかなか読むのは大変だと思ってたんです。さすがにオーディブルでも長いのですが、車で行ったり来たりしていたらいつの間にか「Au了」できたのです。文章で読むのが億劫な本は、むしろオーディブルなら読めてしまう。

聴いて内容が流れてしまうのではないかと心配になるかもしれませんが、肝心な部分は意外と頭に残っています。「全部きちんと読まなきゃいけない」という読書の呪縛やハードルを下げる意味で、「とりあえず聴く」のはどうでしょう。

文章を楽しみたい本は「紙」がおすすめ

文章を楽しみたい本は、紙の本。逆に、情報だけ知りたい本は聴くだけ。そんな風に私は読み分けています。


なので、最近オーディブルでは「講談社ブルーバックス」シリーズをよく聴いています。科学系は本で読むのは辛いけど、トピックとしては知っておきたい。オーディブルに一番向いていると思っています。

場合によっては、読みたい本を聴くためだけに、車で移動したりもしています。オーディブルによって圧倒的に読書量が増えました。

電車移動が意外に本が読めたり、勉強が進むという方もいますよね。私の知人の編集者は、家だとなかなか本が読めないので、本を読むためだけに電車で移動するそうです。電車であれば移動しても数百円程度ですし、定期券内であればお金はかかりません。本を読むのに疲れたら、知らない街で降りてぶらぶら散歩してみるのもいい。ちょっとお出かけの楽しさも出てきておすすめです。

(角田 陽一郎 : バラエティプロデューサー/文化資源学研究者)