昨年末にシャオミが発表したEV(写真:ロイター/アフロ)

中国の新車販売台数は2023年に世界で初めて3000万台を超え、輸出台数でも日本を抜き世界一になる見込みだ。

その牽引力はEV、PHV(プラグインハイブリッド)などの新エネルギー自動車で、10〜12月には四半期のEV販売台数でBYDが初めてアメリカのテスラを上回りトップに立つなど、中国メーカーの存在感も一段と高まっている。

一方で、2024年は市場の伸びは予想されるものの、それを上回る新車の投入が計画され、選別と淘汰が進む1年になると見られている。生き残りのカギを握る要素として、有力メーカーが取り組むのが「スマートフォンとの連携」だ。有力メーカー3社が独自OSをEVに搭載し、「自動車3.0時代」が幕を開けるとも言われている。

ポルシェに対抗、若者向けEV

「15〜20年以内に世界トップ5に入る自動車メーカーを目指す」

スマートフォン世界3位のシャオミ(小米科技)を率いる董事長兼最高経営責任者(CEO)の雷軍氏は、2023年12月28日に開いたEVセダン「SU7」の発表会で野心的な目標を宣言した。

中国で現在のEVブームが始まったのは2020年だ。テスラが2019年12月に上海工場を稼働し国産の「モデル3」を市場に投入したことで市場が拡大、2010年代半ばに事業を立ち上げた新興EVメーカーの収益も好転した。その後、異業種参入が相次いだが、最も注目された1社が2021年に参入を表明したシャオミだった。

SU7はシャオミにとって3年近い年月と巨額の開発費を投じた最初の製品になる。

雷氏が発表会で何度も引き合いに出したのは、テスラのモデルSとポルシェのタイカン(ターボS)だ。航続距離やモーター最高回転数、最高時速、時速100キロへの加速スピードがいずれも両車種を上回ると説明し、性能を誇示した。

だが、シャオミのEV参入は当初から「今から開発を始めても、販売を始めるころには市場環境はいっそう厳しくなっている」と疑問視されていた。業界の懸念は現実となっている。

中国自動車工業協会が1月11日に発表した2023年の新車販売台数は前年比12%増加し、3009万4000台に達した。2桁増は2016年以来7年ぶりとなる。

メーカー別の戦績を見ても、同62%増の302万台のBYDを筆頭に多くのEVメーカーが販売を伸ばした。だが、実際には各社は販売を増やすために値下げに走っており、採算悪化を嫌って中国EV勢の株価は低迷が続く。

2023年10月にはIT大手バイドゥ(百度)が出資する威馬汽車技術(WMモーター・テクノロジー)が破産申請に追い込まれた。2024年は日本や欧州の自動車メーカーの中国市場へのEV投入が本格化し、弱肉強食がより鮮明になると予測されている。

シャオミに勝算はあるのか。スマホを展開する同社は若年層に強力なファン基盤を持ち、それなりに善戦するとの分析はあるが、テスラのモデル3、モデルYも年明け早々に値下げしており、SU7がベンチマークにしたモデルSとタイカンのターボSと同水準の1000万〜2000万円台に設定するのは現実的でないだろう。

SU7の価格はまだ公開されていないが、スマホと同じようにお得感を打ち出す価格になるのではとの声が多い。

自動車業界のアンドロイド陣営

シャオミは2023年10月に自社のスマホ向けOSを刷新した「HyperOS」をリリースし、SU7にも搭載した。

EVの市場拡大と競争激化で、差別化のカギになるのが自動運転機能などソフトウェアだと言われる。

自動運転が進むとドライバーは運転以外にさまざまなことができるようになる。EVが「走るスマートフォン」に向かう過程で、自動車メーカーとスマホメーカーの距離もぐっと近づいている。

自社のOSや自動運転技術を外部に提供せず、EVメーカーとして世界上位を目指すシャオミに対し、ソフトウェアを自動車メーカーに開放し共存共栄の道を探るのがファーウェイ(華為技術)だ。

ファーウェイはアメリカ政府の規制を機に自動車ビジネスに本腰を入れるとともに独自OSの開発を加速、2020年に「HarmonyOS」を発表した。

2022年には中堅自動車メーカーの賽力斯集団(セレス・グループ)と共同開発し、HarmonyOSを搭載したSUVのEV「AITO(問界) M5」を発売した。

同車種はファーウェイのスマホやスマートウォッチと相互接続され、車内カメラでビデオ通話したり、スマートウォッチを自動車のキーとしても利用できる。


自動運転中のAITO(写真:筆者撮影)

2023年前半までは目立った実績を残せなかったAITOブランドだが、同年9月にマイナーチェンジして発売したSUVタイプのPHV「M7」が発売2カ月半で10万台の受注を達成し、12月下旬に発売した50万元(約1000万円)前後の「M9」は予約が3万台を超えるなど、勢いを強めている。

マーケへの関与を強めたファーウェイ

ファーウェイは当初、サプライヤーの役割に徹するとしていたが、しだいに開発やマーケへの関与を強め、ファーウェイのOSを搭載する複数の自動車メーカーと統一ブランド「鴻蒙智行(HIMA, Harmony lntelligent Mobility Alliance)」を立ち上げ、自動車関連事業を分離して新会社を設立すると昨年11月に発表した。

新会社には国有大手の長安汽車が関連会社と合わせて最大40%出資することが決まっており、ほかにも複数の自動車メーカーが出資を計画している。地方の無名メーカーであるセレスがファーウェイの力を借りてEVメーカーにアップグレードできたことから、EVシフトに苦戦する既存メーカーの駆け込み寺としての存在感を高めている。


上海のファーウェイの旗艦店ではスマホやPCと車が同じ場所で売られている(写真:筆者撮影)

アップルに対抗してアンドロイド陣営が形成されたように、HarmonyOSを軸にした「ファーウェイ連合」は、2024年にBYDの対抗馬に成長する可能性がある。

魅力的なOSを持っていたことから、自動車メーカーに買収されて息を吹き返したスマホメーカーもある。

民営大手の浙江吉利控股集団(Geely、以下吉利)」の李書福会長は2021年秋、武漢市にスマホメーカー「湖北星紀時代科技」を設立し、翌2022年、スマホメーカーMeizu(魅族科技)を吸収合併して「星紀魅族」と社名を変えた。

Meizuは2009年に中国企業で初めてスマホを発売し、アリババグループから資金調達するなど、初期の中国スマホ市場を牽引する存在だったが、その後シャオミやOPPOなど後発企業に押されて衰退、2021年のスマホの国内シェアは1%を割っていた。

ボルボ・カーも傘下に持つ吉利は、Meizuが中国スマホ市場初期から独自技術を蓄積し、アンドロイドOSをカスタマイズした「Flyme OS」を開発していることに目を付けたのだ。吉利はBYDやファーウェイに対抗するために、そしてMeizuは自らの生存のために互いをパートナーに選んだ。

吉利とボルボの共同ブランド「リンク・アンド・コー」が2023年9月に発売したPHV「08」シリーズには、星紀魅族が自主開発したスマートコックピットシステムが搭載された。

Meizuのスマートフォンを持って自動車に近づくと自動でロックが解除され、車内のディスプレイにスマホの画面を映して操作できるなど、スマホと自動車の連携を売りにしている。


吉利とボルボの共同ブランド「リンク・アンド・コー」(写真:筆者撮影)

星紀魅族は2023年11月、自動車向けのOS「無界OS(Flyme OS)」、自動車向けソフトウェアソリューション「Flyme Auto」を吉利とボルボの共同EVブランド「Polestar」や、吉利のフラッグシップEVセダン「銀河(ギャラクシー)E8」に搭載し、さらにMeizuブランドの新車種「MEIZU DreamCar MX」を2024年に発売することも表明した。

Meizuは「自動車を操作するスマホ」に定義しなおすことで、スマホ市場でも3年後に中国5位を狙う目標を掲げている。

スマホで操作できるEVは新たな競争軸に

スマホで操作できるEVは新たな競争軸となっており、鍵の差し込み口がないEVも登場している。星紀魅族のトップは中国メディアの取材に対し、「ファーウェイとシャオミ、そして当社のOSは自動車3.0時代を代表する存在だ」と語った。

EVメーカーとスマホメーカーの融合は、スマホの世界シェアで2位だったファーウェイが凋落した後も、中国メーカーが依然として3〜5位を占めているからこそ起きる事象だろう。それが中国市場に限ったトレンドなのか、あるいは自動車業界の世界的なゲームチェンジに影響するのか今後1〜2年で見えてきそうだ。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)