能登半島地震で全壊した石川県珠洲市の住宅(撮影:大谷哲範氏)

能登半島地震の発生から2週間が経過したが、孤立した集落で食料や衛生用品にも事欠く被災者が現在も数多くいる。そうした中、石川県珠洲市に赴き、ニーズ調査などに従事した緑水の森支援活動・一般社団法人JAST(日本ソーシャルセラピストアカデミー)代表の大谷哲範氏に、被災者の実情やボランティア活動の課題についてインタビューした。

――今回、支援活動にかかわった経緯について教えてください。

全国社会福祉協議会から現地に派遣されているスタッフと打ち合わせの後、石川県珠洲市に赴きました。私を含めて首都圏から2人、富山県内の2人の4人体制でニーズ調査や物資支援にかかわりました。

私自身は東日本大震災時に、発災まもなくして津波被害が最も大きかった宮城県石巻市などに入り、被災者支援にかかわった経験があります。以来、現在に至るまで、心のケアやコミュニティー支援活動を続けています。

富山県小矢部市を拠点に支援活動

――今回、どのような支援活動を行いましたか。

神奈川県藤沢市の自宅を1月10日に出発し、支援拠点の富山県小矢部市に到着。当日午後から、ボランティア受け入れ環境などの整備や拠点設営に従事しました。翌11日は物資の荷下ろし、仕分けなど支援のための段取りに費やしました。そして12日早朝から被害が最も大きい石川県珠洲市に入り、支援活動に従事しました。


ストックヤードおよび宿泊環境の整備後、食料、衛生用品、毛布など約3.5トンの支援物資を用意した(撮影:川嶋茂雄氏)

被災地では、最初に指定避難所となっている珠洲市の中学校や周辺の在宅被災者宅を訪ね、自治体や社会福祉協議会、フードバンクなどから提供を受けた物資を届けるとともに、被災した方々のニーズの聞き取りや意見交換を行いました。

――避難所の様子はどうでしたか。

私たちが最初に訪れた中学校は300人規模の大規模避難所で、食料は一定程度届いていました。しかし、水道は復旧しておらず、電気は自家発電のみ。被災者の方々はお風呂にも入れない状態が続いていました。

衛生用品はまったく足りておらず、清拭スプレーやウェットティッシュ、携帯用トイレ、携帯カイロなどを届けたところ、たいへん喜ばれました。

珠洲市内のさらに北東にある中学校では、被災者が暖房も行き届かない体育館で毛布にくるまって過ごしていました。隣にある公民館は新しい建物でしたが、避難所になっていませんでした。最初に体育館を避難所にする決まりがあったのだろうと考えられます。


大谷哲範・緑水の森支援活動・一般社団法人JAST代表/1970年代後半よりキーボーディストとして活動。尾崎豊、稲垣潤一、織田哲郎などミュージシャンのレコーディング・ツアーサポートに参加。東日本大震災直後から、被災地で心のケア、音楽ワークショップなど支援活動に従事(写真提供:JAST)

この地区では自宅で生活する人たちが多く、いずれ公民館も開放されると思われます。ただ、外部支援者は1人いただけで、ほかは被災した住民自身が自力で切り盛りしていました。

この中学校の避難所は在宅被災者の皆さんともコミュニケーションを取っていました。

疲弊しているスタッフも見受けられ、被災した住民と力を合わせて対応していました。ここでは在宅被災者も含めて分け隔てなくニーズを聞き取り、限られた食料を分配していました。

高齢者だけでの自主運営の事例も

――ほかの場所ではどうでしたか。

この中学校の避難所まで通うことのできない人たちのコミュニティーがあるのではと考え、海沿いの道を南下し、地区の公民館的な役割を持つ施設にたどり着きました。


一般社団法人チーム王冠(宮城県石巻市)から届いた支援物資(撮影:川嶋茂雄氏)

ここは在宅の人たちが集まる場所になっていました。自宅の片付けをしつつ、暖を取りたい被災者15〜16人が集まり、高齢者だけで自主運営していました。衛生用品がかなり不足している印象で、支援物資の衛生用品を届けてきました。

――情報発信や情報共有はできているのでしょうか。

七尾市のように比較的交通の便が良い場所では、支援物資も集まるようになってきているようです。珠洲市内でも大規模避難所には食料は潤沢にありました。仮設トイレの設置も進み、水洗トイレも一部にはありました。

他方、市街地から離れた地区にある避難所は事情が異なります。情報発信や避難所同士の連絡、情報共有がはうまくできていないため、物資の偏りがみられました。


道路の損傷がひどく、放置されたままの車両も(撮影:大谷哲範氏)

――大谷さんたちのチームは、どのように受けとめられましたか。

今回、みなし避難所と呼ばれる場所も訪問しました。これは被災者宅での自主運営の避難所です。日中に訪れた時は人が少なかったので、近隣を回り、自宅を修繕している人を見つけて何人かに声をかけたのですが、ものすごく警戒されました。

ボランティアが入っていないために、その存在自体が知られていないのです。私たちが支援に当たっていることを説明し、簡易トイレなどの支援物資をお渡ししたところ、たいへん喜ばれました。

SNSなどでは迷惑ボランティアがたくさん来ているといった情報が拡散されています。そのため、私たちのような支援者が行っても、どのように接したらいいかわからない人が多いのが実情です。

厳しい道路事情、二次災害の危険も

――道路事情や安全上の留意点について教えてください。

珠洲市につながる道路は大渋滞が起きていて、市内に入ることすら難しいのが実情です。雪も降っており、装備が不十分だとトラブルに見舞われる可能性も少なくありません。相次ぐ余震や降雨・降雪で地盤が緩み、地滑りなどの二次災害も懸念されます。道路上には落石がごろごろしています。

――今後の支援活動の見通しや課題は。

珠洲市は道路事情が悪く、斜面の崩落など危険な場所が多い。仮設トイレの設置もまだ一部にとどまります。そのため、災害ボランティアセンターを開設したものの、現時点ではボランティアを受け入れることができていません。

今後は、被災の少ない周辺の都市からのボランティアバスの定期的な運行の仕組みづくり、避難所間の連携のためのコーディネート、在宅被災者も等しく支援が受けられ、誰一人取り残さないための活動の実践が望まれます。

(岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト)