精神疾患は予防と早期治療が大切な理由をご存じですか? 心の不調のサインも解説
精神疾患は治りが悪いと言われることがあります。そのためにも、心の不調にいち早く気づき、治療の必要があれば速やかに開始することが大切。でもどのようなサインに注意すれば良いのでしょうか? 梅屋敷森田クリニックの森田先生に、「注意したい心のサイン」についてMedical DOC編集部が聞きました。
監修医師:
森田 桂子(梅屋敷森田クリニック)
東邦大学医学部医学科卒業。東邦大学医療センター大森病院にて研修。東邦大学医学部精神神経医学講座、東邦大学医療センター大森病院メンタルヘルスセンター、横須賀市立うわまち病院精神神経科、財団法人精神医学研究所附属東京武蔵野病院、東邦大学健康推進センター(学生相談室)、東邦大学医療センター大橋病院心療内科などを経て現職。非常勤勤務歴は、明治学院大学非常勤講師、目黒区保健所相談、品川児童相談所、産業医。
精神疾患とはどんな病気? うつ病・統合失調症・心身症とは違う? 早期発見・治療が重要な理由とは?
編集部
精神疾患とはどんな病気のことを言うのですか?
森田先生
精神疾患とは心身にさまざまな影響をもたらす疾患のことをいいます。精神疾患を招く要因は主に、「心因(ショックなことがあった、失恋した、などの心理的な要因)」「生物学的要因(脳内の神経伝達物質などの体質的な要因)」「社会的要因(会社、部活などの環境的な要因)」の3つに分類されます。
編集部
代表的な病気には、どのようなものがありますか?
森田先生
統合失調症や気分障害、てんかん、アルコール依存症などがあります。それから最近注目を集めているADHDや発達障害も、精神疾患の一種です。
編集部
よく耳にするうつ病も精神疾患ですか?
森田先生
はい。うつ病は「気分障害」のひとつです。気分障害とは気分の波が症状として現れる疾患で、うつ状態のみが認められるものをうつ病、うつ状態と躁状態を繰り返すものを双極性障害と言います。
編集部
心身症という言葉を聞くこともありますが、これは精神疾患とは異なるのですか?
森田先生
はい。精神疾患は心の病気ですが、心身症は心の病気ではなく体の病気です。ストレスで発症したり、悪化したりする胃潰瘍、喘息などのような身体疾患を指します。
編集部
精神疾患は早期発見が大事と言われますが、それはなぜですか?
森田先生
精神疾患だけに限らないことですが、病気はできるだけ早く症状に気づき、速やかに治療を開始すればするほど、回復が早いことが知られています。たとえば、統合失調症の発病から治療開始までの平均期間は約1年とされていますが、発症から5年以内の治療開始が効果的と言われています。
精神疾患を予防するにはどうすればいいかを精神科医が解説 一次予防とは? 精神疾患の多くはストレスが原因?
編集部
精神疾患を予防するにはどうしたら良いのですか?
森田先生
たとえば職場におけるメンタルヘルス対策では、予防法として「一次予防」「二次予防」「三次予防」が設定されています。一次予防の目的は、病気の発症を未然に防ぐということ。ここで大事なのはストレス対策で、ストレスにうまく対処するとともに、ストレスをできるだけ減らす生活を心がけることが重要です。
編集部
ストレス対策とは、具体的にどのようにすれば良いのですか?
森田先生
たとえば会社に所属している場合には、職場全体におけるストレスコントロールが重要です。仕事の量や質、人間関係などを見直し、ストレスの基になりそうな要素を排除する適切な配慮などに取り組むことが大切になります。
編集部
最近では、社員に対してストレスチェックも行われていますね。
森田先生
はい。職場全体でストレスコントロールを行うのと同時に取り組む必要があるのが、社員一人ひとりに対するストレスチェックです。これはチェックテストを行うことで一人ひとりのストレスの度合いを計るもの。会社全体でストレスコントロールを行う必要性があるかどうか実情を把握するうえで重要ですし、また、ストレスチェックの点数が高い(=ストレスの度合いが高いと思われる)人には産業医面談を勧めるなど、本人への気づきを促す役割も果たしています。
編集部
会社全体のストレスコントロールと、社員一人ひとりのストレスチェックが必要なのですね。
森田先生
はい。そのほかにも、自分では気づかなくとも心の調子を崩しかけているということもあります。そのため周囲が互いに目を配り、「怒りっぽい」「常にイライラしている」「すぐに涙を見せる」など、「ちょっと具合が悪そうだな」と思われる人をいち早く探して、産業医やカウンセラーなどの相談窓口につなぐ配慮も大切です。
編集部
そのほか、一人ひとりができることはありますか?
森田先生
ストレスチェックを活用するなどして、自分のストレス状態にいち早く気付くことと同時に、生活習慣の見直しも重要です。睡眠が取れているか、栄養はちゃんと取れているかなどを改めて確認してみましょう。
編集部
一次予防で食い止められれば、その後、病気を発症せずに済むのですか?
森田先生
発症する確率を下げることができます。二次予防では疾病の早期発見と治療や対応、三次予防では社会復帰のためにリハビリテーションやリカバリーを行います。つまり、二次予防ではすでに精神的不調のある人が対象になり、三次予防では精神疾患を抱えた人が対象になるということです。そのため一次予防でくいとめることができれば、病気が発症する確率を下げることができるのです。
編集部
なるほど、一次予防がとても大事なのですね。
森田先生
はい。一次予防がきちんとできている家庭や職場なら、たとえ精神疾患を発症したとしてもその後の再発を予防したり、社会復帰がスムーズになったりすることがわかっています。
心の健康・メンタルヘルスケアのためにできる予防方法とは? うつ病など精神疾患に気付くサインはある?
編集部
具体的にどんなサインに気づけば良いのでしょうか?
森田先生
一例として、気分や感情の変化に注意するようにしましょう。以前に比べて「イライラしやすくなった」「気分が落ち込みやすくなった」といったことには注意が必要です。また、「感情の起伏がなくなる」ということもあるかもしれません。それから食欲や睡眠の変化にも注意しましょう。「食欲が低下した」「眠れなくなった」ということもあれば、「食欲が止まらない」「どれだけ寝ても足りない」ということもあるでしょう。こうした変化に注意するようにしましょう。
編集部
ほかに、どんな点に注意すれば良いでしょうか?
森田先生
「朝なかなか起き上がれない」「お風呂に入れなくなった」「食事をするのが面倒になった」「忘れ物が多くなった」「他人の愚痴やネガティブな話を受け付けなくなった」など、行動に変化が見られるのも要注意。それから、「操作ミスが増える」「判断ミスが多くなった」など、判断力が低下するのも注意が必要です。これらは精神疾患の初期症状として多く表れるものです。
編集部
なるほど、さまざまな症状が出るのですね。
森田先生
それから、「気持ちが悪い」「めまいがする」などの不定愁訴があるにも関わらず、内科や婦人科を受診しても、異常が見つからない場合もあると思います。そのようなときは、「もしかしたらメンタルの不調かも……」と考えてみることも大切です。
編集部
そのような状態がどれくらいの期間続いたら、受診した方が良いのでしょうか?
森田先生
目安としては2週間程度と考えて良いでしょう。ただし、その影響で日常生活や仕事に支障が生じている場合には、早めに相談した方が良いかもしれません。また、自分では問題ないと思っていても、家族や上司に受診を勧められることもあると思います。そのような場合には素直に受診するようにしましょう。病気が見つからなくても、より良い仕事や生活を実現するためのアドバイスがもらえるかもしれません。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
森田先生
精神科で処方する薬剤は、1995年くらいから革新的に良くなっています。昔ほど、薬による副作用も出なくなっていますし、うつ病や統合失調症などを経験しても結婚や出産、仕事などをきちんとできる人が増えています。「本当は、自分はこうしたいのにできない」など、日常で何か困っていることがあれば、気軽に精神科を受診してみてください。特に、子育てや介護などで困っている場合には自治体が提供しているサービスなどへお繋ぎすることもできます。悩みは一人で抱えず、困ったことがあったら気兼ねなく精神科に相談してみてほしいと思います。
編集部まとめ
精神科を受診するのをためらう人も多いかもしれません。しかし一人で悩みを抱えて解決策が見つからない場合などは、専門家に頼るのも手。「病気を見つけてもらう場所」ではなく、「現在よりも良い生活を送るためのアドバイスがもらえる場所」と思って、気軽に受診してみるのも良いかもしれません。
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