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フットウェアブランドのキジック(Kizik)は、靴ひもをほどくことなく着脱できるスリッポンスニーカーを製造している。そして、マーケティングチャネルをどのようにして多様化するかを考えたとき、現在使用している靴に不満を持っているかもしれない顧客にリーチできる場所、TSA(運輸保安庁)の旅行用手荷物検査トレーにたどり着いた。

TSAの容器とセキュリティレーンでの広告を実施



キジックは2023年、TSAのトレーとセキュリティレーンでの広告を実験し、シアトル、タンパ、シャーロット、ワシントンDC、ヒューストンで4週間のキャンペーンを行った。「そのまま足を入れて(Step right in)」や「ハンズフリーで行こう(Go hands-free)」などのタグラインが、顧客が自分の靴を入れる場所に掲示され、商品の使いやすさを宣伝した。マーケティング担当バイスプレジデントのブレット・スウェンセン氏は、このエリアにあるほかの壁面広告やジオターゲティング動画広告などで、キャンペーンを最大限に活用したと語る。しかし、旅行者が空港の写真にキジックをタグづけしはじめたことで、同氏はこのキャンペーンが成功したと気づいた。

「キャンペーンはたくさん共有され、人々は『うまいところに広告を出すなあ』と言っていた。列を進む人々にとって、この広告は理にかなっている。販売や購入のコンバージョンの外にいる人たちのあいだで話題になり、共感を呼ぶと信じていた。だから、このような口コミが聞けてうれしかった」と、同氏は話す。

旅行ブームにより増えるクリエイティブ広告



ブランドへの認知を広める独自の機会として空港に目をつけるブランドは増えている。旅行者の多くは、食事やショッピングのため早めに到着し、飛行機の出発を待つあいだ、囚われの聴衆のような立場に置かれる。人数も非常に多く、運輸保安局の調査によれば、2023年に入ってから過去最多となる280万人以上の旅客が利用しており、パンデミックのために一時低調になった旅行がブームになってきたことを示している。そして、主要な航空会社のインフラが更新され、ニューヨークやピッツバーグ、ロサンゼルスなどの空港でターミナルの刷新が進んでいる今、より多くのデジタルサイネージや大型の壁面、内蔵型ディスプレイにクリエイティブな広告が増えつつある。

ブランドにとって、空港でのマーケティングは提携によりさらに効果を期待できる。屋外広告代理店のジェーシードゥコー(JCDecaux)が2021年に行った調査により、乗客はテレビ、印刷物、オンラインで見たブランドより、空港で見たブランドに高い価値を感じたことが判明している。たとえば手荷物やスリッポンシューズなど旅行関連性のあるブランドは、乗客が今直面している問題に対処できるという追加の利点もある。

空港での広告効果を測定するのは難しいが、利点の一部は自社ブランドを新しいエリアに紹介できたことだと、キジックのスウェンセン氏は語る。キジックは、未開拓市場を識別した結果として空港を選択した。そしてキャンペーン実行後、対象分野でGoogle Analyticsのトレンドが5%から10%増加したと、同氏は話した。そして、ジオターゲティングの動画広告と任意キーワードの検索により、キジックはこのキャンペーンから得たデータを、将来その地域における小売店や卸売パートナーへの売り込み際に活用することができたのだ。

「考えるまでもない選択だった。ほかのブランドは、『人々が空港でせわしなく動いているとき、空港の容器に広告を出すことは筋が通っているか?』と、この分野にためらいを感じるかもしれないが、私はこのやり方が我々のブランドにぴったりだと感じた」と、スウェンセン氏は話した。

空港は市場の延長



屋外広告の代理店で、複数の空港でのキャンペーンに関与したクァンメディアグループ(Quan Media Group)のCEOであるブライアン・ラッパポート氏は、空港が市場の延長と考えるようブランドに助言していると語る。「ブランドが屋外広告のことを考えるときは、屋外広告板や地下鉄を思い浮かべている。どれだけ多くの人々が空港を使って旅行しているかを考えていない。特に上位10のDMA(指定市場エリア)においては、空港における広告を取り入れることが重要になっている」。より多くのブランドが、ボーディングブリッジ内のラッピングや、機内動画による広告など、新しい機会を目にすることで、空港での広告に関心を持つようになってきたと、同氏は話す。

ラッパポート氏が注目している現在のキャンペーンのひとつは、バッグブランドのダグネドーバー(Dagne Dover)によるもので、ダラスやオースティン、ニューヨークの空港で2023年11月から広告を出してきた。この壁面広告にはきれいに整理されたダッフルバッグが載っており、セキュリティチェックポイントや手荷物受取所、すなわち乗客が現在の手荷物で面倒な経験をし、アップグレードを検討するような場所に配置されている。今後行われるもうひとつのキャンペーンは、ファンタジースポーツブランドのもので、デジタル充電ステーションに設置され、人々がすでにスマートフォンを使用しているときに目を引くことをめざしている。

「関連トピックの機会は山のようにある。手荷物受取所にあるすべての柱にラッピングできるということを知らないブランドが多いのだと思う。空港の中で、到着客の100%が通過する重要な場所を事実上借り切ることができる」と、ラッパポート氏は語る。

空港が施設を近代化し、更新するにつれ、さらに多くのマーケティングの機会が期待できる。スクリーンや大きな壁面は、ディスプレイとして機能することを考慮して建設されている。ロサンゼルス国際空港(Los Angeles International Airport)には、一連のスクリーンに流される映像が相互に連動するような「ストーリーボード」が設置されている。ラガーディア空港(LaGuardia)のリニューアルされたターミナルBには、壁面サイズのデジタルスクリーン、バナー、デジタルネットワークがあり、さまざまな広告の機会がある。この新しい潮流には、タイムズスクエアにある3D広告のような、さらに多くのクリエイティブな機会が生まれることを期待していると、ラッパポート氏は話す。

QRコードを使用する広告も増えつつある。プライベートターミナルや専用チェックインエリアから自家用ジェット機で出発するような超富裕層の顧客に対応する機会もある。

コストの観点からみると、価格は空港の規模と広告のタイプによって異なる。大規模な空港に大きな広告を設置するのは「ソーホー(SoHo)の大きな壁面やサンセット(Sunset)の広告板」並みの価格だと、ラッパポート氏は述べる。複数のスクリーンでデジタルネットワークキャンペーンを継続的に表示するのは、7万5000ドル(約1070万円)程度の価格になることもある。しかし、1カ月の印刷広告の配置で2万5000ドル(約355万円)など、より安価な選択肢もある。比較すると、タイムズスクエアの広告板は1日で5000ドル(約71万円)から5万ドル(約710万円)で、カリフォルニアの高速道路の広告板は1カ月で1500ドル(約21万3000円)から3万ドル(約426万円)だ。

「高価な選択肢もあるが、それほど多額を支払わずに広告を行う方法もある。戦術的に動けばいいだけだ」と、同氏は語った。

[原文:How brands like Kizik are getting creative with airport advertising]

Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)
Image via Kizik airport bins