和菓子店とらや「891円モーニング」の超正直な感想

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和菓子の老舗とらやが運営するカフェ「トラヤあんスタンド」のモーニング。その実力や、いかに…!?(筆者撮影)/配信先では写真をすべて見られない場合があります。本サイト(東洋経済オンライン)内で御覧ください

喫茶店やレストランが、朝の時間帯にドリンクやトーストなどのメニューを割安価格で提供するモーニングサービス。名古屋の喫茶店が始めた文化とされていますが、最近では大手外食チェーンも数多く提供しています。

そんなチェーン店の外食モーニングをこよなく愛するライター・ブロガー、大木奈ハル子さんがお届けする本連載。第59回となる今回、訪れたのは「トラヤあんスタンド」です。

ひそかに飲食チェーンがしのぎを削っているジャンル、それがモーニングです。カフェやハンバーガーショップ、おそば屋さんなどはもちろんのこと、最近では焼肉店やラーメン店など多種多様な店舗が独自の朝限定メニューを展開しています。

今回ご紹介するのは「トラヤあんスタンド」のモーニング。「トラヤあんスタンド」は、有名和菓子店「とらや」が運営するカフェなのですが、モーニングが食べられるのは「青山一丁目店」のみという、レアメニューです。

本当においしいものを、おしゃれなお店でちょこっと食べる。パンとスープをセットにしたシンプルな朝メニューをいただいてきました。

とらやの新業態は、若者とインバウンドに訴求するトラヤあんスタンド

「トラヤあんスタンド」は、創業約500年という日本最古の和菓子店として名高い「とらや」の新業態です。2003年にスタートした「トラヤカフェ」の進化版として2016年にスタートしました。2024年現在、東京を中心に4店舗を展開しています。


トラヤあんスタンド青山一丁目店は、レトロビルの地下1階。タイル貼りの外観がかわいい(筆者撮影)

「あんのある生活を」をテーマに、あんこや和菓子にあまり馴染みのない、若者層や海外の人をターゲットにしていることを公言していることもあり、店内はインテリアもおしゃれ。


あんペーストのようなやわらかなフォルムの2匹の虎は仲條正義氏が手がけた(筆者撮影)

北欧ナチュラルなムードを醸し出す、ホワイトと木目を基調にしたシンプルな内装は、今風で乙女心をくすぐります。

背筋がシュッと伸びる朝

シンボルは壁にタイルで描かれた、ユーモラスな2匹の虎。これは、「資生堂パーラー」や「松屋銀座」のロゴも手がけたアートディレクターの仲條正義氏によるもの。

……という説明を聞いて、「おっ、なんかスゴい感じのトコなんやな?」と思われた読者の方もいらっしゃると思いますが、店を訪れた筆者も「おっ、なんかスゴい感じのトコなんやな……」と思っていました。

でも、こういう背筋がシュッと伸びる朝も、気持ちのいいものなんですよね。


シンプルなパッケージとロゴが心くすぐる、ガラス瓶入りのあんペーストは税込972円より(筆者撮影)

ショーケースにはカラフルな焼き菓子や、さまざまなフレーバーのあんが入ったガラス瓶がずらりと並び、とにかく目に入るもの全てがかわいらしく、心が踊ります。

マーケティング戦略に違わぬターゲット層に訴求できているようで、35席ほどの店内のイートインスペースは、テーブル席を中心にチラホラ埋まり、その全員が20代から40代とおぼしき女性でした。

トラヤあんスタンドのモーニングメニューは4種類

「トラヤあんスタンド」でモーニングを実施しているのは、「青山一丁目店」のみです。販売時間は、朝9時から11時。


トラヤあんスタンドのモーニングメニューは、スープとパンのセットが4種類(筆者撮影)

モーニング限定メニューは「朝限定の季節のスープSセット」です。朝だけ限定販売している季節のスープに、パンをセットしたもので、4種類から選べます。

・Aセット あんぱん(こしあん) 税込891円
・Bセット あんトースト(こしあん&黒砂糖とメープルシロップ) 税込971円
・Cセット あんぱん(柚子) 税込951円
・Dセット あんトースト(柚子&こしあん)または(柚子&黒砂糖とメープルシロップ) 税込1021円 

あんはいずれも15g。トーストのあんペーストは税込33円で15g増量できます。また、税込361円追加で、コーヒーまたはほうじ茶を追加したドリンクセットに変更可能です。

普段、100g58円の鶏胸肉や、100g78円の鶏もも肉、もうちょっと高めの豚肉と向き合っている庶民としては、「税込33円で15g増量というのは、はたしてお得なのか……?」と考えてしまうところですが、おそらく、「とらや」と「スーパーのお肉」を比べるのがおかしいのでしょう。


店頭ではあんパンの単品販売もしている。あんパン(こしあん)は税込471円、あんパン(柚子)は税込531円(筆者撮影)

Aセットの「季節のスープS」の単品価格は税込521円、「あんぱん(こしあん)」の単品価格は税込471円なので、別々に買うと税込992円になるため、単純計算すると値引き額は101円でした。

価格設定は決して安くはないものの、別々に買うよりちょっとお得。高級和菓子店「とらや」の姉妹店であることを考えれば、そこまで高くもないという印象をもちました。

小ぶりながらしっとりこしあんペーストずっしりなあんパン

まずは、税込891円のモーニングAセットから、あんパン(こしあん)をいただきます。


トラヤあんスタンドのモーニングAセットは、あんぱん(こしあん)と季節のスープで891円(筆者撮影)

あんパンは小ぶりながらずっしりと重く、薄皮のパンの中にはとろりとした、こしあんペーストがぎっしり入っていました。軽くリベイクされてほんのり温かい状態でいただきました。

水分を多めに含んだもっちりとしたパン生地と、上品なこしあんペーストは相性抜群です。あんはさらさらとした舌触りで甘さ控えめ、軽く熱が入っていることもあり、柔らかくとろけるような食感でした。


パンを割るとこしあんがぎっしり(筆者撮影)

「あんこを知り尽くした、とらやだからこそできたあんパンだなぁ」と感心しきり。癖のない食べやすいあんパンなのですが、今まで食べたことのない、絶妙な粘度のあんペーストを使ったあんパンは、他では食べられない唯一無二の味に仕上がっていました。

2023年12月の取材時の「季節のスープS」は、きのこスープでした。

「とらや」はあんこのエキスパートなので、あんパンがおいしいことは予想していたのですが、スープが予想をはるかに超えておいしく、レストランのようなクオリティで驚かされます。


紙コップのスープは、とろりと濃厚なきのこポタージュでした(筆者撮影)

紙コップの中にレストランの味が潜む

マッシュルームとじゃがいものポタージュなのですが、クリーミーかつ濃厚な味わいです。具材には、大きめサイズのはたけしめじのソテーがゴロゴロ入り、とろりとしたスープにシャキシャキしたきのこのコントラストをプラスします。

ポタージュ自体が、かなり重めのもったりとしたテクスチャーで、飲み物というより食べ物に近い感じ。朝のからっぽの胃袋にしっとりと染み入るような優しさです。じゃがいものほのかな甘みにマッシュルームの芳香が加わり、なんとも贅沢なお味に仕上がっていました。

「とらや」なので、さすがにスープでお店は出さないでしょうけど、個人的にはその期待すらしたくなるほどの美味しさでした。


大きめサイズのはたけしめじがたっぷり入っていました。サイズも大きく、風味が豊かで歯ごたえも楽しい(筆者撮影)

もしフードコートでパンとスープのセットに1000円近く支払い、スープが紙コップ、パンが紙の上に直置きされて出てきたら、怒り出す人もいそうなのに、「トラヤあんスタンド」だとそうはならない。

周囲で朝時間を過ごす女性たちは、にこやかな笑顔でおしゃべりに花を咲かせていました。

とらやの自信を盛り付けに見る朝


トラヤあんスタンドのモーニングDセットは、あんトースト(柚子&こしあん)で1021円(筆者撮影)

筆者自身、トレーを受け取った瞬間は正直なところ、切ないほど質素にも感じたのですが、席に着くころには紙コップにかぶせられたロゴがプリントされたボール紙のスリーブや、トレーの横に添えられた2匹の虎のイラスト入りの紙ナプキン、店内の洒落た内装の相乗効果で次第に納得。

一口食べれば、そのおいしさにねじふせられ、完全に納得することになりました。

「私のような庶民は、さすがにそこまでお呼びではないのかもナア……」と内心思いつつ、しかし、おいしさを考えるとたまには行きたいなとも感じる。そんなジレンマを胸に、ありがたがりながら、ペロリと秒速で食べ終わる。

とっておきを、ちょこっと食べる贅沢なモーニングに、これぞ「とらや」という、500年の歴史の重みを感じた朝なのでした。

編集部注:本記事に登場するメニューの価格は、すべて取材時点のものです。昨今の円安、原材料高騰などの影響を受けて価格が改定されている可能性があります。また、店舗によってモーニングの値段・内容は異なる場合があります。


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(大木奈 ハル子 : ブロガー・ライター)