(漫画:©︎三田紀房/コルク)

記憶力や論理的思考力・説明力、抽象的な思考能力など、「頭がいい」といわれる人の特徴になるような能力というのは、先天的に決められている部分があり、後天的に獲得している能力は少ないと考える人が多いのではないでしょうか。

その考えを否定するのが、偏差値35から東大合格を果たした西岡壱誠氏です。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)編集担当の西岡氏は、小学校、中学校では成績が振るわず、高校入学時に東大に合格するなんて誰も思っていなかったような人が、一念発起して勉強し、偏差値を一気に上げて合格するという「リアルドラゴン桜」な実例を集めて全国いろんな学校に教育実践を行う「チームドラゴン桜」を作っています。

そこで集まった知見を基に、後天的に身につけられる「東大に合格できるくらい頭をよくするテクニック」を伝授するこの連載(毎週火曜日配信)。連載を再構成し、加筆修正を加えた新刊『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売後すぐに3万部のベストセラーとなっています。第97回は受験直前期における、苦手科目との向き合い方について解説します。

受験直前、苦手科目の勉強どうする?


受験勉強において、苦手科目と得意科目のどちらを伸ばすほうが大事と言われているか、みなさんご存じでしょうか?

受験業界では、苦手科目をなくすことが鉄則とされています。苦手を放置していると、本番で得意科目を取りこぼしたときのリカバリーが利かないからです。苦手を克服するほうが、単純に点数の伸び幅が大きいという面もあります。

ただし受験本番が直前に迫ったこの時期、苦手科目の対策に時間を使いすぎるのは危険です。結果的に、全体の点数が下がってしまう可能性が高いからです。なぜ勉強をしているのに点数が下がってしまうのでしょうか。その理由は、『ドラゴン桜』のこちらの場面で説明されています。

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(漫画:©︎三田紀房/コルク)





(漫画:©︎三田紀房/コルク)

いかがでしょうか。苦手科目の対策ばかりしていると、得意科目の力が落ちてしまい、全体の点数が下がってしまうとありましたね。人間は忘れる生き物ですから、どれだけ得意科目でも勉強しないと勘が鈍ってしまいます。

例えば、国・数・英・理・社100点満点ずつの試験で、苦手な数学は50点、ほかは80点取れる実力があるとしましょう。この場合、数学をできる限り伸ばして、ほかの科目と同じように80点まで取れるようにしたいと思う人が多いのではないでしょうか。

しかし、ここで数学を集中的に勉強して80点まで上げられたとしても、ほかの科目の勉強をおろそかにして70点の実力に下がってしまったら、全体としてはマイナス10点です。せっかく頑張ったのに、努力が報われない結果になってしまうのです。

ここで数学の点数を60点まで上げる勉強量にとどめて、ほかの科目をそれぞれ85点まで伸ばせれば、全体としてはプラス30点になります。勉強時間が同じでも、どう配分するかによって大きく結果が変わるわけです。

少し期間が空くだけで、成績が落ちる

もちろんこれは机上の計算ですが、現実に起こりえる話です。

スポーツや音楽などの世界では「練習を1日休んだら3日分下手になる」という言葉がありますが、勉強でも英語の読解やリスニング、数学の計算などはその典型で、少し期間が空くだけで力は落ちてしまいます。

今までの積み重ねがあれば、ちょっと勉強すれば勘は取り戻せるでしょう。ただ、それは以前の状態に戻っただけで、成長ではないのです。ここが受験生にとってはまりやすい落とし穴です。

実際に、私はこの罠にかかりました。東大受験1年目のとき、苦手な世界史が直前まで全然伸びず、不安に駆られてセンター試験の1カ月前からほぼ世界史しか勉強していませんでした。

ほかの科目は3日に1回過去問を解いて、感覚を維持する程度です。その結果、本番では世界史は9割の得点が取れたものの、ほかの科目では点を落としてしまいました。この調整ミスが2次試験の勉強にも響き、不合格になってしまったのです。

一方、東大生はこの塩梅をよくわかっていて、直前期のスケジュールでもきちんと全科目を入れています。

「苦手科目の勉強の合間に、得意科目を息抜きとして入れていた」、「一日のスケジュールの中で、好きな教科をやる時間が楽しみだった」という人も多く、「この科目がヤバいからとにかく一日中やる!」という勢いまかせの勉強はしません。

得意科目でも放置すると忘れる

直前期になると、点数だけでなく精神的な安定を求めて、どうしても受験生は苦手科目の克服だけにフォーカスしがちです。しかし、苦手科目ばかりに気を取られて得意科目の力が下がってしまうのは本末転倒でしょう。いくら得意とはいえ、勉強を止めたら忘れていくだけです。

バランスを考えないと、努力しても全体の得点が下がる結果になりかねません。本番前の勉強での注意点として、ぜひ参考にしてみてください。

(青戸 一之 : 東大卒講師・ドラゴン桜noteマガジン編集長)