ファッション企業も「社員への 株式交付 」で人材定着を狙う:Fashion Briefing
全米の失業率は3.7%という低水準にとどまっているが、Spotifyやハズブロ(Hasbro)のような有名企業による大規模なレイオフのニュースが報じられるなど、労働市場は激しく変動している。これに伴い、ブランドリーダーは社員の忠誠心を育み、長く会社に定着してもらうための方法を模索している。
メンズウェアブランドのバック・メイソン(Buck Mason)の共同創業者、エリック・アレン・フォード氏の場合、正社員全員に会社の株式を付与するという形をとっている。これは、消費財やファッション企業よりもテック企業でよく行われている戦術だが、フォード氏によれば、長期にわたって会社にとどまってくれるであろう、起業家精神のある人材を惹きつける上でよい方法だという。
「当社の最初の従業員だったベサニー(現在はアウターノウン [Outerknown] のデザインディレクターであるマレット氏)は5年間在籍し、ブランドの方向性を作るのに大いに貢献してくれた」とフォード氏は述べた。「彼女がすばらしいチャンスに恵まれたとき、私は本人にそれを選ぶべきだと伝えたのだが、彼女は株式の一部、ちょっとした所有権を手にして我が社を去ることになった。退社する際にブランドも一緒に連れていくことができたのだ」。
フォード氏いわく、バック・メイソンの正社員は全員が5年でストックオプションを取得できる。全従業員に分配されるため、少額ではあるが、ただ毎日出勤する以上のことをしていると感じさせるには十分だという。バック・メイソンは、従業員の持ち株の詳細については明らかにしなかった。
この精神は、バック・メイソンがビジネスを行う上でのほかのやり方にも及んでいる。バック・メイソンの27店舗以上の店長全員が、会社の損益会議に参加する。これは小売業界ではめずらしい戦略だが、社員全員が会社の業績に関与しているという意識を持つのに役立っている。
バック・メイソンは売上高と社員定着率の数字の公表は避けたものの、株式を付与することで従業員を長く雇用できるようになったという。
従業員マネジメント会社オプテラス(Opterus)の営業および業務担当シニアバイスプレジデント、ゲイリー・ストーネル氏いわく、現在の労働市場は複雑である。だが、端的に言うなら、人材を補充するのは簡単だが、人を定着させるのははるかに難しい。米労働統計局によれば、米国における従業員の平均勤続年数は4年である。
米国国税庁は現在、パンデミック時に社員の長期雇用を支援する目的で導入された従業員雇用維持クレジット(Employee Retention Credit)を誤って申請したとする企業に対し、2万通の却下通知を出している。企業は、株式の付与やDEI(多様性、公平性、包括性)イニシアティブへの投資の増加など、他の取り組みに目を向けている。マッキンゼー(McKinsey)によると、従業員の47%以上が、会社に留まる正当な理由としてDEIへの取り組みを挙げている。
「(従業員が辞めるときこそ)離職の真のコストに見舞われるときだ」とストーネル氏は言う。「従業員に対して行ったせっかくのトレーニングが無駄になる。何十万ドルもかけて顧客を獲得し、店舗に誘導したのに、従業員の準備が十分に整っていないために、顧客がすぐに店を出ていってしまう可能性がある。会社は売上を失い、未熟な従業員は経験を積んでいないためにブランドをうまく表現できない」。
ストーネル氏は、バック・メイソンの株式戦略はよいアイデアだが、いくつかのマイナス面もあると述べた。7月に『Journal of Law, Economics and Organization』誌にて発表された研究によると、従業員はストックオプションを受け入れると、その価値を過大評価してしまう傾向があるという。株価は会社の利益と同じだけしか上がらない。つまり、赤字で運営されている不採算企業では、まったく価値がないことになる。
「私は以前、ストックオプションを受けた会社で働いたことがあるが、その会社は結局利益が出なかったので、自分が所有していると思っていた価値はすべて消えた」とストーネル氏は述べた。
フォード氏は、従業員にとってのリスクであることを認めつつも、ストックオプションが意味することについては従業員にオープンにしているという。
「会社が利益を上げていれば、株式はすばらしいものだ」とフォード氏。「つねに多くの資金を調達しなければならなかったり、会社の財務状況について騙されていると思うなら、株式を受け取ることに何の意味があるだろう。私たちは利益を上げている企業であり、何年も利益を上げていることをオープンに共有している。だからこそ、ストックオプションが価値のあるものになっている」。
[原文:Fashion Briefing: Offering company equity is among emerging employee retention strategies]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)
正社員全員にストックオプションを付与
メンズウェアブランドのバック・メイソン(Buck Mason)の共同創業者、エリック・アレン・フォード氏の場合、正社員全員に会社の株式を付与するという形をとっている。これは、消費財やファッション企業よりもテック企業でよく行われている戦術だが、フォード氏によれば、長期にわたって会社にとどまってくれるであろう、起業家精神のある人材を惹きつける上でよい方法だという。
フォード氏いわく、バック・メイソンの正社員は全員が5年でストックオプションを取得できる。全従業員に分配されるため、少額ではあるが、ただ毎日出勤する以上のことをしていると感じさせるには十分だという。バック・メイソンは、従業員の持ち株の詳細については明らかにしなかった。
この精神は、バック・メイソンがビジネスを行う上でのほかのやり方にも及んでいる。バック・メイソンの27店舗以上の店長全員が、会社の損益会議に参加する。これは小売業界ではめずらしい戦略だが、社員全員が会社の業績に関与しているという意識を持つのに役立っている。
バック・メイソンは売上高と社員定着率の数字の公表は避けたものの、株式を付与することで従業員を長く雇用できるようになったという。
真のコストに見舞われるのは、社員が辞めるとき
従業員マネジメント会社オプテラス(Opterus)の営業および業務担当シニアバイスプレジデント、ゲイリー・ストーネル氏いわく、現在の労働市場は複雑である。だが、端的に言うなら、人材を補充するのは簡単だが、人を定着させるのははるかに難しい。米労働統計局によれば、米国における従業員の平均勤続年数は4年である。
米国国税庁は現在、パンデミック時に社員の長期雇用を支援する目的で導入された従業員雇用維持クレジット(Employee Retention Credit)を誤って申請したとする企業に対し、2万通の却下通知を出している。企業は、株式の付与やDEI(多様性、公平性、包括性)イニシアティブへの投資の増加など、他の取り組みに目を向けている。マッキンゼー(McKinsey)によると、従業員の47%以上が、会社に留まる正当な理由としてDEIへの取り組みを挙げている。
「(従業員が辞めるときこそ)離職の真のコストに見舞われるときだ」とストーネル氏は言う。「従業員に対して行ったせっかくのトレーニングが無駄になる。何十万ドルもかけて顧客を獲得し、店舗に誘導したのに、従業員の準備が十分に整っていないために、顧客がすぐに店を出ていってしまう可能性がある。会社は売上を失い、未熟な従業員は経験を積んでいないためにブランドをうまく表現できない」。
ストックオプションを価値あるものにするには
ストーネル氏は、バック・メイソンの株式戦略はよいアイデアだが、いくつかのマイナス面もあると述べた。7月に『Journal of Law, Economics and Organization』誌にて発表された研究によると、従業員はストックオプションを受け入れると、その価値を過大評価してしまう傾向があるという。株価は会社の利益と同じだけしか上がらない。つまり、赤字で運営されている不採算企業では、まったく価値がないことになる。
「私は以前、ストックオプションを受けた会社で働いたことがあるが、その会社は結局利益が出なかったので、自分が所有していると思っていた価値はすべて消えた」とストーネル氏は述べた。
フォード氏は、従業員にとってのリスクであることを認めつつも、ストックオプションが意味することについては従業員にオープンにしているという。
「会社が利益を上げていれば、株式はすばらしいものだ」とフォード氏。「つねに多くの資金を調達しなければならなかったり、会社の財務状況について騙されていると思うなら、株式を受け取ることに何の意味があるだろう。私たちは利益を上げている企業であり、何年も利益を上げていることをオープンに共有している。だからこそ、ストックオプションが価値のあるものになっている」。
[原文:Fashion Briefing: Offering company equity is among emerging employee retention strategies]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)