南海電鉄の特急「ラピート」。難波駅を出発した列車は勾配を駆け上がって新今宮駅に到着する(記者撮影)

南海電鉄で乗降人員が最も多いのは難波駅。では2番はどこかというと、難波を出発した特急列車が2分後、最初に停車する新今宮駅だ。

100駅ある同社の2022年度駅別1日平均乗降人員を見ると、難波駅が19万7258人とほかを圧倒。近鉄線・阪神線・大阪メトロ御堂筋線などと乗り換えられる地の利を生かしている。2番手の新今宮駅は8万5999人と健闘する。新今宮駅は1966年の開業で、現在の同社線の駅のなかでは和歌山大学前(2012年)に次いで2番目に新しい。

JR線をまたぐ乗換駅

南海電鉄の路線は大きく分けて2系統ある。1つは難波から和歌山市を結ぶ南海線。空港線経由の特急「ラピート」が関西国際空港アクセスを担うほか、特急「サザン」が全線を走る。サザンの一部は和歌山港まで足を延ばして徳島へのフェリーに連絡する。

もう1つは高野線。その名の通り、高野山の極楽橋までを結ぶ。近年はとくに外国人旅行者の姿が目立つ特急「こうや」、難波―橋本間のビジネス特急「りんかん」、泉北高速鉄道に直通する「泉北ライナー」が活躍する。高野線の路線自体は、“都会の秘境駅”として知られる汐見橋を起点とするが、橋本・高野山方面の列車は難波を発着駅とする。

難波から岸里玉出付近までは高野線と南海線の列車が並走する線路別複々線区間。新今宮駅の利用客が多いのはJR環状線・大和路線との乗換駅になっているからだ。南海の新今宮駅はJR線をまたいだ上空に位置するため、前後の線路に勾配がある。


新今宮駅にはすべての列車種別が発着する(記者撮影)


南海電鉄の新今宮駅はJR線をまたぐ高さにある(記者撮影)

東西に走るJRの新今宮駅は地上1階にある東口を出ると、大阪のシンボル通天閣や、スパワールド世界の大温泉、昼間から酔客でにぎわう串カツ屋など、国内外から観光客が集まる新世界エリアがある。

2015年にはドボルザークの交響曲第9番『新世界より』を発車メロディーとして採用、2016年には東口に「通天閣口」の愛称を付けた。反対側の西口は2階部分のホームから階段を上った3階にあり、南海の新今宮駅との乗り換え用となっている。


南海側から見たJRとの乗り換え改札。きっぷ売り場も両社で分かれる(記者撮影)

両社間の乗り換え用の通路では、東にJR、西に南海の自動改札機がずらりと並んで対峙。きっぷ売り場は南がJR、北が南海で向かい合っている。この改札外の“緩衝地帯”には1階の出入り口から階段で上ってくることもできるが、大きな荷物を持っていればかなり負荷がかかる移動となるので覚悟が必要だ。

1階部分が大リニューアル

南海の新今宮駅では乗り換え改札口は4階にあたる。ホームも4階にあって3面4線。1番線・2番線に高野線、3番線・4番線に南海線の列車が発着する。階下の連絡通路には「551蓬莱」や「南海そば」などおなじみの店舗もそろっている。

JR線との乗り換え利用だけでは気づかないかもしれないが、最近大きく様変わりしたのが1階部分だ。2020年10月からリニューアル工事を進めてきたエリアが2022年3月に供用を開始した。

「全体的に暗いトーン」だった1階の南北通路と駅外壁を美装化。従来2階にあった改札口は、木目調のタイルで統一した南北通路の東西2カ所へ移設した。難波方面の南海線上り列車が発着する4番線のエレベーターは定員を11人から24人に大型化し、1階で乗り降りできるようにした。


リニューアルした1階の南北通路。木目調のタイルで明るい印象になった(記者撮影)

2022年4月には駅北東に星野リゾートが手がける「OMO7大阪」が開業するなど周辺の街のイメージも変わりつつある。さらに2031年春の開業を目指して建設中の「なにわ筋線」でも重要な役割を果たすことになりそうだ。


ホームからは「OMO7大阪」や「あべのハルカス」が見える(記者撮影)

大阪駅から大阪中心部の地下を縦断するなにわ筋線は中之島、西本町経由で既存のJR線と南海線に接続。南海の結節点になるのが新今宮駅だ。西本町との間には南海新難波も誕生する(途中駅はいずれも仮称)。大阪駅以北では阪急電鉄によって十三経由で新大阪につなぐ、なにわ筋連絡線・新大阪連絡線も検討されている。

駅長が語る新今宮駅

南海電鉄新今宮駅の三浦英樹駅長は1988年入社。難波の副駅長や岸和田駅長などを経て、2021年10月に新今宮駅長に就任した。三浦駅長は同駅の利用の特徴について「南海線・高野線とJRに乗り換える通勤通学のお客さまがほとんど」と説明する。

レジャー利用も多い。OMO7大阪がオープンしてからはランチ時間帯に行き方を聞かれるという。さらに周辺の安価なホテルに宿泊する外国人旅行者の姿が目立っている。「JRに乗り換えてユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行かれる方や、駅を出て新世界、通天閣方面へ歩いて行かれる方もいらっしゃいます。昔と比べて街並みも雰囲気も変わりました」(三浦駅長)。


新今宮駅の三浦英樹駅長(左)と運輸車両部の松下真輔さん(記者撮影)

運輸車両部の松下真輔さんは「南海で4階まである駅はめずらしいのでは。これからの南海電鉄を背負っていく拠点になる駅」と指摘する。

なにわ筋線が開業すれば新今宮駅の重要度は一段と増しそうだ。明るいイメージにリニューアルされた1階部分は将来に向けた足固めの1つと言える。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)