新NISAで買うのに向かない投資信託とは(写真:Shiro/PIXTA)

2024年1月、新NISAが始まる。NISAとは、通常であれば資産運用で得られた利益に対してかかる約20%の税金が、非課税になる制度。従来は、「一般NISA」であれば最大600万円、「つみたてNISA」であれば最大800万円が、NISAを使って投資できる限度額だったが、新NISAでは1800万円へと大幅に拡大される。

資産運用をしたい人にとって朗報だが、新NISAで買うのに向かない投資信託もあると、セゾン投信創業者で、今年、なかのアセットマネジメントを創業した中野晴啓氏は言う。中野氏の著書『50歳からの新NISA活用法』から、その一部を紹介する。

特定のテーマに集中投資する投資信託

投資信託にはさまざまな種類があります。そのなかで、最も長期投資に不向きと思われるのが、「テーマ型投資信託」と呼ばれているものです。テーマ型投資信託とは、特定の投資テーマに関連する銘柄でポートフォリオを構築するものです。たとえばAIやIoT、地球環境、水資源、ヘルスケア、SDGs、ESGといった、流行り言葉を投資信託の名称に冠したものが大半です。

テーマ型投資信託のセールストークでよく用いられるのが、「このテーマは長期的なものなので、長期保有が前提の投資信託には最適です」という話です。でも、株式市場において、テーマというものは長続きしません。

たとえば1990年代の後半から2000年にかけて、ITが株式市場において大きなテーマになりました。ちょうどインターネットが民間で自由に使われるようになった時期で、インターネットというインフラによって世の中が大きく変わるという期待感が一気に広がったのです。

この時、多くの投資信託会社が一斉に「IT関連投資信託」なるものを設定しました。当時のソニーやソフトバンク、光通信、NTT、パナソニックといった企業をIT関連企業と定義付け、それらの株式を組み入れて運用するというコンセプトでした。

運用成績は、確かに設定当初は順調に伸びていきました。何しろ当時はITバブルの真最中。ヤフー(現LINEヤフー)の株価は、1997年11月の上場初値こそ200万円でしたが、わずか2年で50倍になり、2000年1月19日には何と1億140万円まで上昇したのです。

そして実際、ITは私たちの生活になくてはならない存在になっています。ITという言葉自体はそれほど用いられなくなりましたが、IoTやDXなどによって私たちの生活が非常に便利になったのは事実です。今もその進化はとどまるところを知りません。

マーケットの値動きに翻弄されることも

しかし、株価はどうだったのかというと、2000年に入ってITバブルが一気に崩壊し、IT関連銘柄の株価は軒並み大暴落しました。前出のヤフーは、2000年2月22日につけた最高値が1億6790万円で、ITバブル崩壊後の2001年9月4日につけた最安値は182万円でした。

これを受けて、IT関連投資信託の基準価額も大暴落しました。その結果、多くのIT関連投資信託が運用を継続することができなくなり、いつの間にか大半が償還に追い込まれていきました。

このようにテーマ型投資信託は、仮にそのテーマが長期的なものであったとしても、マーケットの値動きに翻弄された挙句 、投資信託の運用自体が短命に終わるケースがあるのです。したがって、テーマ型投資信託は、長期的な資産形成には向いていないとしてもいいでしょう。

投資信託のなかには、非常に高い分配金を提示しているものがあります。分配金とは、前回の決算日の翌営業日から、今回の決算日までの運用によって得られた利益の一部などを、投資信託の保有者に対して還元するものです。

分配金を受益者に支払う時は、投資信託に組み入れられている株式や債券を売却して現金をつくらなければなりません。これが運用の効率を大きく削ぎ落としてしまいます。

長期投資のためには、むしろ分配金をできるだけ支払わずに運用するものが適しています。そうすれば複利が効いた投資成果が期待できるからです。たとえば、1年間で、基準価額が1万円から1万2000円まで値上がりした投資信託があるとしましょう。2000円の値上がり益は組み入れている株式などの値上がり益や配当金などによるものです。

「皆さんがこの投資信託を保有し続けてくれたおかげで2000円の運用益が確保できました。感謝を込めて全額を分配したいと思います」と投資信託会社が判断して、分配金にすることもできますが、その分配金を払うと、基準価額は1万円に戻ってしまいます。つまり、決算日の翌営業日から、またゼロスタートを切らなければなりません。

でも、この2000円を分配せず、温存しておいたらどうでしょうか。

たとえば、2000円のうち、1000円分に相当する株式などを売却して現金化して、他の将来有望な銘柄を組み入れるための資金にすれば、来期の決算日までに、さらにいい運用成果が期待できるかもしれません。

高い分配は長期投資に適さない

もちろん絶対にそうなるとは言い切れませんが、投資信託に組み入れられている株式や債券の一部を売却して現金化し、受益者に分配すると、投資信託の運用効率が長期的に低下してしまうのです。

ましてや、高額分配といって、非常に高い分配金を支払う投資信託は、全くもって長期投資に不向きだと考えます。

高い分配金を提示されると、何となく有利な運用を期待してしまいがちですが、実は決してそのようなことはないのです。高額分配は長期投資に適さないと認識してください。

BRICsやNEXT11、VISTA、MENAといった言葉を聞いたことがある人も少なくないと思います。

BRICsはブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を取った造語です。NEXT11はイラン、インドネシア、エジプト、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、韓国の11カ国を指しています。VISTAはベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの5カ国。MENAは中東(Middle East)と北アフリカ(North Africa)の頭文字を取った造語です。

いずれも現在はまだ経済規模がそれほど大きくありませんが、まさに今、成長の途上にあり、高い経済成長率が期待されるとともに、なかには、人口が多いことからGDPがやがて日本を抜いていくだろうといわれている国もあります(中国はすでに抜いています)。

「高い成長率が期待される国ばかりなので、この手の国の企業に投資すれば、高いリターンが期待できるはず」という期待感から、過去においてさまざまな新興国投資信託が設定・運用されてきました。

確かに、新興国投資信託のなかには、過去、非常に高い運用成果を上げたものもあるのは事実です。

新興国投信にリスクは?

しかし新興国は、高い経済成長が期待できる反面、経済基盤がかなり脆弱です。なかには政情不安な国もあります。ある日突然、マーケットが閉鎖されることもあります。実際、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した時、ロシアルーブルやロシア企業の株価は大暴落しました。

日本の投資信託会社でも数社がロシア企業に投資する投資信託を設定・運用していましたが、売買停止に追い込まれるなど、その運用成績は今、悲惨な状態にあります。もちろん、ロシアによるウクライナ侵攻など、そう頻繁に起こるような出来事ではありませんが、このように運用成績の大暴落につながるような出来事が生じやすいのも、新興国投資のリスクです。

大暴落があったとしても、「長期的に経済が成長するなら、そのまま持ち続けることで、いずれリターンが得られるのではないか」という考え方もありますし、実際にそうなるのかもしれませんが、問題はこのような状況に直面した時、投資信託の運用を継続できるのかということです。大きく値下がりした新興国ファンドは、その過程で大量の解約が発生して、まともな運用が困難になるケースがあったというのがこれまでの実態だと知っておいてください。

日本企業もそうですが、先進国の企業は大抵、新興国に製造拠点などを置いており、新興国の経済成長によって業績を伸ばしています。ということは、グローバルに展開している先進国企業の株式に投資していれば、新興国の経済成長も相応に株価に反映されるはずなのです。

さらには、新興国の資本市場は概して脆弱で未成熟なため、市場規模も小さいところが多く、先進国市場に比べて流動性でも大きく劣っています。

確かに、新興国株式に見られる高い成長期待は魅力なのですが、不確実性が大きく、先進国主体の国際分散投資の一部として組み入れるべき投資対象と考え、長期投資では新興国への集中投資運用は避けてください。

外国債券のみを組み入れて運用する投資信託

外国債券を組み入れて運用する投資信託が人気を集めたことがありました。今も、「債券なら安全かもしれない」という理由で、この手の投資信託を購入する人は少なくありません。

ただ正直なところをいえば、外国債券のみを組み入れて運用する投資信託を長期的な資産形成目的で購入する理由は、よく分かりません。そもそも債券に投資する目的は期中に支払われるクーポン(利子)を金利収入として安定的に得ることにあり、長期資産形成の主役にはなりにくいのです。


外国債券に限らず、債券をポートフォリオに組み入れるのは、ポートフォリオの安定性を高めるためです。債券も株式と同様に値動きする金融商品ですが、値動きは株式に比べれば緩やかですし、償還まで保有すれば元本は確保されます。

こうした安定性の高さから、株式と組み合わせることによって、ポートフォリオの安定性を高めることができます。

ただ、個人が長期的な資産形成をするにあたって、外国債券のみを組み入れて運用している投資信託を保有する必要性は、あまりないと考えられます。なぜなら、個人が持っている金融資産は、株式だけではないからです。多くの人は預貯金を持っています。一定額の預貯金があれば、保有している金融資産ポートフォリオ全体の安定性を高めることができるからです。

たとえば、金融資産500万円のうち、250万円を預貯金にしておき、残り250万円を株式投資信託にしておけば、ある程度、価格変動リスクを抑えたポートフォリオを構築できます。また、株式投資信託と債券投資信託とに分散して投資するのであればバランス型投資信託を購入すればいいので、自分で債券投資信託を購入する意味はあまりありません。

(中野 晴啓 : なかのアセットマネジメント社長)