ジムニー、ジムニーシエラ、ハスラー、クロスビーの購入者データを分析した(写真:スズキ)

軽自動車とコンパクトカーを中心にラインナップを構築するスズキは、生活者の日常に溶け込むクルマを強みとするメーカーだ。「アルト」「スペーシア」「ハスラー」「ジムニー」「スイフト」など、“コンパクトなサイズ”という共通項を持ちながらも、さまざまなボディタイプを展開している。

中でも近年、ラインナップを充実させているのがSUVだ。スズキの公式ホームページ上では「SUZUKI SUV LINEUP」という専用ページを用意するほど。そこで今回は、スズキのSUV群に焦点を当てみたい。


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具体的には、本格的なオフロード車であるジムニー、その登録車(普通車)版となる「ジムニーシエラ」、よりカジュアルな5ドアのハスラー、ハスラーをひと回り大きくしたような、ありそうでなかったサイズ感も特徴的な「クロスビー」、の4車種だ(エスクードはボディサイズが大きいため除く)。

上記4車種の購入者分析を通して、各車種の特徴を見ていこう。データは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」を使用する。

<分析対象車種・サンプル数>
■ジムニー:952名
■ジムニーシエラ:324名
■ハスラー:1012名
■クロスビー:528名

※いずれも分析対象は新車購入者のみ
※ジムニーとハスラーは現行型(それぞれ2018年7月以降、2020年1月以降)の購入者のみとする

車種へのこだわりと購入価格

まずは4車の購入者それぞれが、「購入したクルマをどれだけ求めていたか」を確認するために、「決定のこだわり度」を4つの選択肢で確認してみた。


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「ぜひこの車種に」の列に注目すると、ジムニー:82%、ジムニーシエラ:70%、ハスラー:53%、クロスビー:50%と、ジムニー/ジムニーシエラはともに高い数値が出ており、“指名買いの多さ”がわかる。

対してハスラーとクロスビーは、複数車種の比較から購入されるケースが購入者の2人に1人程度はいると読み取れる。

続いて「実際に支払った価格」のデータを確認しよう。メーカーサイトで確認できる車両本体価格ではなく、オプションなどを考慮した実購入額を見ていく。


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「値引き前車両本体+オプション価格」を見てみると、軽自動車のジムニーとハスラーが200万円程度で、登録車(普通車)のジムニーシエラとクロスビーは250万円程度となっている。

値引き額はクロスビーが約20万円であり、その他の3車種は10万円前後だ。特にジムニーは大人気モデルゆえに値引きが渋いことがわかる。


ジムニー(写真:スズキ)

先ほど見た通り、ジムニーの「ぜひこの車種に」が8割超のため、値引きの大小は購入意思へそこまで影響を及ぼさないのであろう。納期の長期化もあいまってジムニーの中古価格は高止まりしており、買い手としては悩ましい状況が長く続いている。

購入しようと思ったきっかけは?

続いて、「購入者の性別構成」「購入者の年代構成」を見てみる。ジムニーとジムニーシエラの男女比は、約7割が男性で、ハスラー、クロスビーは男女半々。クロスビーの女性比率の高さは、興味深い。


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全長3760mm、全幅1670mmのボディサイズは、トヨタ「ヤリス」やホンダ「フィット」といったコンパクトカーよりも小さく取り回しに優れ、一方で全高は1705mmもあってアイポイント(目線)は高く、小柄な女性でも運転しやすいことが、女性人気につながっているのだろう。


クロスビー(写真:スズキ)

クロスビーは、これまで日本でラインナップのあまりなかった、“コンパクトで車高がやや高い”サイズであり、未開拓な市場へのモデル投入が功を奏しているといえる。


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「年代構成」を見ると、20〜30代の割合が最も高いのはジムニーとクロスビーで、約3割。ジムニーシエラとハスラーは、50代以上がボリュームゾーンとなっている。


ハスラー(写真:スズキ)

ハスラーの年代層が高いのは意外だが、この層は1990年代のRVブームを知っている世代であり、またスライドドアは不要と考えるニーズに合致しているのかもしれない。

次に紹介するのは、現在の愛車を「購入しようと考えたきっかけ・情報源」のデータだ。生活者は毎日数えきれないほどの情報に接触しており、その中で自分に必要なものとそうでないものを取捨選択している。

ここでは、情報に接触するパターンを2つに分けて分析した。1つめは、「自ら取りに行く情報」、2つめは「受動的に受け取る情報」だ。では、4車種それぞれの特徴を見てみよう。


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まずジムニーとジムニーシエラは、「自動車専門誌の記事」「Webの記事」といった、2つのパターンのうちの「自ら取りに行く情報」がやや高く出ている。クルマ好きや、情報感度の高い人が多いと推察される。


ジムニーシエラ(写真:スズキ)

一方、ハスラーとクロスビーは「テレビの広告」「営業スタッフの話」といった「受動的に受け取る情報」が高く出ている。4車に共通するのは、「メーカーのホームページ」「ショールーム」が2〜3割程度と高めに出ていることだった。

このように、購入のきっかけとなる情報源を確認することでも、買い手のキャラクターを車種別に見ることができる。

軽自動車と登録車それぞれの購入理由

今回の分析対象は、軽自動車が2車種、登録車が2車種だが、「軽自動車か登録車か」は購入者にとって大きな要素の1つである。最後にこの点について確認してみよう。まずは、それぞれの購入理由の選択肢の中から。


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「大きさに関係なく、この車が気に入った」に着目すると、ジムニー、ジムニーシエラの2車種のスコアが高い。「とにかくジムニーが欲しかった」、という気持ちが見て取れる。

一方、軽自動車のハスラー購入者は、「燃費が良い」「車両価格が安い」「高速代が安くすむ」「軽自動車でも室内が広い」といった、デキの良い軽自動車の特徴としてよく表れる要素のスコアが高い。

見方を変えれば、ジムニーが特別なのであって、ジムニーほど尖ったキャラクターを持たないハスラーが、このように選ばれることは納得がいく。

ジムニー同様、ジムニーシエラもやはり特徴的であり、「人を乗せる機会が多い」「室内の広い車にしたかった」「乗り心地の良い車にしたかった」など、普通車を選択する理由として頻繁に上位にあがる項目は軒並み低スコアである。


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しかし、そもそもジムニーシエラはオーバーフェンダーで車幅が広くなっているだけで、室内空間はジムニーとまったく同じだ。2ドアで後席も狭いことから、室内空間の広さを求めて買うクルマではない。


ジムニーのインテリア(写真:スズキ)

クロスビーでは、「長距離走行をする機会が多い」「室内の広い車にしたかった」のスコアが高く出ており、ハスラーやジムニーシエラとは明確に異なる選ばれ方をしていることがわかる。

登録車の重要性が高まる理由

国内では軽自動車を販売の主軸とするスズキであるが、特にここ10年程度でスイフトやクロスビー、「ソリオ」など登録車のラインナップも充実させ、販売を伸ばしている。


ソリオHYBRID(写真:スズキ)

軽自動車は日本独自規格であり、現在の規格のベースとなる排気量660cc制限が定められたのは1990年と30年以上前のことだし、衝突安全などを加味してボディサイズが拡幅された1998年以降、規格の改正はない。当然、当時と今ではライフスタイルはまったく異なる。

メーカーの事業戦略としても、ほとんど日本でしか販売できない軽自動車よりも、グローバルで展開でき車種単価も高い登録車に注力したいのは、電動化に向けた投資のための財源確保の観点からも明らかであり、登録車の販売増は今後、ますます重要になっていくであろう。

そうはいってもクルマを買う立場の人々としては、昨今インフレで物価がどんどん上昇する中、少しでも手の届きやすい価格帯のクルマ、具体的には軽自動車のラインナップは充実していてほしいものだ。

人によってはクルマにはあまりこだわりはなく、日々の暮らしや通勤の足として機能すれば十分という人も多いため、廉価なグレードを求めていたりもする。

将来を見据えたメーカー側の問題意識と、生活者側での目の前のお財布事情の双方が、以前よりも合致しづらい局面には入ってきてるといえよう。


インドで発表されたジムニー5ドア(写真:スズキ)

スズキは、先のジャパンモビリティショー2023で新型スイフトを発表したが、SUVの注目株はインドで公開され、日本導入も噂されているジムニー5ドアだろう。また、クロスビーも発売から6年になることもあり、この先の展開が気になるところだ。

いずれにしても、今回の分析によってスズキのSUVモデルは、どれも個性がしっかりあり、それが「選ばれる理由」になっていることがわかったといえる。

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)