避妊なし・60分6500円で本番の底辺風俗店で働いてきた発達障害の女性の闇…小3から不登校になった家庭環境と1回3万円払っての初体験
風俗などの性産業で働く女性には、発達障害を持った人が相対的に少なくないといわれている。実際、取材で話を聞いた風俗業界のスカウトマンは、SNSでスカウト活動をする際、プロフィール欄に「発達」「ADHD」などの紹介文がないかをチェックするそうだ。なぜなら、そうした女性は勧誘しやすいのだという。
「チビゴキ」と呼ばれて小3から不登校に
「わざわざプロフ欄に『発達』って書く子って、子供時代からいろんな傷つき体験をしていて寂しい思いをしていたり、規則正しい普通の昼職ができなかったりする子が多いんです。そこらへんの事情が風俗との親和性が高いのかもしれません」
世間全体から見れば、スカウトマンが言うような女性はほんの一握りだろう。だが、その世界にいる女性だけに絞れば、そういう傾向が見られるのも事実なのだという。では、彼女たちはどのようなプロセスを経て売春の世界に身を投じるのか。
今回、本シリーズが募集する取材協力者に応募のあった女性のケースを紹介したい。
今から36年前、西日本の小さな町で、遠藤幸乃(仮名)は7人きょうだいの6番目の子として生まれ育った。母親には明らかな発達障害の傾向があったそうだ。計画性もないまま毎年のように子供を出産し続けた母親は、掃除、料理、洗濯、子守りなどの家事はまったくといっていいほどできず、子供たちが代わりにやっていたという。
そんな家庭で育ったこともあり、幸乃は親から愛情を受けた記憶がなかった。親と言葉を交わすのは月に一度あるかどうか、かといって姉や兄も何を考えているかわからなかったので、家の中ではコミュニケーションらしいコミュニケーションは皆無だったという。
後に診断されるように、幸乃にも発達障害の特性があった。そのせいか、学校でも友達とうまく付き合えず、小学校に入って早々に激しいいじめに遭った。幸乃は当時のことを振り返る。
「背が小さくて色が黒かったから、ちっちゃいゴキブリの意味で『チビゴキ』って呼ばれてた。クラスが変わってもずっと叩かれたり、物を捨てられたりして。ママやきょうだいに言っても『ふーん』って無視されて。それでもういいやって学校行かなくなった。2年まではちょこちょこ行ってて、3年からは全然行かなくなった。学校に行かなくても、きょうだいも行ってなかったから別に何も言われなかった」
1回3万円の「女性用出張マッサージ」が初体験
父親は幸乃が小学2年生のときに離婚し、家を出ていった。
それから間もなく、一番上の兄が自殺。姉もリストカットやオーバードーズ(薬の大量服薬)をしていたそうだ。家庭崩壊、いじめ、不登校、兄姉の自殺と自傷……。そんな暗い日々のなかで、幸乃が唯一関心を持ったのが「性」だった。
最初は家の近くの公園でポルノ雑誌を拾ったのがきっかけだった。彼女はその雑誌を草むらに隠し、毎日のように見に行った。彼女の目には「なんか楽しそうな世界」に映ったという。中学卒業後、彼女は短期のアルバイトを転々としていたが、異性と出会う機会はまったくなかった。
初めての性体験は21歳のとき。
彼女はネットで見つけた「女性用出張マッサージ」に連絡をし、1回3万円で初めての体験をしたという。
「すごい楽しかった。なんかかわいがってくれるし、おしゃべりもしてくれる。でも、全然お金なかったから、2回会って終わりになっちゃった。割引はダメって言われた。バイトのお金、すぐにお洋服に使っちゃうので全然残らないの」
彼女はバイトの給料の半分を母親に取られ、もう半分をすべて洋服につぎ込んでいたのだ。発達障害の特性からか、計画的にお金を貯めることはできなかったらしい。
幸乃は女性用出張マッサージ以外で性行為をするにはどうすればいいか考えた。思いついたのが、アダルトビデオへの出演だった。彼女は自分でプロダクションを探し、わざわざ自費で東京まで行って面接を受けた。だが、うまくコミュニケーションができないことから、プロダクション側から提案されたのは過激なSM系のビデオ出演だった。幸乃はそれを受け入れ、2本に出演した。
写真はイメージです
「何人もの男の人とするビデオだった。5人とかいたかも。(感想は)わー、すごいって思った。なんかビデオみたいって。もらったお金は(1本)3万円。だから全部で6万円。でも、東京に行くお金とか、ホテルに泊まるお金とかで全部なくなっちゃったから、あー、そういうもんだなって思った」
面接と撮影のため東京と地元を3回往復し、自費でホテルに泊まったのであれば、赤字だったに違いない。ちなみに幸乃は後日、プロダクションに連絡して出演したビデオを送ってほしいと頼んだそうだ。すると、理由はわからないが、事情があって販売は見送られることになった、と伝えられたという。正規のプロダクションではなかったのかもしれない。
それでも幸乃はビデオ出演をきっかけに、さらに性的な興味を膨らませた。先のプロダクションに再び電話して、「どうすれば性行為ができるか」を相談した。そして、プロダクション側が提案したのが風俗だった。
たどり着いたのは60分で6500円避妊なしの底辺風俗店
「プロダクションの社長さんからは『そんなにしたければ風俗行けば』って言われた。お金ももらえるよって。私、自分が働けると思ってなかったから、えーすごいって思って、どうすればいいのって聞いて教えてもらった」
半年後、彼女は風俗店の寮に入り、働くことになる。だが、指名がほとんどつかないので、寮費を払えなくなって追い出された。その後、別の風俗店に入っては解雇されるということを何度かくり返した。それでも彼女は風俗は自分にとって天職だと感じていたそうだ。
写真はイメージです
「普通のバイトよりは向いてた。私、朝ちゃんと起きれないし、仕事もみんなみたいにうまくできない。でも、風俗だとお仕事はお昼からだし、遅刻しても許してくれるし、店長にお弁当とかお菓子とか買ってあげると『ありがとう』って喜んでくれる。お客さんもうれしそうにしてくれる。なんかそういうのってうれしい」
そんな幸乃がたどり着いたのは、底辺風俗店だった。格安で避妊せずに本番ができるという店だ。客が支払うのは60分で6500円。そのうち幸乃の取り分は雑費など引かれて2500円だった。
厳しい条件だが、生きづらさを抱えた彼女は、それを受け入れて一生懸命に働いた。しかし、幸乃を待っていたのは妊娠という現実だった。客の子を身ごもり、店に借金をして中絶手術を受けたのである。
彼女が心を病んだのはその直後だった。彼女にいわせれば「赤ちゃんを殺したっていう、なんか悪い気持ち(罪悪感)」に苛まれ、来る日も来る日も堕胎した赤ん坊のことを思い出しているうちに「私も死にたい。死んで一緒にいてあげたい」と思うようになったそうだ。それが原因で、彼女はオーバードーズによる自殺未遂を3度くり返した。
福祉につながったきっかけは、自殺未遂で運ばれた病院でソーシャルワーカーに出会えったことだった。ソーシャルワーカーは、幸乃に障害があるのではないかと思い、検査を受けさせたところ、発達障害の診断が出たのだ。ここで彼女は初めて自分に発達障害があることを知る。
それ以降、彼女は生活保護を受給しながら生きることになったが、性的な関心が減ることはなかった。そこで生活保護を受けながら再び風俗店で働くようになるのである。
「お洋服に使うお金がほしかったのと、働いたら店長さんが喜ぶから。あと、お客さんが待っててくれてるから。やっぱり店長さんとか、お客さんに喜んでもらえるとすごく楽しい。死にたいって気持ちがなくなる」
今も彼女は週2回のペースで風俗の仕事をしている。
性産業の危険なビジネスに巻き込まれないために
幸乃の例からわかるのは、発達障害だけが風俗で働くきっかけになっているわけではないということだ。
劣悪な環境で育った彼女は、家の中で居場所がなく、親やきょうだいからも適切な愛情を受けてこなかった。そして発達障害ゆえに学校でいじめられ、社会とのつながりを絶たれた。そんな彼女は性欲をきちんとした形で育むことはできなかった。
それゆえ、女性用派遣マッサージ、アダルトビデオ出演、そして風俗といったビジネスに流れていったのだ。そして、そこには彼女のような女性を受け入れる余地があった……。
写真はイメージです
こう見ていくと、幸乃のような女性が危険なビジネスに吸い込まれないようにするには、家庭環境の悪い発達障害の人たちを、いかに早い段階でセーフティーネットにつなげられるかが重要になる。大人になれば、すべては自己責任という意見もあるかもしれない。しかし、違法なスカウトマンに「発達障害の子は狙い目」などと言わせる社会が健全なわけがない。
だからこそ、なぜそういう状況が起きてしまうのか、そこまでの問うプロセスと現実に目を向け、改善に取り組んでいく必要があるのではないだろうか。
取材・文/石井光太