ディズニー+との動画配信サブスク競争で沈みかけた王者Netflixが奇跡の復活を遂げた2つの理由
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コロナ禍での躍進を経て、在宅需要の落ち着きとともに一時は低迷ともいわれてきた動画配信サービス「Netflix」が、ここにきて見事なまでの回復を見せている。2023年3Q(7-9月)の売上高は前四半期比4.3%増の85億4100万ドル、営業利益は同4.9%増の19億1600万ドルだった。
Netflix業績V字回復 2つの要因
Netflixは2022年3Qから2四半期連続の減収に見舞われていた。2021年11月に700ドルをつけていた株価は、2022年に入って160ドル台まで低迷した。だが、現在は目覚ましい業績回復を受けて、400ドル後半まで持ち直している。
業績が回復した要因は2つある。広告プラン(広告付きで安価にサービスを利用できるプラン)の導入による新規ユーザーの開拓と、アカウント共有禁止による「タダ乗り」ユーザーの取り締まりだ。そしてこの2つは実のところ1本の線で繋がっている。
会員数はアナリスト予想を大幅に上回る
Netflixは2022年11月に広告プランを導入した。2023年2Q(4-6月)はその成果が出る期間だと見られていたため、決算の数字に注目が集まっていた。
2Qの売上高は前四半期比3.2%増の81億8700万ドル、営業利益は同6.6%増の18億2700万ドルだった。増収増益だったものの、株価は一時10%安になるなど、市場には失望感が広がっていた。会員数がアナリストの予想を下回っていたためだ。
しかし、3Qの会員数は予想を大幅に上回り、ここ数年で伸び率は最高を記録している。
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Netflixの売上高の推移(※Quarterly Earningsより筆者作成)・1Q…4月から6月の「第1四半期決算」、2Q…4月から9月の決算発表であり「中間決算」、3Q…10月から12月の「第3四半期決算」、4Q…4月から翌年3月までの1年間の「本決算」
売上高の推移を見ると、広告プランを導入した後の2023年1Q、2Qで2022年の停滞期を抜け、アカウント共有の禁止を本格化した3Qに一段踏み上げる様子がわかる。
世界中にファンが多い「マーベル」の脅威
Netflixが停滞していた理由は単純だ。注力エリアの北米と欧州で課金ユーザー数が縮小していたためだ。2022年1Q、2Qは北米、欧州でそれぞれ1~2%程度連続で減少していた。
ユーザー数が減っていた背景の1つが競合する「Disney+」の台頭だった。
もともとディズニーはNetflixにコンテンツを提供していたが、2019年に独自の動画配信サービスDisney+を立ち上げた。ディズニーはアニメーションに圧倒的な強みを持つだけでなく、マーベルという超ドル箱を持っている。
Disney+の会員数は2022年に入るころには、全世界で8400万人を数えるまでに成長していた。このころNetflixは2億人を超えていたが、伸びしろをDisney+に奪われたのは確かだ。
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Disney+の有料会員数の推移(※INVESTOR RELATIONSより筆者作成)
競合に対抗する手段としてNetfixが導入したのが、広告プランだった。
当初、この動きには懐疑的な見方も多かった。理由は2つある。1つは、低価格プランを導入することで、本当に課金ユーザー数を増やすことができるのか。そしてもう1つが、安易に低価格プランを導入すると、スタンダードプランやプレミアムプランなどから広告プランに移行して、ユーザー単価を下げることにならないかということだ。
Netflixはその疑念をいい意味で裏切ることになる。
広告表示せずに事業をスタートしたことが奏功
Netflixは特に北米エリアで苦戦していた。
2022年2Qの課金ユーザー数は2021年4Qと比較すると、200万人(2.6%)少ない7300万人だ。3Qは回復する様子もなく停滞している。
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Netflixの北米課金ユーザー数の推移(※Quarterly Earningsより筆者作成)
しかし、広告プランを導入した後の2022年4Qの会員数は7400万人で、100万人を取りもどした。2023年2Qは7500万人となってこれまでの減少分を完全回復。3Qは7700万と大幅に増加している。
驚くべきことに、客単価も変わらなかった。2023年3Qの北米での平均客単価は16.3ドル。プラン導入前の2022年2Qの16.4ドルとほとんど変わらない。
広告慣れしていないNetflixのユーザーは、月額8ドル程度課金額が下がることよりも、広告が表示されないストレスフリーの環境を好むことが証明された。
頭脳集団によるスマートな復活劇
欧州でも状況はほぼ同じだった。広告プランの導入と同時にユーザー数を伸ばしている。しかし、その後の伸びは北米よりも顕著だ。欧州の課金ユーザー数は2023年3Qに8300万人を超えた。北米よりも600万人多い。
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Netfixの欧州課金ユーザー数の推移(※Quarterly Earningsより筆者作成)
2023年3Qに数字を伸ばしたのは、アカウント共有を禁止した効果が大きいだろう。
Netflixは長年、アカウントを共有する世帯が多いことに頭を悩ませていた。規制を強化すればユーザーが離反する恐れがある。その上で緩さを見せて見逃していたのが現状だったが、世界中にアカウント共有している世帯は1億あると推計されていた。
Netflixが取り締まりを強化したタイミングは絶妙だった。スタンダードプランの半額以下となる広告プランを導入した直後。アカウントを共有していたユーザーは、格安プランであれば加入しようという機運が高まる。しかも、Netflixは2023年から料金は従来と同じで、高画質視聴ができるサービスの向上に努めていた。これまでの料金体系、サービス内容であればユーザーの離反を引き起こしかねなかったが、広告プランはその受け皿となったのだ。
Netflixの戦略は極めて合理的でスマートだ。
一見、課金ユーザー数の縮小が鮮明になって慌てて広告プランの導入に踏みきったように見えるが、実はアカウント共有問題と1つの線に繋がっていたのだ。Netflixは選りすぐりのエリートによる頭脳集団だと称されるが、今回の著しい業績回復にはその本領が見事に発揮されているといえるだろう。
取材・文/不破聡
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