こちらは「きりん座(麒麟座)」の方向約1100万光年先の渦巻銀河「IC 342」です。欧州宇宙機関(ESA)によれば、IC 342の見かけの大きさは満月と同じくらいあるのですが、地球からは観測するのが難しいのだといいます。


【▲ 欧州宇宙機関(ESA)のEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡で撮影された渦巻銀河「IC 342」(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi)】


その理由は、地球からはIC 342が天の川銀河の銀河面……別の言い方をすれば天の川の近くに見えるから。銀河面には数多くの星々や星間ガス、可視光線を遮る暗い塵などが集まっているので、同じ方向のより遠くにある天体の観測は難しくなります。そのため、IC 342は「Hidden Galaxy(隠れた銀河、隠された銀河)」とも呼ばれています。


この画像はESAの「Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡」の「可視光観測装置(VIS)」と「近赤外線分光光度計(NISP)」で取得したデータをもとに作成されました。Euclidは可視光線だけでなく人の目では捉えられない赤外線の波長でも観測を行うため、画像の色はデータ取得時の波長に応じて着色されています(700nm付近を青、1.1μm付近を緑、1.7μm付近を赤で着色)。


2023年7月に打ち上げられたEuclid宇宙望遠鏡は、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)や暗黒物質(ダークマター)の謎に迫ることを目的に開発されました。数十億個の銀河の画像化を目指すEuclidの観測データをもとに、暗黒物質が形成したと考えられている宇宙の大規模構造に沿って分布する銀河の立体地図を作成することで、宇宙の膨張を加速させていると考えられている暗黒エネルギーについての理解も深まると期待されています。


ESAによると、IC 342は過去にもアメリカ航空宇宙局(NASA)とESAの「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」で中心部分が観測されているものの、IC 342の全体に渡る星形成の歴史を研究することは今まで不可能でした。一方、Euclid宇宙望遠鏡は銀河全体を収める広い視野と星々や星団を区別できる精細さが両立していて、その高い感度のおかげで銀河を構成する星々のなかでも多数を占める低温の低質量星からの光も捉えているといいます。


Euclidの観測で得られたデータは天の川銀河に似ていると考えられているIC 342のような渦巻銀河の星形成の歴史を辿ることを可能とし、銀河の歴史全体を通して星がどのように形成・進化してきたのかをより深く理解する助けになると期待されています。冒頭の画像はEuclidミッションにおける初のフルカラー画像の一つとして、ESAから2023年11月7日付で公開されました。


 


Source


ESA - Euclid’s view of spiral galaxy IC 342

文/sorae編集部