ZEH(ゼッチ)とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略。住宅の断熱性能を高め、エネルギー効率の高い設備を導入することで「省エネ」を図る一方、太陽光発電などを設置して生み出す「創エネ」で年間の一次エネルギー消費量※の収支を「ゼロ以下」にする住宅のことです。
※一次エネルギー消費量:住宅で使用する様々な種類のエネルギー(電気、灯油、都市ガス等)を、同じ単位で比較できるように換算して、どのくらい消費するかを見るもの

戸建てに多いZEHでしたが、最近急速に増えているのが、ZEHマンションです。ZEHマンションとはどんなマンションか、なぜ増加しているのかについて見ていきましょう。

すべての新築住宅を省エネ基準→ZEH水準に適合義務化に

政府が「2050年までにカーボンニュートラル※を目指す」と宣言して以降、住宅の省エネ化が進んでいます。政府が描くカーボンニュートラルへのロードマップでは、2025年4月以降、「すべての新築住宅が最新の省エネ基準に適合する」ことを義務づけています。
※カーボンニュートラル(脱炭素)とは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること

すでに(2023年4月以降)、新築住宅で【フラット35】の住宅ローンを借りるには、住宅が省エネ基準に適合していることが必須条件となっています。住宅ローン減税についても、2024年以降に入居する新築住宅などでは、省エネ基準に適合しないと減税の対象になりません。

このように、新築住宅の省エネ基準の適合化が進められていますが、政府のロードマップでは、2030年までには適合義務化の基準をZEH水準に引き上げるとしています。

「ZEH」と「ZEH水準」は違う

ZEH、つまり一次エネルギー消費量をプラスマイナスゼロ以下にするには、太陽光発電設備などを設置して、エネルギーを創り出す必要があります。戸建ての場合は、屋根に太陽光発電パネルを設置して、使った分より多くの電気をつくることができます。一方、マンションは敷地の上に多くの階を重ねる建物なので、1戸当たりの屋根の面積はかなり小さくなります。そのため、マンションをZEH化するにはハードルが高い、といったことからマンションのZEH化は進んでいませんでした。

一方、ロードマップで言う「ZEH水準」は、エネルギーをつくり出すことを条件としていません。住宅の断熱性能を高めてエネルギー効率の良い設備を導入することで、現行の省エネ基準よりも一次エネルギー消費量をマイナス20%以上削減することを求めています。電気などのエネルギーを十分につくり出すことが求められなくなったことで、ZEH水準を満たすマンションが増えているというわけです。

ZEHマンションの種類は4つ

ZEHマンションについては、マンションの階数が多くなるほどエネルギーをつくる効果が薄れていくため、階数に応じて目指すべき水準を変えています。1~3建ての低層、4~5階建ての中層、6階建て以上の高層で、それぞれ求められる最低レベルのZEHの種類が異なります。

また、ZEHマンションの場合は、共用部を含めて評価する「住棟単位」と専有部のみを評価する「住戸単位」のそれぞれで評価方法を定めているのも特徴です。

これらをまとめたのが、次の図です。太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入している場合は、それにより一次エネルギー消費量を100%以上削減するのが「ZEH-M」(ゼッチマンション)、75%以上100%未満削減するのが「Nearly ZEH-M」(ニアリー ゼッチマンション)、50%以上75%未満削減するのが「ZEH-M Ready」(ゼッチマンション レディ)、再生可能エネルギーの導入を求めないのが「ZEH-M Oriented」(ゼッチマンション オリエンテッド)となります。

出典:経済産業省・環境省「ZEHの普及促進に向けた政策動向と令和5年度の関連予算案」より

また、ZEHマンションについては、経済産業省と環境省による補助金の支援制度があります。政府はZEHデベロッパーに対して補助金で建設を支援することで、マンションのZEH化に伴う住宅価格の上昇を抑制し、消費者の負担軽減も図っているというわけです。

消費者の省エネ住宅への意識は高まる

では、消費者はどう見ているのでしょうか? アットホームが、過去2年以内(2021年4月以降)に住宅を購入した、または現在住宅購入を検討している 20~59 歳(400人)を対象に実施した「省エネ意識に関する調査」の結果を見ていきましょう。

まず、「住まいを探している際」に、「省エネ住宅など環境に配慮した住宅に興味がある」や「多少価格が高くても、カーボンニュートラルに貢献できるのであれば省エネ住宅など環境に配慮した住宅に住みたい」と思うかを聞いたところ、「そう思う」「ややそう思う」という回答が多いことが分かります。

出典:アットホーム「省エネ意識に関する調査」

また、「省エネを意識して住まいを探したか」と聞くと、住宅購入の経験者は約半数が「はい」と回答していますが、検討者になると7割が「はい」と回答していることから、同社では「今後省エネを意識した住まい探しは増えていくと考えられる」と分析しています。

出典:アットホーム「省エネ意識に関する調査」

省エネ化やZEH化については、消費者の関心も高く、多少価格が高くても受け入れることが分かる結果と言えるでしょう。

ZEHマンションは買い手にさまざまなメリットも

ZEHマンションは、買い手にとって、住宅ローン減税で対象となる住宅ローン残高の上限額が省エネ住宅よりも多くなったり、【フラット35】SのZEHタイプが利用できるので、【フラット35】からの金利引き下げ幅が大きくなるといったメリットがあります。

さらに、住み手にとってもメリットがあります。まず、断熱性や遮熱性が高いので、快適な室内環境が得られます。ヒートショックのリスクも減りますし、窓が結露しにくいというメリットもあります。

このように、ZEHマンションはさまざまなメリットがありますし、住宅価格が割高になったとしても、カーボンニュートラルに貢献できる省エネ住宅を選びたいという、消費者の意識にかなうものと言えるでしょう。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)