さくらんぼ狩りで余ってしまうさくらんぼを生かす事業モデルとは?(写真:やまがたさくらんぼファーム提供)

今、山形の農業法人でもっとも注目される「やまがたさくらんぼファーム」。果樹の生産、販売、観光、加工、飲食の5本の柱で持続可能な農業経営を目指しながら、先駆的な取り組みで12期連続黒字を達成しています。

本稿では、やまがたさくらんぼファームを率いる矢萩美智氏の著書『さくらんぼ社長の経営革命』より、同農園がさくらんぼの生産や、販売だけに頼らないビジネスモデルを作り上げた経緯をご紹介します。

さくらんぼ農園の「悩み」

「6次産業化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、農産物の生産(1次産業)だけでなく、加工(2次産業)、販売(3次産業)まで一体的に取り組み、農産物の価値を高め、農業者の所得を高めていくことです。「6次産業」という言葉は、1次(生産)×2次(加工)×3次(販売)=6次を意味しています。

平成22年に「六次産業化・地産地消法」が公布され、これに基づき農林漁業者が経営の改善を図るために、総合化事業計画の認定制度が設けられました。事業者が生産、加工、販売を行う事業計画を作成し、農林水産相の認定を受けるとさまざまな支援を受けやすくなるという仕組みです。

私たちが認定事業者になったのは、2014年12月5日でした。6次産業化を始めたのは、さくらんぼ観光農園を運営する上での課題を解決するためでした。

さくらんぼ狩りの予約を受け付けると、本来は収穫しなければいけない時期なのに、お客様のためにさくらんぼを収穫せず、残しておきます。ただ、お客様がすべてのさくらんぼを収穫するはずはなく、多くのさくらんぼが残ってしまう。シーズン終盤のさくらんぼは果肉がやわらかくなっていて、生で出荷することは不可能です。残ったさくらんぼはすべて廃棄していました。それが当たり前になっていたのです。

東日本大震災があった2011年は、観光農園のお客様が激減してさくらんぼが例年以上に残り、大量に廃棄することになりました。悔しい思いをしたことは前回も書きましたが、今後も自然災害など、私たちがどうすることもできない外的要因により、さくらんぼが残ることがあるかもしれないと感じました。そこでチャレンジしたのが「6次産業化」でした。

総合化事業計画を認定していただいた翌年、2015年6月13日に、王将果樹園直営の「oh!show!café(オウショウカフェ)」をオープンしました。投資をしたのは、30万円のプレハブと看板ぐらい。メニューは、さくらんぼソフトクリームとオリジナルの100%フルーツジュースのみ。残ったさくらんぼとはいえ樹上で完熟したさくらんぼです。そのさくらんぼを果汁にしてオリジナルソフトクリームに混ぜ込み、新商品として販売し、結果、初年度に6カ月で6000本のソフトクリームのご注文をいただきました。

季節のフルーツパフェが誕生

ソフトクリームがうまくいったら次に商品化したいメニューは、すでに考えていました。「王将果樹園のフルーツをたっぷりのせたパフェをお客様に食べてもらいたい!」

カフェをオープンした翌年、2016年4月に新社屋が完成し、その中にカフェスペースを設け、2階にはカフェメニューを食べられるラウンジ席もつくりました。そして、念願の「季節のフルーツパフェ」を商品化しました。さくらんぼ、モモ、ブドウ、リンゴやセイヨウナシ、ラ・フランスなどの旬のフルーツをもりもりにトッピングしました。パフェにはすでに商品化していたソフトクリームを使用しています。

オウショウカフェ「季節のフルーツパフェ」の4つのコンセプトをご紹介します。

1. さまざまな品種の食べ比べができること
2. 山形のくだものにこだわること
3. 見映えがよく食べる前から楽しめること
4. ここでしか食べられないオリジナル商品であること 

「季節のフルーツパフェ」は、発売後、すぐにオウショウカフェの看板メニューになりました。多くのテレビ番組、雑誌などで取り上げられ、SNSでも拡散されていきました。お金をかけた広告は一切していないのですが、いつのまにかある旅行雑誌の表紙になったり、山形県の観光パンフレットやポスターになったり、首都圏の多くの駅に掲示されたり、飛行機の機内誌でもご紹介いただきました。私たちが知らないところでどんどん有名になり、お客様に認知されていきました。

「季節のフルーツパフェ」を販売して、おもしろいなぁと思ったことがあります。それは、いらっしゃるお客様のエリアが変わったことです。パフェを販売する前は、約9割以上が山形県外のお客様でした。

山形県人には、フルーツ狩りというサービスはウケません。おそらく山形県内でさくらんぼ狩りを宣伝しても効果は限定的だと思います。なぜなら、隣近所、親戚、知り合いに果樹農家がいて、さくらんぼやラ・フランスなどは狩るもの、買うものではなく、貰うものだからです。山形では、さくらんぼやラ・フランスをはじめ、美味しい農産物は子どもたちの給食にも出てきます。

カフェの売り上げは4年で14倍に

パフェを販売してしばらくたった頃、駐車場のお客様の車のナンバーを見ると、山形県内のナンバーがズラリと並んでいました。さくらんぼやさくらんぼ狩りを販売しても売れないのに、同じさくらんぼがのったパフェは買ってもらえることに気づきました。こうしてカフェ事業は、山形県内や近隣のお客様にご利用いただけるようになりました。


大人気のさくらんぼパフェ(写真:やまがたさくらんぼファーム提供)

平日の午後は山形県内のお客様がほとんどです。移動距離が短いので混雑が予想される週末を避け、平日に足を運んでくださいます。移動距離が短いお客様は気に入ってくれると何度も通ってくれるようになります。中には毎年すべてのフルーツパフェをコンプリートする熱烈なファンも現れました。

また、コロナ禍で県境をまたぐ移動制限をかけられた状況でもカフェ事業の売り上げの落ち込みは、観光農園の売上と比較すると少なく、多くのリピート客に買い支えていただきました。

2019年、カフェの売り上げは2120万円になりました。オープンした2015年が150万円でしたから、4年で14倍に成長したことになります。2020年はコロナの影響で売り上げが減少しましたが、2021年は増加に転じ、2022年は過去最高の2200万円になりました。パフェの年間オーダー数は2万個、全オーダーの約75%がパフェ。オウショウカフェはまさしくパフェ屋さんなのです。

自社加工のカフェ事業は順調に伸びていますが、委託加工事業は横ばいの状況が続いています。委託加工とは、当社の原料を外部の加工業者に持ち込んで加工商品をつくってもらうことです。ジュースの他、フルーツソースやゼリー、ドーナッツ、ジェラート、ワイン、リキュールなどを商品化しました。

委託加工の商品は、世の中に類似品があり価格競争になりやすく、レッドオーシャンで戦わなければなりません。そこで当社では、小さいロットでつくってくれるパートナーを探して連携しています。スモールスタートで始めて、売れ方を見ながら発注数をコントロールしています。

さくらんぼは生で保存するとしたら、冷蔵庫で保管してもせいぜい1週間が限界。それをジュースにすることで1年の賞味期限がつきます。そのジュースをさくらんぼソフトクリームに、ソフトクリームができればパフェに応用することもできます。

さくらんぼジュースは、そのまま販売することもできますし、2次加工の原料にすることもできます。常時確保していますので、いつでも新商品の開発に着手できます。ソフトクリームに入れる果汁(ジュース)は委託加工しています。カフェ(自社加工)は、委託加工がなければ成立しないのです。

当社では、近年、女性スタッフが増えています。カフェをはじめ、6次産業化を積極的に推進しているからです。特に加工品の商品開発やラベルデザイン、陳列、接客、カフェメニューの提供などでは、女性が大活躍しています。また、私たちのメインターゲットが女性で、女性の食べたいもの、欲しいものをつかむことが6次産業化成功への第一歩です。

「加工商品ありき」ではない

6次産業で加工商品をつくるより、生で売り切るほうが絶対に儲かります。なぜなら、加工商品は販売ルートが限られ、コストもかかるからです。加工原料や人件費を加工商品の原価計算に入れず、安易に値付けしているケースを見受けます。こんな加工商品をつくるなら、規格外品として生のままそれなりの単価で販売したほうがましです。


6次産業化はマストではありません。チャレンジするなら、「1次×2次×3次」ではなく、「1次×3次×2次」の順番で進めるとスムーズです。まずは自分で農産物を販売するルートをつくってから加工商品をつくるということです。

祖父が果樹農業(1次)を始め、父が観光果樹園(3次)を立ち上げ、私がカフェ(2次)をオープンし、6次産業化の柱がたちました。ある時、この流れが1×3×2になっていることに気づきました。私たちが6次産業化で外部から評価をいただいているのは、先代の方々が舞台をつくってくれたからなのです。

(矢萩 美智 : やまがたさくらんぼファーム代表)