台風被害を受けた江原道安辺郡の農場の復旧活動を視察する金正恩朝鮮労働党総書記。日時は不明だが、朝鮮中央通信が8月18日に報じた(写真・朝鮮通信/共同通信イメージズ)

2023年7月下旬に閲兵式を行い、自国の軍事力を誇示した北朝鮮。その後も最高指導者である金正恩・朝鮮労働党総書記が軍事工場を視察するなど、軍事面では活発な動きを見せている。

一方で、最近の経済状況はどうなのか。2020年1月下旬、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない国境を閉鎖する措置を執ったため、外部からは「経済活動が低迷している」との見方がつねに指摘されている状態だ。

1人当たり国内総収入は約15万円

韓国の中央銀行・韓国銀行は2023年7月29日、「2022年北韓(北朝鮮)経済成長率推定結果」を発表した。これは同行が毎年発表しているもので、韓国から見た北朝鮮経済の姿を数値で示す資料だ。

これによると、2022年の実質GDP(国内総生産)は前年比マイナス0.2%と、前年の同0.1%マイナスより悪化したとしている。また、国民1人当たりGNI(国内総所得)は143万ウォン(韓国ウォン、約15万5000円)。前年は142万3000ウォンとしており、ほぼ前年並みの水準にとどまった。

産業別にみると、2021年と比べ農林水産業が落ち込んだが、鉱業が回復し、プラスの成長となっている。農林水産業は2021年がプラス6.2%の成長だったが、2022年はマイナス2.1%と落ち込んだ。韓国銀行は「栽培業を中心に落ち込んだ」と指摘している。2022年は5月ごろ新型コロナウイルス感染症の感染者が出たと北朝鮮が発表したが、そのためコメなどの田植えなどの農作業が十分ではなかったという指摘もある。


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石炭などの鉱業が2021年のマイナス11.7%からプラス4.6%へと回復している。これは石炭生産が回復したことが大きいと韓国銀行は指摘している。韓国銀行はまた、製造業では軽工業がプラス成長となったが、重化学工業が落ち込み、全体でマイナス4.6%。建設業が2.2%のプラス成長となっているが、これは金総書記肝煎りの住宅建設が国家プロジェクトとして推進されており、この動きを示したものだろう。

一方、国境を封鎖しているものの、北朝鮮で必要なものは輸入しなければならない。2022年の北朝鮮の貿易総額は15.9億ドル(約2310億円)と、前2021年の7.1億ドルから2倍以上増えた。うち、輸出は1.6億ドル(約232億円)で、鉱物性製品や石油製品を中心に増加。輸入は14.3億ドル(約2080億5000万円)でプラスティック・ゴム、鉱物性生産品が多い。ただ、北朝鮮の貿易総額は、日本の727分の1の規模だ。


朝鮮社会科学院経済研究所の李基成教授(写真・曙光編集社)

注意すべきは、韓国側が発表する北朝鮮経済関連の統計は、さまざまな推測も加わり、正確な姿ではないということだ。おおよそのトレンドがわかる程度と差し引いてみたほうがよい。

では、北朝鮮は自国の経済を今、どのようにみているのか。

北朝鮮を代表するエコノミストである朝鮮社会科学研究院の李基成(リ・ギソン)教授に、2022年や2023年の北朝鮮経済について、書面による質問を行い話を聞いた。

2025年GDPは20年比1.4倍増をめざす

それによると、2021年の朝鮮労働党第8回党大会で「国家経済発展5カ年計画」が設定され、同計画の2年目となる2022年は、北朝鮮経済の各部門での生産を活性化させると同時に、その生産基盤を整備・補強に努めたという。そうすることで、国家経済を正常軌道に乗せて、人民にとって安定的、かつ向上した生活を提供することを目標として掲げた。結果、人民経済の重要部門では年間計画を完成し、自立的生産の土台を拡大・強化する成果を出したと説明する。

また2023年には2022年の成果を基にすべての経済部門での生産をより活性化させ、第8回党大会が決定した整備補強計画を基本的に終えることが中心的課題だと説明する。生産を増やして当面の国内需要を充足させると同時に、さらなる生産能力の拡大のための基盤固めを行うという内容だ。

とくに穀物生産の増大など「人民経済発展のための12の重要目標」の達成に注力し、2023年の目標を達成させるという。重要目標の中身は具体的に公開されていないが、穀物や電力、石炭、圧延鋼材、有色金属、窒素肥料、セメント、木材、繊維・布、水産、住宅、鉄道貨物・輸送、とされている。

また2024年には技術力の発展と効率化を目指し、生産能力がさらに向上するようにさせ、5カ年計画最終年の2025年には基幹工業など経済部門の生産目標達成に加え、GDPは2020年比で1.4倍増、人民消費品生産は1.3倍以上の成長を目指す、と説明する。

2020年のGDPは、韓国銀行によればGNIベースで約4.1兆円となる。また、2021年に北朝鮮が国連に提出した報告書の中で、2019年のGDPは約4.5兆円(当時のレートで335億0400万ドル)と明記したことがある。

韓国銀行の統計を基に計算すれば、2025年の国内総生産額の目標は約5.7兆円規模となる。また、北朝鮮が公表した額を1.4倍にすると、約6.3兆円となる。

2020年1月、コロナ禍を理由に国境を閉鎖して以来、貿易など対外経済面での活動がふるわなかった北朝鮮。ここに来て、国境を接する北朝鮮・新義州と中国・丹東でビジネス再開に向けた動きが出始めている。

韓国の大韓貿易投資公社(KOTRA)は最近、「2022年の北朝鮮貿易における中国への依存度は96.7%で、史上最高になった」と発表した。これが事実であれば、貿易総額からみて、中国との関係がほとんどということになる。となれば、対中貿易が少しでも増えることで、北朝鮮経済へのインパクトもそれなりに強まるということになりそうだ。

(福田 恵介 : 東洋経済 解説部コラムニスト)