コロナ禍の沈静化で正常化に向かう日本経済。さらなる飛躍のキーワードである「インバウンド」と「ナイトタイム」の実態を探る

新型コロナウィルス感染症の沈静化に伴って、日本を訪れるインバウンドが急増している。そうした訪日観光客は地方に、そして夜の街に足を伸ばすなど、コロナ前と大きく姿をかえている。『週刊東洋経済』の8月21日(月)発売号(8月26日号)では、「沸騰するインバウンド 復活するナイトタイム」を特集。実態とともに、インバウンドを取り込むノウハウなどをお伝えする。


ついに、彼らがやってくる──。

8月10日、中国政府が日本への団体旅行を解禁。その一報に触れた外国人向け旅行代理業を営む男性は、興奮気味にそうつぶやいた。

中国からの団体旅行は、2020年1月に新型コロナウイルス感染症の拡大で禁止に。それ以来、実に3年半ぶりの再開だ。

この男性の元には翌11日から早速、「日本への団体旅行を9月ごろから始めたい」との連絡が相次いでおり、「コースなどに関する詳細を急いで詰めたい」と相談されているという。

コロナ前の訪日観光客の主役は、何といっても中国人観光客だった。日本政府観光局(JNTO)によると、コロナ前の19年、中国本土から959万人が日本を訪れ、訪日観光客全体の3分の1を占めていた。

コロナ前比でわずか20%強

それがコロナ禍でぱったりと途絶えた。コロナ禍が沈静化した後も、中国政府は富裕層を中心とした個人旅行しか解禁せず、今年6月の中国人観光客数はコロナ前の19年比でわずか20%強。100%以上に回復している米国や、100%近くのアジア諸国と比べて明らかに見劣りしていた。


そうした中でついに団体旅行が解禁された。みずほリサーチ&テクノロジーズの坂中弥生・上席主任エコノミストの試算によれば中国人観光客数は従来予想より年間で200万人近く上振れする可能性があるという。

「早くても10月くらいの解禁と思っていた。予想外に早かった。われわれにとっては大きなビジネスチャンス。急いで準備に取りかかる」と男性は意気込む。

早速、増便の検討に入る

歓迎しているのは、旅行関係者だけではない。航空会社やホテルといったインバウンド関連企業はいずれも歓迎ムードだ。

ANAホールディングスの芝田浩二社長は、「訪日に弾みがつき経済の活性化につながります。相互交流促進のため、日本人の中国行きのビザ免除再開も切望します」とのコメントを発表。早速、国際線旅客数の計画を見直し、7月末時点でコロナ前の35%に当たる週62往復まで絞っていた中国便を増便する検討に入った。

中国人観光客の増加は、経済波及効果も大きい。

観光庁の調べによると、中国人観光客の1人当たりの旅行支出は33万8238円。これは35万8888円で1位の英国に次ぐ2位だ。台湾(18万円弱)やフィリピン(17万円弱)、韓国(10万円弱)といったアジア諸国・地域と比較してもかなり大きい。

この支出額は23年4〜6月のデータ。富裕層をはじめとする個人旅行客が多く、円安もあって高額消費が金額を押し上げている側面もある。今後は団体旅行客が増え、平均支出額は低下するかもしれない。だが、訪日中国人が200万人増えれば、そのインパクトは計り知れない。解禁後の訪日観光客全体の消費額は年間で2000億円上振れするとの試算もある。

そうした状況をすでに見越して、多くの百貨店が準備に取りかかる。例えば阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)。大阪・梅田の阪急本店のアテンド人員をこの8月から増員した。

アテンドの際には、事前に把握した顧客のニーズを基に売り場と連携し、商品を確保して提供。顧客の要望があれば、家電量販店やテーマパークにも同行する。

こうした努力が奏功し、今では1回のアテンドで1000万円以上使う訪日客もいるといい、「多くの中から当社の店舗を選んでもらうため、顧客と信頼関係を築くことが何よりも重要」と、阪急阪神百貨店で外国人向けマーケティングを担当する白井康之氏は語る。

ドラッグストア大手のマツキヨココカラ&カンパニーも、免税対応店をコロナ前の5割増に当たる1500店規模にまで拡大。台湾や香港といった海外の店舗での購買情報を分析し、中国人観光客が好みそうな商品のラインナップを拡充する。

インバウンド再爆発は間違いない

新型コロナの水際対策が緩和された昨秋以降、歴史的な円安も相まって、日本には多くの訪日観光客があふれている。そこに中国の団体旅行客が加われば、「インバウンド再爆発」は間違いない。


『週刊東洋経済』の8月21日(月)発売号(8月26日号)の第1特集「沸騰するインバウンド 復活するナイトタイム」では、観光業やホテル、飲食店といったインバウンド関連業界に焦点を当て、訪日客を上手に取り込んでいる事例を徹底取材し、成功するためのノウハウを伝授する。併せて、インバウンドとともに日本経済活性化の起爆剤になるナイトタイムエコノミーの世界も紹介する。

(田島 靖久 : 東洋経済 記者)
(山粼 理子 : 東洋経済 記者)