デザインからも高い注目を集めるランドクルーザー250(写真:トヨタ自動車)

トヨタ自動車が、2023年8月2日に「ランドクルーザー250」という新型車を発表。1951年以来、連綿とモデルチェンジを繰り返してきたオフロードの王者“ランクル”のニューモデルだけに、世界的にも話題だ。

ここでは発表会当日、トヨタ自動車の開発責任者に“ランドクルーザー250について知りたいこと”を尋ね、得た回答をお伝えしたい。

質問1:なぜ、プラドの名前がなくなったのでしょうか?

回答者:中嶋裕樹 チーフブランディングオフィサー

今回、ランドクルーザー250を開発するにあたって、一度「原点に立ち返ってみよう」となりました。

「クルマの未来を変えていこう」と佐藤恒治新社長は言っていますが、クルマの未来を見るときに、どこから見るのか。原点回帰したクルマから見ると、見える景色が変わってくるかもしれません。


同時に左のランドクルーザー70の再導入モデルも発表された(写真:トヨタ自動車)

そこで“プラド”を“ランドクルーザー”に置き換えて、原点を見ました。ランドクルーザーの名前を未来に残していきたいので、そうすることで、時代の進化に合わせて変えるべきものは変えながら、未来へとつなげていきたいと思っています。

質問2:そもそものデザインテーマはどういうものか?

回答者:渡辺義人 MS(ミッドサイズビークル)デザイン部主査

開発の始めのほうでは、デザインは現行型の流れを汲んでました。お客様からの人気も高く、「特に大きく変える必要がない」という声もありました。ただ、そこで豊田章男会長から「ランクルにしかできないことは何か考えなさい」という宿題をもらいました。

そして、出てきたのが“原点回帰”というコンセプトです。ただし、原点回帰が何を意味するのか、細かいことは提示されなかったので、僕らなりに悩んで大きく流れを変えました。250の原点とは、精神的にはランクル40(1960〜1984年)です。


原点とされたランドクルーザー40(写真:トヨタ自動車)

質問3:なぜ、2つの顔(フロントマスク)を用意したのでしょうか?

回答者:サイモン・ハンフリーズ チーフブランディングオフィサー

パーソナリティ違い、と思ってください。丸型ヘッドランプのものは、一番ピュアなランドクルーザーになったと思います。

しかし、基本デザインは角型3灯式のヘッドランプのほうです。ヘッドライトは、あとから交換可能としています。


角型3灯式ヘッドライト搭載モデル(写真:トヨタ自動車)

3灯式のクルマを買っても、あとで丸型にしようと思ったら、サービス工場で比較的簡単に交換できます。基本コンセプトは、ランドクルーザーのヘリティッジを採り入れることでした。

質問4:世界各地にデザインスタジオを持つ中で、デザインを手掛けたのは?

回答者:サイモン・ハンフリーズ チーフブランディングオフィサー

インテリアは、すべて日本のスタジオで行いました。エクステリアは、カリフォルニアのCALTY(Calty Design Research Incorporated)とのコラボレーションです。


質実剛健なランドクルーザー250のインテリア(写真:トヨタ自動車)

ただし、基本的なプロダクションデザインは、すべて日本でやっています。アイデア開発や先行開発は、日本でやりました。そして、自分たちの持っているデザイン拠点も含めて、みんなで作り上げていきました。

質問5:なぜ、ルーフに“切り返し”があるのでしょうか?

回答者:渡辺義人 MSデザイン部主査

それには、2つの理由があります。1つは、昔のランクルのルーフです。昔のランクルのルーフって分厚いんです。だから、250もなるべく厚く見せたい。そこで、ルーフとピラーの間にアクセントを入れました。

また、ツートンカラーの塗り分けも、錯視によってルーフが厚く、凝縮した感じが出せると考えました。


ランドクルーザー40のオマージュであり250の特徴でもある2トーンルーフ(写真:トヨタ自動車)

もう1つの理由は、切り返しのリングのような部分に、部品をつけられるようにしたことです。たとえば、渡河用のエンジンシュノーケル。この部分に、排ガスを出すシュノーケルの取り付けができるようになっています。

質問6:開発において一番こだわった部分は何ですか?

回答者:森津圭太 MS製品企画部チーフエンジニア

ひとことで言うと、悪路走破性です。多くのお客様に長く、いろいろな場所でご使用いただけるように、プラットフォームの性能を高めたいという思いが、もっとも強くありました。ただ、それだけでは300と同じになってしまいます。

そこで、ライトデューティとしてしっかりと扱いやすさを付与するために、走破性を高めつつ、実用性を担保することも重視しました。この両輪の性能の開発が、自分の一番のこだわりです。

質問7:レクサスGXとの差別化を教えてください。

回答者:森津圭太 MS製品企画部チーフエンジニア

プラットフォームは共用で、ボディもキャビンの部分については、多くを共用しています。一方で、しっかり差別化をしているのが、1つはパワートレインです。


先に発表されていたレクサスGX(写真:トヨタ自動車)

GXに設定のあるV6ターボエンジンは、250にはありません。一方、足回りでは、300にも搭載しているE-KDSS(サスペンションの電子制御システム)を250に採用しています。こちらは、レクサスには搭載していません。

伝統とヘリティッジに基づくのが、ランドクルーザーというクルマです。一方、レクサスは先進性や洗練性というブランドに付随するイメージが大切で、こうした点を重視して開発しています。今回のランクル250は、ランドクルーザーとしてのオフロード走行の素性を大事にしています。

質問8:なぜ、日本仕様は2.7ガソリンと2.8ディーゼルなのでしょうか?

回答者:森津圭太 MS製品企画部チーフエンジニア

既存の1GD(2.8リッターディーゼルターボ)や2TR(2.7リッターガソリン)であっても、プラットフォームをはじめクルマの素性が良くなれば、「こんなにクルマって良くなるんだ」と感じていただけると思います。

日本については、まずはその部分を大切にしながら、2つの既存のエンジンを大切にしようと考え、ラインナップしました。


日本仕様はガソリン/ディーゼル車ともDirect Shift-8ATの組み合わせ(写真:トヨタ自動車)

質問9:日本仕様にハイブリッドを設定しない理由は何ですか?

回答者:中嶋裕樹 チーフブランディングオフィサー

ハイブリッドも、全世界で出せるように準備しています。われわれとしては、そのために今回のモデルを開発したともいえます。

アメリカでは、すでに1モーターのハイブリッドシステムを「タンドラ」で導入しています。もちろん、それはカーボンニュートラルを考慮してのことです。

もう1つ大事なのは、ハイブリッド化した際、モーターパワーをオフロード車のために最適化することです。はじめのタイヤのひと転がりでトルキーな感覚を出すためには、電気のレスポンスの良さは有効です。

また、ハイブリッドは、モーターパワーをどのように有効活用するか。燃費に振るのか、走行性に振るのかと、さまざまな使い方ができますから、クルマの個性に合わせてハイブリッドシステムを展開していきます。

質問10:BEV(電気自動車)の設定はないでしょうか?

回答者:中嶋裕樹 チーフブランディングオフィサー

BEVは、作ります。大事なことは、ランドクルーザーというブランドを残していこうとするなら、間違いなく将来はEVになるということです。もはや、EV化は避けて通れません。

2023年6月の「Toyota Technical Workshop」(電動化などに関する新技術を発表した技術説明会)は、ご覧いただけましたでしょうか。


今回、質問に答えてくれた開発者、左から森津氏、ハンフリーズ氏、中嶋氏(写真:トヨタ自動車)

あの場でお見せした、レクサスLX(300とプラットフォームを共用)は水素エンジン車ですが、すでに白ナンバーをつけていました(つまり、公道走行可能ということ)。また、ランクルと同じようなフレーム構造を持つ「ハイラックス」のBEVも出していました。

もしかすると、フレームストラクチャー(ラダーフレーム構造)は、水素タンクの搭載のしやすさや、バッテリーの衝突保護に向いているかもしれません。

将来のことは断言できませんが、このように開発側は代替燃料車のアベイラビリティ(可用性=使い続けられること)を徹底的に拡げて、さまざまなクルマを開発しています。あとはマーケットのニーズでしょうか。技術開発はしっかりやっています。

「いいクルマなんじゃないか」という予感

筆者は、開発者たちの話を聞いて、「今回のランクル250、いいクルマなんじゃないか」と思うようになった。


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また、「プラドと一線を画したクルマにしたい」という開発者の思いも興味深かった。実際に乗れる日がくるまで、まだ時間はかかりそうだが、大いに楽しみな1台ではないだろうか。早く乗ってみたい気持ちが生まれた。

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)