恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

私が、僕が、あの時NGを出したワケ。ここでこっそりと教えてあげる。

▶【Q】はこちら:初デートはホテルの鉄板焼き、2回目はお鮨デート。代理店男子の完璧デートのNGポイントとは…




Episode10【A】:岡崎 優子(28)
彼氏ができないのは、昔のバイトのせい?


「優子ちゃん、さっきからスマホ気にしてるけど、なんかあった?」

「え!ううん、ごめんね。食べよ食べよ」

銀座5丁目にあるしゃぶしゃぶ店。

中島との同伴でよく来ていたのは、もう6年も前のことになる。

「ねぇ。なかじー、私ってどうして彼氏ができないんだろう…」

私は、スマホをテーブルに伏せながら、中島に聞いた。

「ん?弱気な優子ちゃんなんて珍しい。話聞こうか?」

好奇心でバイトを始めたものの、すぐに辞めた夜の世界。

中島だけはなぜか今もつながっていて、連絡すれば、すぐ飲みに連れて行ってくれる。

「マッチングアプリで出会ったんだどね…」

私は、目の前で美味しそうにしゃぶしゃぶを食べる中島に、石橋光一のことを話すことにした。




そんなに褒める?


「優子ちゃんって、モデルさん?いや、女優さん?とても一般人に見えないんだけど…」

光一との初めてのデート。

彼は、高級ホテルにある鉄板焼き店に連れて行ってくれた。

「ありがとうございます。でも、ただの会社員ですよ〜」

光一は褒めてくれたが、きっとこの派手なメイクと服のせいだ。

夜のバイト時代に買ったタイトなワンピースを着てきたのだが、気合を入れすぎたと反省した。

「ホテル内にして正解だったなぁ。普段からこういうところ、来てるでしょ」

「え…っと…時々かなぁ。でも、きちんとした場所でいただくのは好きですよ。気持ちがリセットできるので」

光一に「いいね」をしたのは、私が先だ。

彼のプロフィールには、広告代理店に勤めていることと、サウナとキャンプが趣味だと書いてあった。




私は、どちらかといえばインドア。

だから、行動力がありそうな光一に、いろいろ教えてもらいたいと思ったのだ。

意外だと言われるのだが、虫やカエルも苦手じゃない。だから、テント泊もきっと楽しいはず。

しかし、なかなかその話ができなかった。

「優子ちゃんって、本当に彼氏いないの?」
「うん。いないけど…どうして?」

お酒も進み、私たちは敬語を使わず会話するようになっていた。

「いや、美人すぎるからだよ〜。本当にただの会社員?」
「うん。まぁ、若い頃は副業で夜の仕事をしてたけど、そんなのみんなやってるでしょう?」

私は、困惑した。

褒められるのは嬉しいが、そればかりだと話が進まないし、光一について何も聞けない。

「あ〜〜。なるほど。そりゃ、そうだよね」

光一は大きく頷いた。まるで、美人が会社員をしていては納得がいかないとでもいうように。

「光一くんは、夜やってた女性は無理なひと?」

私は、冷えた白ワインを飲みながら聞く。

「ううん、それはないかな。むしろ尊敬する。大変な仕事だと思うし、誰でもできることじゃないから」

それを聞いて、ほっとした。

「優子ちゃんが働いてたのって、六本木?やっぱり銀座?」
「……銀座だけど」

しかし、結局光一についての話はあまりできないまま、私たちは解散してしまった。


贅沢な悩み?


「はぁ〜」

帰りのタクシーの中で、大きなため息をつく。

これまでの私の恋愛は、年上の相手から猛烈に好かれてスタートしてきた。

結局私が好きになれずにお別れするか、私が好きになれたタイミングで向こうから離れていくか。

そのパターンの恋愛しか、経験してこなかった気がする。

だからだろうか、同年代の男性と学生の頃のような純粋な恋愛がしてみたいと思うのは。




『光一:優子ちゃん、今日はありがとう!すごく楽しかった。もしよかったらまた会ってくれませんか?』

光一は、私に興味を持ってくれた。

しかし、ここまではこれまでの恋愛と何も変わらない。

どうせ彼は、私の外見にしか惹かれていない。

『優子:私も楽しかった^^ ぜひぜひ。会いましょう〜!』

『光一:じゃあ、お店探して連絡するね』

― 私がお店を提案した方がいいかなぁ?

その杞憂は当たってしまった。

光一が選んだ店は、カウンター席だけの、BGMがない、銀座の寿司屋だったからだ。

彼は大手広告代理店の営業。

同年代に比べたら、年収が高いほうなのかもしれないが、しょせん会社員だ。

税金もしっかり天引きされているだろうし、会計時に領収書ももらっていない。

― これって、普通なの…?

「あのね、光一くん。私高い店じゃなくても全然いいんだよ」

その日の帰り、タクシーを待つ光一に言ってみた。

周りを気にしなくてもいい場所で、踏み込んだ話がしたいのだ。

「もんじゃ焼きとか、餃子にビールとか!そういうの大好きだし、だから…」




「またまたぁ〜。そうは言っても、実際連れて行かれたら、ガッカリしちゃうでしょ」

― ……そんなことないんだけど。

そう思ったが、光一は話を続けた。

「それに、こんなにきれいな人をカジュアルすぎる店に連れて行けないよ」

「そっか。ありがとう」

私は無駄な抵抗をやめて、光一が呼んでくれたタクシーに乗った。

そして、LINE経由で食事代の半分を彼に送金した。

それがプライドを傷つけたのだろうか。その後、光一から連絡が来ることはなかった。



「ということがあってね…」

「あちゃ〜、そいつは優子ちゃんのこと何もわかってないな」

私の話を静かに聞いていた中島が、そう言い放った。

「焼酎や日本酒の銘柄にはうるさい酒飲みだけど、そんなにグルメではないのにね」

中島は、ビールを飲み切ってから言った。

「あはは…そうなんだよね」

光一に話した通り、私はお酒に合う食事ならなんでも好きだ。

高級食材を使っていたり、レストランの単価や雰囲気には、さほどこだわりがない。

そりゃ、たまには豪華なものが食べたいときもあるが、それは記念日で十分。

「ひとつ、言えることは…優子にはもっといい男がいる。だから、安心しなさい」

― そんな人、どこにいるんだろう?いつ出会えるの?




中島は52歳で既婚者。もちろん、今も昔も恋愛対象ではない。

そんな人とばかり会っているから、同年代の男性との付き合い方がわからなくなってしまったのだろうか。

「これから雅美ママの店行くけど、優子ちゃんも一緒に行く?」

「ううん、今日は帰る!明日も仕事だし」

中島くらいの年の男性と食事するのは本当に楽だし、ストレスがない。

でも、いつまでもそんな生活をしていられないのもわかっている。

もう夜の仕事はしていないのに、派手な女扱いされるのも癪だし、いつかは結婚だってしたい。

― こじらせてるな…私。

容姿がいいからといって、恋愛が全てうまくいくわけでも、いつでも幸せというわけではない。

私は、銀座の街をあてもなく歩きながら、光一の連絡先を消した。


マッチングアプリ攻略の道?
高級店やホテル内のレストランのデートが、必ずしもうまくいくとは限らない。



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