心理テクニックを利用して、相手からうまく情報を引き出す方法とは(写真:Taka/PIXTA)

テレビや映画などに登場する「FBI捜査官」はどのようなテクニックで相手から情報を得ているのか。元FBI特別捜査官で数々のスパイや容疑者から情報を引き出してきた著者がそうしたテクニックを惜しみなく紹介した『元FBI捜査官が教える「情報を引き出す」方法』(ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズ著)が刊行された。心理テクニックを利用して、相手からうまく情報を引き出す方法を本書から一部抜粋・編集して、お届けする。

「お返しをしたい」という欲求から情報を漏らす人たち

「お返しをしたい」と思うのは、人間に本来そなわっている、自然な衝動だ。プレゼントのような有形のものであろうと、ちょっとした親切や助言といった無形のものであろうと、人は何かを受けとると、同じくらいのお返しをしたいと思うものだ。このようにして、結局は双方が利益を得るという行為は文化の垣根を越えて広く受け入れられている。


それどころか、お返しをしたいという気持ちは、他人同士より友人同士のほうが強くなる。とりわけ、相手から友好のしるしに初めて何かしてもらうと、こちらもお返しをしなければと強く感じるのだ。

このように「お返しをしないと申し訳ない」と思う心理のことを「返報性」と呼ぶ。こうした心理状態におちいる理由はさまざまだ。「相手によく思われたい」というのが、その第1の理由だ。

そして第2の理由は、お返しをすれば、「自分は善人であると実感できる」からだ。この自己イメージを強化するために、とりわけ好意をもっていない相手であろうと、人はやはりお返しをしようとする。

第3の理由は「相手に負い目を感じたくない」からで、この場合はいっときも早くお返しをしてせいせいしようという気になる。だからこそ、返報性は人類の生存に欠かせないのだ。

人は社会に生きる存在だ。人類を永続させるためには、互いに助けあわなければならない。もし、私が今日、あなたに力を貸したら、あなたは明日、力を貸してくれて、おかげで私は生き延びることができるだろう。「困ったときはお互いさま」ということわざに従えば、実際に利益を得られるのだ。

私は取り調べでは、いつも何か飲み物を容疑者に用意することにしていた。このちょっとした親切は、警察や情報局の職員が広く利用している戦略だ。こちらが何かを与えれば、容疑者は「何かお返しをしなければ」という気になりやすいからだ。もちろん、こちらが望むお返しは「自白」や「機密情報の提供」だ。

同様に、レストランの接客係が勘定書にミントのキャンディを添えて客に渡せば、チップをはずんでもらいやすくなる。勘定書の裏側に自分の名前やニコニコマークを書くだけでも、客に「お返しをしたい」と思わせることができるのだ。

人は仕事の話だと重要情報を漏らしやすい

大半の人は、自分の仕事や趣味などにプライドをもっている。「毎日、こんなことをしているんだよ」と話すのが好きなのだ。よき社員であることを自負していて、それで自分の価値を証明しようとする人も多い。

また、自分には得意なことがあるのだから、有能な人間だと思っている人も多い。だから自己イメージをよくしようとすると、つい、仕事の業績などについてあれこれ喋ることになる。

たとえ仕事自体は嫌いでも、「マジで私は仕事ができなくて」「どんな仕事に就いても役立たずなんです」などと言う人はめったにいない。人間のアイデンティティは仕事と強く結びついているため、誰もが「自分はこの道のエキスパートだ」と考えがちなのだ。仕事や雇用主をけなすことはあっても、自分の仕事ぶりをけなそうものなら自己イメージが悪くなるので、そんな真似はしない。

そこで、自分がエキスパートであることを実証しようと、つい、本来は伏せておくべき情報まで漏らしてしまう。よって、相手の仕事に関する情報を聞き出すのは、有効な引き出し法のテクニックとなる。自分自身のことや仕事の内容について尋ねられると、人はデリケートな事柄まで明かしてしまいがちだからだ。

14歳の少女に「マタニティ製品」のメールが届いた理由

映画『ア・フュー・グッドメン』では、かの怪優ジャック・ニコルソンが法廷の証言台で劇的に真実を明らかにしたが、真実はかならずしもそんなふうに浮き彫りになるとはかぎらない。というのも、たとえ情報が手元にあるとしても、そんな情報はたいして役に立たないとか、無価値だとか考えがちだからだ。

だが、1つひとつは無価値に思えても、複数の情報をつなぎあわせていけば、価値が生じる場合もある。よって、問題の全体像がわかっていない人ほど、手持ちの情報を漏らしてしまう傾向がある。

FBIの防諜活動を担当する捜査官として、私はずっと、一見したところそれほど重要ではない情報の断片を収集することを心掛けていた。敏腕アナリストの手にかかれば、こうした情報の断片から全体像が浮かびあがってきて、現況の詳細がわかることがあるし、貴重な理解が得られることもあるからだ。

近年ではSNS上のビッグデータの分析技術が発達し、情報分析の重要性はますます高まっている。SNSのプラットフォームから少しずつ収集した個人情報があれば、広告主は特定の製品を利用してくれそうなターゲットを絞ることができる。

たとえばマタニティ製品を売る業者であれば、SNSでのやりとりや検索履歴を基盤に高度なアルゴリズムを活用し、妊娠していると思われる女性を特定することができる。そして、実際にターゲットにキャンペーンを展開した結果、ある14歳の少女のEメールの受信箱にマタニティ製品の売り込みメールが殺到するようになった。

父親は、娘のアカウントがスパムメールであふれかえったことに激怒し、キャンペーンを展開している会社に何度も電話をかけ、無礼にもほどがあると苦情を言った。ところが、その数週間後、少女はついに父親に打ち明けた。じつは妊娠しているの、と。いくつもの情報の断片が積み重なり、真実を明らかにする役割をはたしたのである。

人の行動履歴をつなぎ合わせてわかること

私は以前、政府の機密プロジェクトに関わる防衛関係の業者の某社員を調査するよう命じられたことがある。まず、容疑者の同僚数人に話を聞いた。私は引き出し法のテクニックを駆使しつつ、容疑者の習慣について少しずつ情報を集めていった。

最初にわかったのは、彼が働き者だということだった。平日もよく残業するし、週末にも出社して厳しい納期を死守しているという。その次にわかったのは、彼がメキシコシティのマンションを仲間と共有していて、年に何度か遊びにいくのを楽しみにしているということだった。

そのうえ、彼は新たなスキルの習得にも熱心だという。実際、彼はほかの機密プロジェクトに関わる社員ともよく情報を交換し、新しいスキルを身につけたり、アドバイスをしたりしていた。

能力の点から見れば、容疑者は仕事熱心なうえ、同僚とも良好な関係を築いている貴重な社員に思えた。そこで私はこうした一見無害な情報の断片をすべてFBIのアナリストに渡した。

そして、すべての情報をつなぎあわせたところ、彼が諜報活動を行っていたパターンが浮かびあがってきた。アメリカの敵対国の諜報員が容疑者と同時期にメキシコシティを訪れていたことが判明したのである。これは偶然だろうか? 

この場合はそうではなかった。じつは、容疑者が残業したり週末にも出社したりしていたのは、ほかの社員に見られずに機密情報をコピーするためだったのだ。ほかの機密プロジェクトに関わる社員と話をしていたのは、新しいスキルを身につけるためではなく、某国の政府に売れる機密情報をさらに入手するためだったのだ。メキシコシティを年に数回訪れるという、特にどうということのない情報が、容疑者のスパイ活動を暴きだすカギとなったのである。

(翻訳:栗木さつき)

(ジャック・シェーファー : 心理学者、ウェスタンイリノイ大学教授、諜報コンサルタント)
(マーヴィン・カーリンズ : サウスフロリダ大学ムーマ・カレッジ・オブ・ビジネス経営学教授)