織田記念でフィニッシュ直後に笑顔を見せた福部真子【写真:奥井隆史】

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陸上・織田記念国際

 陸上・織田記念国際が29日、エディオンスタジアム広島で行われ、女子100メートル障害の日本記録保持者・福部真子(日本建設工業)は13秒02(追い風0.6メートル)の3位だった。優勝は自己ベスト12秒97をマークした田中佑美(富士通)に譲ったが、筋力強化した体と感覚にズレがある中で好感触。目先の結果よりパリ五輪決勝の夢を追う日々には苦しみもあるが、27歳は「挑戦の醍醐味」と定義している。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 盛り上がった筋肉は努力の証しだ。福部は3位でフィニッシュ。5500人が集まった地元・広島の観客に雄姿を届け、優勝した田中を笑顔で祝福した。大雨と気温15度前後の悪条件。この日は予選を12秒95(追い風0.6メートル)の好タイムで走り、「去年は体がキレている時に12秒台。今は全然キレていなくて、ボテボテした体で12秒90台は評価してもいい。スプリントが上がっている」と納得した表情を浮かべた。

 広島皆実高時代にインターハイ3連覇を達成。「天才」と呼ばれる重圧にも苦しみ、日体大進学以降は伸び悩んだが、昨年は26歳にして悲願の日本選手権初優勝に涙した。7月のオレゴン世界陸上準決勝で日本記録を更新(12秒82)。しかし、同組で世界新12秒12が生まれた。加速しても海外勢のブレない走りを目の当たり。衝撃だった。

「あそこで背中が見えなかった。推進力を出して加速をして、10台のハードルをしっかり走り切った人が速い。黒人選手は骨盤が前傾して自動的に下り坂を走っている感覚なのかなと。アジア人は骨盤が立っているので、スピードが出れば出るほど何か支えがないと。速い動作に耐えながら加速していくためにフィジカルが必要。(9月に)12秒73を出したけど、それをもってしてもあの準決勝では歯が立たない。その現実を重く受け止めています」

 冬は「12秒5」を目標に肉体強化。ベンチプレス、スクワットに加え、練習前にも重いものを持ってサーキットトレーニングに励んだ。筋肉量は2.4キロ、体重は4キロ増。「筋肉がモリモリ。上半身、肩周り、お尻、ハムストリングが二回りくらい。スクワットも(過去に比べ)20キロ以上、上がった」。夕飯は米1合を完食。「糖質を取って回復が早かったので、練習もしっかりつめた」と明かす。

 今は筋力が増えたことで感覚が合わない。それも今は割り切っている。目先の結果より大切なもの。福部が挑戦を辞めない意義がここにある。

「世界陸上の参加標準はすでに切っているけど、守りに入って12秒70、60台を目指してブダペストに行っても同じことの繰り返し。12秒5を目指しすのは今年しかできない。今、走れないからといって前の感覚に戻ろうとするのはよくない。

 パリ五輪決勝を一番の目標にしているので、もし6月の日本選手権に間に合わないとしても、それでも試していかないといけない。12秒5を出しても五輪決勝に残れないかもしれないけど、誰かがチャレンジしないと。日本人がファイナルを走る夢を追いたい」

笑いながら明かす挑戦のつらさ「吐き気との闘い。感情がごちゃごちゃで情緒不安定」

 近年、次々と日本新が生まれる女子100メートル障害。福部は青木益未、寺田明日香の元日本記録保持者2人と切磋琢磨してきた。今は結果が出ずに不安な日々。悩みすぎて「汚い言葉で申し訳ないですが、ゲボが出そう」とネタまじりに笑う。「吐き気との闘い。感情がごちゃごちゃで情緒不安定なんです」

 それでも、寺田やコーチらに「良い変化だと思う」「今までの感覚に戻したい気持ちもわかるけど、戻ったら12秒7や6どまり。今はタイムが落ちても(挑戦しないと)世界や新しいタイムにたどり着けない」と言われ、前を向けた。決意は揺るがない。

「2020年冬に地元の広島に拠点を移して、その時から自分はパリ五輪でファイナルに残りたい、残るために戻ってきたと思っています。自分の中で心が決まっていた。12秒5を目指せている今を大切にしたい。精神的にしんどいけど、そのしんどさも挑戦の中の一つの醍醐味。しんどいからこそ達成した時に頑張ってよかったと思える。

 ここまで這い上がって来られたことをプライドとして持ちつつ、チャレンジしていきたい。いろいろ経験してきたからこそ、こうやって思えるので腹をくくってます。今はカッコいいところを見せられないかもしれないけど、こうやって『頑張って、楽しんで挑戦してるよ』という姿が誰かの活力になってくれたら」

 今後は5月6、7日の木南道孝記念にエントリー。6月に日本選手権(ともに大阪)を控える。苦しんできたかつての「天才」は幾度も壁を乗り越えてきた。そこで得た自信こそが挑戦の支え。大輪の花を咲かせる瞬間は、来年のパリだ。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)