「鎌倉殿の13人」ついに始まる最終決戦“承久の乱”!第47回放送「ある朝敵、ある演説」予習【後編】

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前編のあらすじ

♪ギジチョウトウ……義時打頭……ヨシトキダトウ……♪

打倒・北条義時(演:小栗旬)の野望に燃える後鳥羽上皇(演:尾上松也)は、兵を挙げる準備として三浦胤義(演:岸田タツヤ)と大江親広(おおえ ちかひろ。大江広元の子)を味方に引き込みました。

次は京都守護を務めていた義時の義兄弟・伊賀光季(いが みつすえ)を仲間に引き入れるべく画策しますが……。

「義時、仇をとってくれ!」伊賀光季の壮絶な最期

一方の伊賀光季は「そんなこともあろうかと」予想して、後鳥羽上皇のお招きをはぐらかします。

光季「それがしは鎌倉の命で京都守護を務めているので、まずは鎌倉に『お誘いを受けてもいいか』確認をとりますね」

後鳥羽上皇「え〜?そんな堅苦しいこと言わないでさ。ちょっと顔を見せて欲しいだけなんだ。それとも朕の誘いは受けられぬとでも?」

光季「いえいえ滅相もない。ただ役目は役目なので……」

と言ったやりとりがしばし続き、ついに後鳥羽上皇がキレてしまいました。

「もういい!どうせヤツは義時の身内(後室・伊賀氏の兄)だ。構うことはない、やっておしまい!」

「よっしゃあ!関東征伐の第一歩、軍神の血祭りに上げてやろうぜ!」

伊賀光季を攻める秀康らの大軍(イメージ)

という訳で勅勘をこうむった光季は、さっそく藤原秀康(演:星智也)・三浦胤義らの大軍に攻められてしまいます。

「来たな……こうなることは百も承知だ。野郎ども!玉砕上等、坂東武者の意地を見せてやれ!」

「「「よっしゃあ!」」」

かくして承久3年(1221年)5月15日。鎌倉ひいては武士の世の命運を分ける「承久の乱」が幕を開けたのでした。

※伊賀光季の奮戦について、もっと詳しく:

後鳥羽上皇、ついに挙兵!北条義時の義兄弟・伊賀光季の壮絶な最期・前編【鎌倉殿の13人】

燃え盛る炎の中で…北条義時の義兄弟・伊賀光季の壮絶な最期・後編【鎌倉殿の13人】

光季らは館に立て籠もり、郎党の贄田三郎(にえだ さぶろう)・贄田四郎(しろう)兄弟はじめ、力を合わせ巧みな駆け引きで善戦します。

その中には光季の嫡男・伊賀光綱(みつつな)もおりました。つい近ごろ元服して、幼名の寿王(じゅおう)から改名したばかりです。

「大きくなったな、寿王よ!」

現れたのは、光綱の烏帽子親(元服に際して成人の証しである烏帽子を被せる役)を務めた佐々木高重(ささき たかしげ。弥太郎)。彼は佐々木経高(演:江澤大樹)の息子で、頼朝の死後冷遇されて父子ともども官軍に与していました。

「弥太郎殿!烏帽子の親子とて絆を結びながら、こうして敵味方となった以上、贈り物はお返しいたします!」

そう言って元服の祝いに高重から贈られた矢を弓につがえ、力いっぱい射放ちます。果たして矢は高重の鎧に命中。しかしまだ力が弱く貫通はしていません。

「あぁ、何と立派に成長したことだろう。我が烏帽子子(えぼしご)よ、烏帽子の父として、これほど嬉しいことはないぞ!」

子は親を乗り越えて(その心意気を見せて)こそ最大の孝行。感涙にむせぶ高重の姿にもらい泣き、敵も味方も合戦どころではなくなったとか。

しかし善戦むなしく衆寡敵せず、ついに伊賀勢は光季親子と贄田兄弟だけになってしまいました。

「ここはそれがしが食い止めまする!」主君の自害に時間を稼ぐ贄田四郎(イメージ)

まずは「冥途の露払いを務めましょう」とばかり贄田三郎が自害、四郎が防いでくれている間、伊賀親子が腹を切ろうと支度します。

「父上……」

「……怖いか。そりゃ無理もない。ならば火に飛び込め。腹を切るよりは楽やも知れぬ」

そこで光綱は燃え盛る火に向かいますが、どうしても身体がのけぞって飛び込めません。

「ちちうえ……」

「……大丈夫だ。では、こっちへおいで」

光季は光綱を抱きしめると、やさしく語りかけました。

「本当はそなただけでも生き延びてもらい、母上の幸せを守って欲しかった。でも、そなたは『父上と共に戦う』と言ってくれた。父として、これほど嬉しいことはない。立派な勇士として成長したそなたを見届けられたのだから」

こうして光季は我が子の首を掻き切って殺し、その亡骸を燃え盛る火中へ放り込みます。そして東の方角を向いて合掌拝礼。

「南無帰命頂礼鎌倉八幡大菩薩若宮三所(※)。我が身命を投げうって権大夫(義時)の武運長久を祈願し奉る……」

(※)なむきみょうちょうらいかまくらはちまんだいぼさつわかみやさんしょ:鶴岡八幡宮におわす八幡大菩薩ら三柱の神々(応神天皇・神功皇后・比売神)にひれ伏して心よりお祈り申し上げる意。

続いて今度は西の方角へ向き直ります。

はるか西方浄土にいらっしゃる阿弥陀如来(イメージ)

「南無西方極楽教主阿弥陀如来(※)。生きとし生けるすべての魂を救わんと願われる思いがまことであるなら、どうか我らも極楽浄土へ迎えたまえ……」

(※)なむさいほうごくらくきょうしゅあみだにょらい:現世よりはるか西の彼方にある極楽浄土で衆生を教え導かれる阿弥陀如来様、の意。

念仏を三十度ばかり唱えて、これで死出の支度はととのいました。

「義時、後は任せた。我らが仇をとってくれ……っ!」

ついに光季は腹を掻っ捌き、先ほど放り込んだ光綱の遺体にかぶさって果てます。それを見届けた贄田四郎も抵抗をやめ、自刃して果てたのでした。

「みんな聞いて!」政子の演説に、奮い立つ坂東武者たち

……京都でそんな悲劇があって5月19日。鎌倉に光季の悲報を届ける使者が飛び込みます。

「ついに来たか……最も避けたかった形で」

日本の建国(紀元前660年)以来、朝敵となって生き延びた者は未だかつて一人もいません。

決断を迫られる義時。どうする(イメージ)

「どうする小四郎!よもや一天万乗の君に弓を引くつもりか!」

「いや、これはあくまでも上皇陛下をたぶらかす奸臣どもを討つだけだ!義は我らにあり!」

「そなたは何を申しておるのだ、どんな経緯があろうと、陛下が小四郎を名指しで追討せよと仰せなのだぞ!」

「ではむざむざと膝を屈して、故右大将家のご遺業を無に帰せよと申されるか!」

あぁでもない、こうでもない……鎌倉存亡の危機に直面して、御家人たちの動揺はただならぬものだったはずです。

これを収められるのは、今や尼御台・政子(演:小池栄子)を措いていなかったでしょう。

……皆一心而可奉。是最期詞也。故右大將軍征罸朝敵。草創關東以降。云官位。云俸祿。其恩既高於山岳。深於溟渤。報謝之志淺乎。而今依逆臣之讒。被下非義綸旨。惜名之族。早討取秀康。胤義等。可全三代將軍遺跡。但欲參院中者。只今可申切者……

※『吾妻鏡』承久3年(1221年)5月19日条

「……みな心一つにて奉るべし。これ最期の詞なり。故右大将軍が朝敵を征罰し、関東を草創してこのかた。官位といい俸禄といい、その恩すでに山岳より高く、溟渤(めいぼつ。海)より深し。報謝の志浅からんや……」

【意訳】みんな聞いて、これは私の遺言です。かつて頼朝様が朝敵を滅ぼして鎌倉を拓いたことで、私たちの暮らしは大きく改善されました。覚えていますか?たった数十年前のことを……。

それは、たった数十年前のこと(イメージ)

そうだったなぁ。かつて武士は地下人(ぢげにん)などと呼び蔑まれ、まともな人間として扱われることもなく、犬馬がごとく引き働かされた辛い日々。

若い者たちは実感が薄かろうが、今ある鎌倉は天地開闢からあった訳ではない。故右大将家いやさ佐殿の下、身命を擲(なげう)って数々の戦さを駆け抜け、ようやく勝ち取った新天地。

我ら人間ぞ、誇り高き坂東武者(もののふ)ぞ……公家どもが犬働きは、もうたくさんだ!

そうとも、青天白日のもと大手を振って歩き、胸を張って人間らしく生きられる鎌倉を、ゆめ手放してなるものか……古老たちのすすり泣きが聞こえる中、政子の話は続きます。

「……しかるに今、逆臣の讒(ざん)により、義に非ざる綸旨(りんじ)の下さるる。名を惜しむの族(ともがら)は、早く秀康、胤義らを討ち取り、三代将軍の遺跡(ゆいせき)をまっとうすべし。ただし院中に参らんと欲する者は、ただ今申しきるべし……」

【意訳】なのに今、愚か者たちが上皇陛下を惑わして道理の通らぬ命令が出されてしまいました。坂東武者の名誉を忘れていない者は、人間の誇りを失いたくない者は……ただちに藤原ナンチャラと三浦カンチャラを討ち取り、源家三代(頼朝・頼家・実朝)がみんなと作り上げた鎌倉を守るのです!

「……それでも」

なお院(後鳥羽上皇)に味方すると言う者は、今すぐここで宣言しなさい。この年老いた尼を斬り殺し、犬よ地下人よと蔑まれる暮らしへ戻るがよい!

感涙にむせぶ御家人たち。凶暴だけど、純粋なヤツらなのだ(イメージ)

……そこまで言われて「ハイ朝廷にお味方します」と言える坂東武者などいるでしょうか。御家人たちは感涙にむせび、声にならぬ声で気勢を上げたのでした。

終わりに

こうして鎌倉の運命を決した尼将軍の演説。実際には安達景盛(演:新名基浩)の代読ですが、そうであっても政子の想いに触れた御家人たちの感動は変わらないでしょう。

【承久の乱】あの名演説は政子じゃなかった?『承久軍物語』が伝える別バージョンがこちら【鎌倉殿の13人】

ひとたび戦うと決めたら、誰が相手だろうと容赦はしない。そうでなければ、今まで滅ぼし滅ぼされた者たちに申し訳が立ちません。

堤信遠(演:吉見一豊)・山木兼隆(演:木原勝利)・大庭景親(演:國村隼)・伊東祐親(演:浅野和之)・上総介広常(演:佐藤浩市)・木曽義仲(演:青木崇高)・一条忠頼(演:前原滉)・平宗盛(演:小泉孝太郎)・源行家(演:杉本哲太)・源義経(演:菅田将暉)・藤原泰衡(演:山本浩司)・源範頼(演:迫田孝也)・梶原景時(演:中村獅童)・阿野全成(演:新納慎也)・比企能員(演:佐藤二朗)・畠山重忠(演:中川大志)・平賀朝雅(演:山中崇)・和田義盛(演:横田栄司)・公暁(演:寛一郎)・阿野時元(演:森優作)……などなど。

「あらゆる犠牲を払って、坂東武者のてっぺんに立ったのだ。誰であろうと、邪魔する者は許さない!」

……実際には出陣せず、鎌倉で果報を待つばかりの義時ですが、むしろその方が辛かったはず。できれば挙兵時の頼朝みたいに、微塵も愛してもいない“のえ(演:菊地凛子。伊賀氏)”の膝枕シーンを再現してくれたら、かなりエモーショナルですよね。ね?

鎌倉時代ファンにとって垂涎モノの見どころが、これでもかと凝縮される(はずの)ラスト2回放送、最後まで見逃せません!

※参考文献:

五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡8 承久の乱』吉川弘文館、2010年4月細川重男『頼朝の武士団 鎌倉殿・御家人たちと本拠地「鎌倉」』朝日新書、2021年11月三谷幸喜『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』NHK出版、2022年10月