悪性腫瘍「GIST」はご存知ですか?医師が監修!

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消化器官に悪性腫瘍ができる病気の中でも非常にまれなのが「GIST(ジスト:Gastrointestinal Stromal Tumor)」です。

消化器官にできる「肉腫」のひとつで、がんに比べて発生頻度はかなり低い病気です。

GISTはしばしば胃がん・大腸がん・小腸がんなどの消化器官系のがんと混同されがちですが、がんとは違う病気と分類されています。

ここではGISTと消化器系のがんは何が違うのか、特徴・症状や検査方法などを詳しく紹介します。

GISTの特徴

GISTとはどんな病気ですか?

GISTは、「Gastrointestinal stromal tumor(=消化管間質腫瘍)」のことで、消化器官にできる悪性腫瘍の中でも「肉腫」に分類される腫瘍です。

肉腫とは、皮膚や粘膜などにできる通常の腫瘍とは違い、骨や血管、筋肉にできる悪性腫瘍のことを呼びます。発生部位のせいで見つけにくいことがほとんどです。

悪性腫瘍が肉腫と診断されることは、成人が発症する悪性腫瘍(がん)の1%ほどとかなりまれな腫瘍です。

そのため、胃がん・大腸がんなどの消化器官にできるがんとは違う病気として分類されます。しかし、がんと同様に転移することもあります。

がんと比べるとGISTの発生頻度は10万人に1~2人程度とかなり少ないのが特徴です。

GISTとがんはどのように違うのでしょうか?

胃がんなどの消化器官にできる悪性腫瘍は「上皮性悪性腫瘍」と言われ、多くが消化器官の粘膜に発現するのが特徴です。

一方、消化器官の粘膜の下にある筋肉層から発生する悪性腫瘍がGISTと診断されます。

がんと似た性質や症状を発現しますが、発生部位が明らかに違うのが特徴です。

発症の原因を教えてください。

GISTが発現する消化器官の粘膜の下にある筋肉層には「カハール介在細胞」という細胞があります。この細胞は消化器官の筋肉の動きを一定に保つ働きをしています。

このカハール介在細胞の元となる前駆細胞が異常増殖し腫瘍になることがGIST発症の原因です。ただし、腫瘍化することは非常にまれです。

細胞膜にあるタンパク質の異常が主な原因といわれています。このタンパク質は通常時、特定の物質から刺激を受けたときにだけ細胞の増殖を始めます。

しかし、異常な状態になると刺激がない状態でも増殖し続けてしまうのです。

これが放置されると、検査してもわかるほどの腫瘍へと成長していくというのが腫瘍化へのメカニズムです。

どのような症状が起こりますか?

GISTは自覚症状の少ない悪性腫瘍といわれています。主な症状は吐き気・貧血・腹痛です。粘膜より下にできる腫瘍なので、出血はあまりみられないのが特徴です。

しかし、症状がさまざまな他の病気と見分けがつきません。

いずれも腫瘍がある程度成長してから起こる症状です。ある程度大きくならないと検査でもわからないため、放置してしまい発見が遅れることが多い悪性腫瘍でもあります。

GISTの初期症状を教えてください。

初期症状といわれるほどの症状はほとんどありません。腫瘍がある程度成長してから症状が出ることが多く、そのほとんどが他の病気でもみられる症状です。

胃にできた場合は、胃カメラや内視鏡検査などのがん検診で無症状のGISTが見つかる場合があります。

欧米諸国ではあまり胃カメラ検査などが活発に行われていないため、症状がある程度進行してから見つかることがほとんどです。

日本での症例は、定期的な検診で腫瘍が見つかることで初めてわかるケースも多いです。

GISTの検査と治療

どのような検査を行いますか?

基本的には内視鏡検査などで腫瘍を見つけます。切除を行うことが可能であれば切除も可能です。

しかし、胃がんなどの消化器官系のがんとは違い、腫瘍の本体が粘膜よりも下にあるので粘膜に出た腫瘍だけでは判断できない場合がほとんどです。

多くが消化器官系のがんとして見つかり、切除するまでもしくは組織を病理組織検査するまでGISTと診断されません。

そのため、GISTの可能性を探るために超音波内視鏡をガイドにして腫瘍組織を採取し、「穿刺吸引生検法」という特殊な検査方法で検査を行うことがあります。

また、すでに手術によって腫瘍を切除した場合は切除組織を病理組織検査に回して検査をする場合もあります。

GISTの診断基準を教えてください。

GISTの本体は通常のがんよりも深い部分にあるため、胃がん・大腸がんなどの消化器官系のがんと診断されてしまうことがほとんどです。

手術により腫瘍を切除した後に病理組織検査をするか、「穿刺吸引生検法」を行うことでGISTと診断されることがあります。

ただし、穿刺吸引生検法は熟練した技術が必要なことや検体の処理に人員が必要です。これらの理由から、検査を行うことのできる施設には限りがあります。

そのため、ほとんどの場合は胃がん検診で発見され、腫瘍の手術を行った後に病理組織検査でGISTと診断されることが多いです。

どのような治療を行いますか?

基本的には手術による治療を行います。がんとは違い、周囲の組織ががん化することが少ないため、ほとんどが腫瘍の部分切除で対応します。

手術後は再発しやすいかどうかなどを判断する病理組織検査をするのが一般的です。ここで再発リスクに関する分類を行います。

もし転移の可能性がある場合に採用されるのは化学療法(投薬療法)です。他の場所にも腫瘍が発現している場合は、再度手術を行う場合もあります。

手術する場合、どのくらい入院するのでしょうか?

手術の箇所・部位にもよりますが、入院期間は1~2週間ほどです。

また、集中して全身検査するために入院していただく場合もあります。

GISTの予後と予防方法

GISTは再発しますか?

GIST再発の可能性はあります。現在のところ患者さん全体の推定25%~33%ほどです。他のがんに比べて再発可能性は低く、最初に腫瘍を切除すればほとんどが再発しません。

ただし、切除した腫瘍が大きければ大きいほど再発可能性が高いです。また、再発は3年以内が多く、腫瘍のあった場所に再発したり肝臓へ転移したりする場合もあります。

腫瘍が再発した場合は再び手術を行い、腫瘍の切除を試みます。ただし、再発時の手術効果はそこまで高くなく、化学療法によって身体全体の発病を抑えることがほとんどです。

再発を予防する方法はありますか?

手術後、再発予防のため投薬治療を行う場合があります。主に使用されるのは「イマチニブ」か「アジュバント」という薬です。

これを服用すると再発を予防するだけでなく患者さんの予後を長くする効果も期待されているため、ほとんどのGIST患者さんが服用を薦められています。

GISTの予防方法を教えてください。

GISTには予防方法がありません。遺伝もほとんどしないため、タンパク質が異常増殖することになる理由もわかっていません。

しかし、再発予防策はあり、ほとんどは投薬治療となります。

最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

GIST(英語表記:Gastrointestinal Stromal Tumor)は、胃や小腸など消化管壁の粘膜下にある未熟な間葉系細胞に由来する「肉腫」の一種であると認識されています。

本疾患の発症率は年間に10万人に対して1人から2人くらいと稀少な腫瘍です。男女間で発症率には差がなく、中高年に好発し、胃に最も多く認められる疾患です。

消化管粘膜下にできる腫瘍のみならず、良性の平滑筋腫、神経鞘腫や悪性平滑筋肉腫などもGISTに含まれます。

編集部まとめ

GISTは非常にまれな悪性腫瘍です。がんとは違って消化器官の深いところにできるため、発見が遅れる場合があります。

自覚症状も他の病気と同じ症状が多いため、気がついたときには腫瘍が成長していたことも多い厄介な病気です。

また、その特徴から胃がんや大腸がんなどの消化器系のがんと診断されてしまうことがあります。

切除手術後の組織検査でわかる場合もあるため、最初はGISTと診断されないことも多いです。

ただし、がんとは違い周辺組織のがん化が少ないのが特徴です。手術は部分切除など比較的軽いものが多くなります。

再発可能性は通常の消化器官系のがんよりも少ないですが、再発予防として化学療法が行われるのが一般的です。

発生部位は胃がんなど一般的な消化器官系のがんと同じ場合がほとんどです。検診などで見つかる場合もあるので、がん検診は定期的に受けるようにしましょう。

参考文献

よくある質問|GIST研究会

再発した場合の治療法にはどのようなものがありますか?|GIST
(消化管間質腫瘍)を学ぶ

GIST (消化管間葉系腫瘍)|神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野

GIST(消化管間質腫瘍)(じすと(しょうかかんかんしつしゅよう))|国立がん研究センター希少がんセンター

GISTについて~胃のGISTを中心に~|同友会グループ

なぜGIST(消化管間質腫瘍)になるの?|GIST
(消化管間質腫瘍)を学ぶGISTとはどんな病気でしょうか?|GIST
(消化管間質腫瘍)を学ぶ

カハール介在細胞|実験医学online

GIST (ジスト:Gastrointestinal Stromal Tumor; 消化管間質腫瘍)|公立大学法人福島医科大学消化管外科学講座

肉腫とは?|a global initiative