【出口学長・日本人最大の弱点、哲学と宗教特別講義】 イブン・スィーナーとイブン・ルシュドを 読み解く最強の4冊！
世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU（立命館アジア太平洋大学）学長。世界史を背骨に日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した『哲学と宗教全史』が「ビジネス書大賞2020」特別賞（ビジネス教養部門）を受賞。発売3年たってもロングセラーとなっている。
◎宮部みゆき氏（小説家）が「本書を読まなくても単位を落とすことはありませんが、よりよく生きるために必要な大切なものを落とす可能性はあります」
◎池谷裕二氏（脳研究者・東京大学教授）が「初心者でも知の大都市で路頭に迷わないよう、周到にデザインされ、読者を思索の快楽へと誘う。世界でも選ばれた人にしか書けない稀有な本」
◎なかにし礼氏（直木賞作家・作詞家）が「読み終わったら、西洋と東洋の哲学と宗教の大河を怒濤とともに下ったような快い疲労感が残る。世界に初めて登場した名著である」
◎大手書店員が「百年残る王道の一冊」
◎日経新聞リーダー本棚で東原敏昭氏（日立製作所会長）が「最近、何か起きたときに必ずひもとく一冊」と評した究極の一冊
だがこの本、A5判ハードカバー、468ページ、2400円＋税という近年稀に見るスケールの本で、巷では「鈍器本」といわれている。“現代の知の巨人”に、本書を抜粋しながら、哲学と宗教のツボについて語ってもらおう。
イブン・スィーナーの生涯
前回までに紹介した、イブン・スィーナー（980-1037）もイブン・ルシュド（1126-1198）もムスリムです。
そして偉大な思想家でもあり、優れた自然科学者でもありました。
そして時代を代表する医学者であり有能な医師でもありました。
それぞれイスラーム王朝の宮廷医を務めています。
イブン・スィーナーは中央アジアのブハラで青春時代をすごしながら、医学を学びプラトンやアリストテレスの哲学に出会い、それを学び始めたようです。
しかしその生涯は幸福であったとはいえず、豊かな医術の腕と学識に恵まれながら、仕えていた王朝が滅ぼされたり、奴隷に裏切られたり、支配者に追われたりの人生でした。
22歳頃にブハラを去った後は、カスピ海の東南海岸からイラン北部の諸王朝を、放浪しながら、多くの執筆活動を絶やさずに続けて、最後はテヘランの西南ハマダーンの地で、家族もないまま病死しています。
彼はイスラーム世界が生んだ最高の知識人として評価され、ヨーロッパの医学や哲学の世界に多大な影響を与えました。
ヒポクラテス（BC460頃-BC 370頃）やガレノス（129頃-200頃）の思想を体系化したイブン・スィーナーの医学書『医学規範』は、少なくとも16世紀末まで、西欧の医学校の標準的な教科書として利用されていました。
イブン・ルシュドの生涯
イブン・ルシュドはスペインのコルドバで法学者の家に生まれ、長ずるに及び、モロッコのベルベル人が開いたムワッヒド朝（1130-1269）の宮廷医となり、マラケシュに住んで医師として活躍しました。
同時に哲学的な才能も開花させます。
特にアリストテレスの著作を翻訳し、優れた注釈を加えました。
彼の著作活動は、ヨーロッパのスコラ哲学者たちに大きな影響を与え、一派を形成するほどになります。
しかしムワッヒド朝は、突然に彼の著作を発禁とし、宮廷医の地位からも追放しました。
そしてコルドバを追われた彼は、マラケシュで失意のうちに生涯を閉じています。
ところでイブン・スィーナーにはアウィケンナ、イブン・ルシュドにはアヴェロエスというラテン語の名前がつけられています。
これはヨーロッパのキリスト教徒の哲学者や神学者たちが、ムスリムの著作から学ぶことにはなかなか素直な気持ちにはなれないので、名づけた名前でした。
2人の哲学者を読み解く4冊
なお、イブン・スィーナーについては加藤九祚（きゅうぞう）『中央アジア歴史群像』（岩波新書）に、イブン・ルシュドについては樺山紘一『地中海──人と町の肖像』（岩波新書）に、彼らの興味深い生涯と業績が紹介されています。
豊かなイスラーム哲学の概要を学ぶためにはオリヴァー・リーマン『イスラム哲学への扉──理性と啓示をめぐって』（中村廣治郎訳、ちくま学芸文庫）がお薦めです。
また、わが国には井筒俊彦『イスラーム哲学の原像』（岩波新書）という名著があります。
『哲学と宗教全史』では、哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を、出没年付きカラー人物相関図・系図で紹介しました。
僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップもふんだんに盛り込んでみたのでぜひご覧いただけたらと思います。
（本原稿は、13万部突破のロングセラー、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です）
『哲学と宗教全史』には3000年の本物の教養が一冊凝縮されています。ぜひチェックしてみてください。
