ひろゆき「嫌われてもいいから答えを知りたい」
竹中平蔵さん(左、撮影:今祥雄)がひろゆきさん(右、写真:本人提供)の実像に迫ります
日本一嫌われた経済学者・竹中平蔵。
現在パソナグループ会長を務める竹中氏は、〈派遣労働〉の象徴的な存在としては、多くの国民から嫌悪されています。
そんな竹中平蔵が嫌われる理由と背景を、今や日本を代表するインフルエンサーの一人である「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」設立者・ひろゆきさんが徹底追及する、最新刊『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?』。今回はその中から、逆に竹中さんがひろゆきさんについて分析している箇所を、一部抜粋してお届けします。
デジタル庁の採用に応募して不採用だった
竹中 平蔵(以下、竹中):ひろゆきさんは、今YouTubeとかでものすごい人気がありますけど、デジタル庁の採用に応募して不採用だったと聞いたのは驚きました。
ひろゆき:そんなこともありましたね(笑)。
竹中:どうしてだと思いますか?
ひろゆき:自分が使いやすい駒ではないっていうのは、僕自身そうだと思うんで。やっぱり変な発信力を持っているし。世間的に言ってはいけないとされていることもけっこう言っちゃうので。それはリスクが大きいという判断だと思うんですよね。
仮に僕の能力値が10ありますと。それで、リスクが0だったら、たぶん採用されるんです。でも能力値が10でリスクが15っていう人間と、能力値が5でリスクが1の人間だったら、後者を採用するのが日本の組織だと思います。
竹中:そこらへんはアメリカと違いますね。
ひろゆき:トランプが大統領になれる国ですからね(笑)。
竹中:ひろゆきさんはいろいろなタイプの人に好かれているわけですが、インターネットなんかでワンフレーズで批判する言葉だけがクローズアップされるじゃないですか。「それってあなたの感想ですよね?」みたいな。
ひろゆき:はい(笑)。
竹中:すごくロジカルな人なんだから、「ひろゆきの日本改造論」のようなものを、きっちり述べたほうがいいと思うんですよ。そうしたら、この人は本当にわかっているな、かなり本質を突いているな、とみんな一目置くわけですよ。
ひろゆき:でも短期的に、こうしたら即座に日本全体が良くなる、ってものはないじゃないですか。今の既得権益の人たちが損をする形じゃないとバランスが取れないので。全員これで幸せになるなんて嘘で、誰かが損をするしかないわけです。
例えばスウェーデンが新型コロナ対策でやった、80歳以上と基礎疾患のある60歳以上のICU治療を諦めるっていう選択は、僕は正解だったと思ってるんですよ。もう医療リソースが限られてますと。40代・50代の人は助けて社会を回さなきゃいけないけど、持病のある60歳以上は、申し訳ないけど、もう国としては順番は後にします─僕はそれは正しいと思っちゃうタイプの人間なんです。
でも60歳以上の人や、家族にその年代がいる人からしたら「ふざけるな」ってなるわけじゃないですか。要は「トロッコ問題」みたいな、誰かを犠牲にする判断をしなければいけないですよ、っていうのを僕は言いがちなんで。それだとやっぱり大勢に理解されることはないと思うんですよね。
ポリティカリー・インコレクトなひろゆき
竹中:それは、使い分ければいいと思うんです。「ポリコレ」って言葉がありますよね? 日本語で言うと「政治的正しさ」、「ポリティカリー・コレクト」とも言いますね。その反対は「ポリティカリー・インコレクト」。
ひろゆきさんは、まずポリティカリー・コレクトな表現で、1冊本を書くべきなんです。そのあとで、細かな発信はポリティカリー・インコレクトに行う。
ひろゆき:ポリコレの口調で、文章のテイストをまとめるってことですね(笑)。
竹中:役所や官僚がひろゆきさんを怖がるのは、ポリティカリー・インコレクトなことばかりを言うんじゃないかと危惧しているからです。例えば、「役所の硬直性」という問題を指摘する場合でも、「役所はこの件についてもう少し柔軟に対応してもらいたい」と言うのがポリティカリー・コレクト、「役人はバカだ」と言うのがポリティカリー・インコレクト。どちらも正しいことではあるんだけれど、その2つを使い分けるべきです。
ただし、あまりにポリコレなことばかり言うと、それはひろゆきさんらしくなくなるから、少しは乱暴な言い方を残すべきだと僕は思います。その両者があったほうがインパクトもあると思うんですよ。
ひろゆき:やっぱり僕、全ての人に理解してもらえるとか、話せばわかり合えるとか思ってないんですよね。例えばイスラム教徒とキリスト教徒が話し合いでわかり合うのはありえないじゃないですか。なので、そもそも論、人はわかり合えないと考える。
人が心にダメージを受けるのって、わかってほしい人がわかってくれてないときです。「こいつにはわかんねぇだろうな」って人がわかってくれなくても「やっぱバカはわかんねぇよな」って思うだけなので、僕は何も気にならないですね。
竹中:極めてポリティカリー・インコレクトな発言ですね(笑)。
答えを知りたいから敢えて言う
ひろゆき:竹中さんはさっきダメージを受けたときの対処法を言ってましたけど、僕はそもそもダメージを受けない方法で生きてるんですね。
竹中:どういう?
ひろゆき:犬が喚いてもショック受けないじゃないですか。例えば小学生に「バーカ!」とか「不細工!」とか言われても、「うん、そうだよ、お兄ちゃんバカだし不細工だよ」で終わりじゃないですか。そこでダメージ、いちいち受ける必要ないと思うんですよね。
竹中:すごく正しい自己分析だと思いますよ。でも、だからこそ、もったいないと私は思うんです。やっぱり世の中を良くしようと思ったら、逆風を受ける。ひろゆきさんは、ここまで名を成して、私よりたくさん資産をお持ちだろうから、もう少し違うステージに行って、向かい風を受けながら世の中に貢献してほしいと率直に思うんですよ。
私が日本中から叩かれているときに、励ましてくれた人がいたんです。それが歌手の谷村新司さん。彼の言葉はすごくシンプルで、「鳥は飛び立つときに向かい風に向かって飛び立つんだ」と。向かい風があるから浮力ができるわけでしょ。『トップガン』でジェット機が空母から飛び立つときも、前に進んで向かい風を受けて飛び立つわけです。その言葉が、すごい励みになりました。向かい風ってのは、何かを成すために必要なことなんだと。
ひろゆきさんは向かい風を避けて、風に当たらないように自由に発言をしているのかもしれないけど、ここまで有名になったんだから、向かい風に立ち向かうのはどうですか?
ひろゆき:竹中さんがいろいろなことをやって、世の中が良くなったとします。そうだとしても、結局理解してくれない人のほうが多数派じゃないですか。本気で世の中を良くしようとしたのに、結果として手に入ったのは自己満足だけって形になってしまったように思えるんですが、それでもやって良かったと今でも思います?
竹中:やって良かったと心から思います。さっき言ったように自己満足で生きてるんだからいいじゃないですか。自分が満足しない人生なんて最悪じゃないですか。人に褒められるけど自分が満足していない人生と、人に褒められないけど自分が満足してる人生。当然、後者ですよ。自分がやったことは正しいと思うし、間違ってないと思う。評価しない人が多数いるけども、全力でやったつもりだから、これはこれでいいんじゃないですかね。
ひろゆき:そっか。
ひろゆきが嫌われてまで発信し続ける理由
竹中:でも、ひろゆきさんだって、社会に対する発言はずっと続けてますよね? これ以上お金を儲ける必要はないのに、嫌われてまでSNSとかYouTubeで政治や社会について発信し続ける。それはどういうことなんでしょう?
ひろゆき:嫌われるとかは別にどうでもよくて、とにかく「答え」を知りたいんですよ。これを言ったときにどういう反応があるのかとか、いや正しくはこうだよとか、自分の発言によって新しい知識が入ってくる。それによって「答え」に近づくことができる。そこに視点を置いているので。
竹中:それはどういうモチベーションなんですか?
ひろゆき:例えば、食料自給率について言い出す人って、基本的にバカだと僕は思ってて。簡単に言うと、カロリーベースで計算したもので自給率どうこうって言っても仕方がないし、そもそも石油が買えなかったら今の農業自体が成立しないので。石油が買えなくなったら、自給率がいくら高くても野菜や米をつくれないという話なので。
それを理解したうえで、食料自給率を上げたほうがいいんだって言ってる人を見たことなくて。だから「食料自給率を上げたほうがいいって言う人は基本的にバカだよね」って言ったときに、「いやいや本当はこういう理由があるんだよ」っていう頭がいい人が出てきてくれたら、僕にとっては知識が増えるじゃないですか。それで発言してるっていうのもありますね。自分の中の「食料自給率について話すやつはみんなバカである」という仮説が、正しいのか間違っているのか検証するというか。
竹中:食料自給率については私もそう思いますよ。そもそも日本はエネルギーの自給率が低いわけだから。自給率に頼らなくても食料もエネルギーも入ってくるような外交をやることが、当然日本のベストな選択だと。ひろゆきさんは、そういう仮説と検証みたいなことを昔からやってたんですか?
ひろゆき:たぶん子どものころからじゃないですかね。「これはこういうもんかな?」ってやってみて、「あっ、違った」っていうのを何度も試すのが割と好きなんです。例えば、学校の先生に歯向かってみたらどうなるんだろう、とか。その延長で、「裁判所の命令に従わなかったらどうなるんだろう?」っていうのもあった。
みんな怖がって従っているけど、従わなかったとしても、実は罰則がない。法律に則っているし、裁判所の仕組みとして僕の行動に特に問題はないという状況のはず。なんですけど、世間は僕が悪いことをしているみたいに表現するっていう。やってみて、「あっ、これってペナルティないんだ」とわかったりするんです。
竹中:それを実社会で実験したくはないんですか?
ひろゆき:だから1人の国会議員が何を言おうが変わらないって思いますし。頑張ったら1つくらい法律を変えられるかもしれないけど、与党がこれだけは守りたいって思ってるものは、一議員だとどうにもならないじゃないですか。
ひろゆきも竹中平蔵も嫌われることを気にしていない
竹中:おっしゃることはわかるんだけれど、その仮説と検証を、霞が関と永田町に入ってやればいいと思うんですよ。やっぱり、ひろゆきさんは考えることが好きなんですよね。私も同様に考えるのが好きです。今ひろゆきさんは、割と遠い場所から疑問を発しているけれど、政治家や官僚は現実としてそうした議論を日々行っているわけです。
先ほどおっしゃった食料自給率の議論も、霞が関・永田町でなら割と簡単に受け入れられますよ。そのうえで「短期的な食糧不足に対応できるようなリダンダンシー(一見無駄な部分)を持っておくほうがいい」とか「どの国から輸入するかでリスクが異なる」とか、そんな議論なら政治家や官僚はちゃんとすると思いますよ。だから仮説をぶつける場としても、霞が関・永田町のほうが面白いんじゃないかなぁ。
ひろゆき:そうですかねえ。
竹中:それはまたいずれご相談するとして(笑)、ひろゆきさんも僕も、誰に嫌われようが全く気にしていないということが確認できました。嫌われてもいいから、自分が正しいと思っていることを正直に話したいと思っている。
ひろゆき:はい、その通りです。
第1回:ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか(6月24日配信)
第2回:ひろゆきが竹中平蔵に聞く経済学者としての実績(7月1日配信)
第3回:竹中平蔵がひろゆきに答える「私が嫌われる理由」(7月8日配信)
(ひろゆき : 元2ちゃんねる管理人)
(竹中 平蔵 : 慶應義塾大学名誉教授)