ネットメディアはジャーナリズムを変えられていない - BLOGOS編集部
※この記事は2012年01月20日にBLOGOSで公開されたものです
ニコニコ生放送とBLOGOSがタッグを組んでお送りしている、「ニコ生×BLOGOS」第５回は番組のご意見番であるジャーナリスト・須田慎一郎氏の持ち込み企画！2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、テレビ・新聞といった“大手メディアは信用できない”という声が高まった中で、台頭してきたネットメディア。解散総選挙も噂される2012年は、そんなネットメディアが大きく躍進する年になるのか！？
ゲストには、ジャーナリストでIWJ代表の岩上安身氏、フリーランスライターで自由報道協会の広報も担当されている畠山理仁氏、ニコニコニュース編集長の亀松太郎氏が出演！
現代のネットメディアを担うメンバーが一堂に会し“ジャーナリズム”という観点からその未来について考えました。
【出演】
司会：大谷広太（BLOGOS編集長）
アナウンサー：小口絵理子
コメンテイター：須田慎一郎（経済ジャーナリスト）
ゲスト：岩上安身（IWJ代表・ジャーナリスト）
畠山理仁（フリーランスライター・自由報道協会広報）
亀松太郎（ニコニコニュース編集長）
３．１１から メディアはどう変わったのか！？
大谷：私ども、BLOGOSをやってまして、3月11日を境に大きく変わったのは、TwitterとかfacebookからBLOGOSを見に来るお客さんがとても増えたというのが、印象的だったんですね。数字的にはものすごいものだったんですけれども。テレビとか新聞とか大手メディアではないところのオルタナティブな意見として、一般の方あるいは専門家の方が、直接自分の口で、ネット上で発信した情報の価値を、みなさん認識されたんじゃないかなーという風に思っているんですけれども。いかがですか、亀松さん？亀松：３．１１以降ということでいうと、ネットメディアはイキがいいなーというのが言えるんじゃないかなあと思うんですよ。「ネットはデマばかり」っていうコメントもあると思うし、多少、行き過ぎたり、不正確なものもあるのかもしれないんですけども。特にフリーランスの人たちが記者会見に出ていって、どんどん情報を発信していく。本当にそういうことが活発化した年だったと思います。それは３．１１以降が非常に顕著だと思います。
大谷：原発の問題にしても、賛成派・反対派含めて、テレビだとそんなに振り幅の大きいことってやりづらいのかなと思うんですけど、ニコ生（ニコニコ動画）だと様々な方を呼んで、色々番組されてましたよね。反響はいかがでしたか？
亀松：最近もよく言われるのは、東京電力の記者会見を最初から最後までやり続けたと。あと官邸の官房長官会見もやり続けたっていうことに対して「見てましたよ」という声はよく聞きますね。ですからそこはある意味、我々の特徴と言えるかもしれないなと思っています。
大谷：岩上さんも畠山さんも会見を取材されていかがでしたか？
畠山：テレビとかだと、反原発派の方っていうのは、あんまり出なかったりっていうことがあったと思うんですけど。結果的に、自由報道協会で去年67回の記者会見を主催しました。やっぱり原発事故があってからというのは、いわゆる“反原発といわれる方”“脱原発のお考えをお持ちの方”が多く記者会見をされています。それはこちらが選んだというわけではなくて、今まで既存メディアでは、発言の機会を与えられてこなかったということもあったと思うんです。その一方で、原発推進派といわれる方々があまり記者会見にきていただけなかった結果、脱原発の方が多く記者会見をされたことになったんです。ただ、今まで既存メディアではなかなか世の中に出ることがなかった意見も、僕らとしては平等に発言してもらおうと思ってお呼びしたので、結果的に“脱原発”の方が多くなってしまいました。既存メディアとの対比という意味でいえば、それで少しは社会的なバランスがとれたのではと思ってます。
あともう１つ、官房長官会見をニコニコ動画さんが中継されましたけども。これ初回からじゃないんですよね。原発事故があった3月11日の日は緊急会見ということで、これまでは入れたフリーの記者は出席できなかったんです。今までフリ―の記者ってまとまりがないので、窓口がどこになるかとかなかったんですけども。自由報道協会が震災前にあったことで、自由報道協会から官邸の報道室にずっと申し入れをしていたわけです。「海外のメディアもネットメディアも記者会見の場に入れて、取材させるべきだ」ということを言い続けてですね。結局、３月17日から、インターネット報道協会が代表カメラという形で、一台入れることになったので。すべてのフリーランスを代表しているわけではありませんけれども、窓口として機能したという意味では、少しは貢献できたかなという風に思ってます。
大谷：岩上さんはいかがですか？
岩上：３．１１以降、非常にネットに注目が集まったというのは事実だと思うんですね。ただネットっていうと、あまりにも広すぎて、インターネットすべてが急に注目されたのかというと、そんなわけはない。もっともっと前からあるわけですよね。じゃあ、なぜ３．１１以降に注目を集めたのかというと。１つは、Twitter、facebookなどのソーシャルメディア。これによって情報を得ようとする人たちが格段に増えたと思うんです。そういう中から、例えばニコニコ動画やユーストリームなどのライブストリーミングを見に行こうという人たちが増えていった。そういうストリーミングメディアといったものの影響が大変大きくなった。ネットという中でもストリーミングですよね。これが技術的にいっても、最近急速に発達したもんだと思いますし。それが果たした役割は大変大きかったんじゃないかなと。
特徴はいくつかあります。速報性とか即時性は当たり前のこと。生中継なんですから。もう１つは情報量に制約がない。テレビの生中継は延々とやりつづけることはできないですよね。僕ら、IWJは震災当初、東電の会見を24時間ぶっ通しで中継していたんですよ。これは本当に１日ずっとつけっぱなしにしていたんです。それは必要性があったから。というのも、会見っていうのは突然はじまっちゃうんですよ。急にパソコンは立ちあげられないので、簡単な機材ですが、つけっぱなしにしておこうと。そこにず～っときてましたね。多くの人が。そして、今ではそこのハッシュタグを使って、みんながコミュニティーのように集まる場所になっちゃいました。僕がいてもいなくても関係ない。みなさん、それぞれの交流がそこにあるんです。
写真一覧
岩上：今までの既存のジャーナリズムっていうのは。例えば、文字にするとかね。そうすると、須田さんが「○○が△△という場所でこんなことを言った」という取材をされた時に、その裏（証拠）をとれているのか…という話になるわけですよ。ところが、そういったワンクッション置いた、間接的な話ではなくて、取材先の発言をそのまま出してしまっているわけです。早い話が、既存メディアで文字を書いていた時の“裏どり”に当たるものが、最初から丸出しになっている。そういう状況にあるわけですね。
須田：ということは“検証していない”というわけですね。
岩上：いや、検証していないわけじゃなくて。例えば、このように中継で流れてるわけじゃない？それで、須田さんがこの番組でこんな発言したという検証は、この放送で成立するわけですよ。
須田：いや、つまりね。内容に対する事実かどうかという検証作業は？
岩上：内容に対する事実かどうかというんじゃなくて。発言が事実かどうかの検証は可能。今度はその発言の内容が、もっと深掘りできるかというテーマは残っていると思います。つまり、これまでの検証というものは、事実確認というもの。それを深めていく時にどうすればいいのか。調査報道も必要でしょう。
須田：だからね、これはお二方にもぜひ伺いたいんですけれども。インタビューをとりましたと。その発言が事実かどうなのか。要するに、事実じゃないことを伝えるとなると、さきほどから批判されているように“デマを拡散している”というところにもつながっているんだけども。その事実の確認作業というのは、どんな風に受け止められていますか？ちょっと挑発的な物の言い方をしてますけども。
亀松：そこに関していうとですね。検証した上で情報を伝えていくというジャーナリズムでいうと、我々ニコニコ動画だったり、ニコニコニュースは、いわゆる既存メディアの報道局に比べれば、人数にしても、ノウハウにしても、個人の資質という面でも、まだまだ及ぶものではないと思っているんですね。
そういう意味で行くと、我々は“プラットホーム”っていうことに、重点を置いていこうと、今のところは考えていて。例えば、官僚が発言している内容が正しいかどうかを突きつめて検証することをすることを我々自身がやることは難しい。そこまで力がないかもしれないとは思っているんです。ただ一方で、僕らがやったこととしては。例えば、放射能の専門家だったり、色々な大学の先生。原発に対するスタンスも反原発の人もいれば、肯定的な人も呼んで。その専門家の話を伝えていく。議論させていくという形を作るということで、そういった検証作業に寄与できればなと思ってます。
須田：そのプラットホームの中で、伝えながら検証作業をやっていく？
亀松：そうですね。それは別にネットメディアというわけでなく、ニコニコ動画に関してですね。元々がプラットホームという位置づけがありますんで。もちろん、中には自分たちが検証できるものもあったりはする。そういったものはね、やったりはしますけれども。ただすべてに渡って、我々自身が検証できるかというと、そこまでのリソースはないと思っています。
須田：畠山さんの場合は、どちらかというと“アクセス権を認めろ”というところでやってこられてるわけですけれども。それは情報をスムーズにスピーディーにとるということですよね。それを今度加工するといった時に、ジャーナリスト畠山としては、どう活用していきますか？
畠山：ネットメディアのいいところっていうのは、いま放送している中でも、色んな人がコメントしますよね。そういったコメントというのがすごくヒントになる。例えば「今、枝野幸男さんが言っていることはホントなのかどうなのか？」。見ている方が知っている事実があるので“こういう見方ができるのではないか”ということが、一挙に集めることができるわけですよね。そういう意味では、視聴者も参加できるし、レスポンスがリアルタイムで見られるということで、畠山理仁という人間がたった1人で事実を検証するのではなくて。見ている方も巻き込んで“こういう見方もあるのではないか？”というところからスタートして、事実を検証して、最終的に記事にしていくと。そういう意味で、色んな方の力を借りながら、情報の質を高めていくことができる可能性は秘めているんじゃないかなという風に思ってます。
もちろん、記者個人としても、能力を高めていかなければいけないし。寄せられる声に対して、取り上げるに値することなのかという判断を下していかなければいけないんですけど。それは、例えば、これまで新聞に対して「これはどうなんですか？」という意見をいっても、それが紙面に反映されるにはものすごい時間がかかっていた。だから、ネットメディアと既存メディアがどう違うかということでいえば、従来のメディアがスポンサーからのお金で動いてきたものであるのに対して、ネットメディアというのは、見ている方が参加することで情報の質が高まる…という風に思っています。
須田：私はね、既存メディアの最大の問題点というのは、その検証作業が見ることができないブラックボックスになっていることだと思うんです。それに対して、ネットメディアの検証作業は非常に透明性が高い。見ることができる。あるいは参加することができる。 だから、その検証作業についての検証といったらいいのかな。可能になっているというのは、ネットメディアの強みになるんではないかなと思うんですよね。
畠山：報道過程の可視化ということですよね。だから、私が取材しているところも丸々見えてしまって、その結果、私が書いた記事っていうのが「くだらねえなあ」という風にバレてしまうものでもあるかもしれない。ただ、今までの既存メディアでは、記者会見だってオープンになっていなかったから、どんな質問をして、それがどのような形で報じられるかっていうのが全く分からなかったのが、先ほど須田さんがおっしゃったように、見ている方々にとってもわかるようになったという意味では大きな変化だと思います。
須田：そういった意味で言うと、よく（雑誌などにある）“関係者によれば”とか“事情通によると”といったことが許されないのがネットメディアなんじゃないかなと。
大谷： “信頼性”というコメントがありましたが、先ほどの亀松さんの話と同じ問題点があって、BLOGOSも色々な専門家の方のブログを集約しているメディアです。そこに書かれていることが、ホントに背景まで含めて事実かということに関しては、いま残念ながらそこまで検証できていないんですが。ただ、実名で書いてらっしゃる方もいるので、当然自信を持って書かれているだろうし・・・というのはあると思うんですよね。
加えて、ネットの場合は他の意見の方も合わせて見せることもできると思いますので、そういう形で可能な限り実名で発言する人を大事にするであるとか、より良い意見がきちんとユーザーの目に触れられるようにするとか。今の課題だと思いますね。
亀松太郎氏。 写真一覧
良質なジャーナリズムの提供にかかるコスト。負担はだれが…。
小口：須田さんなんかは、大手メディアとネットメディアを上手に渡ってるなと思いますが、なにか区別はしているんですか？須田：私は区別してないんです。ネットだろうが、テレビだろうが、ラジオだろうが、新聞・雑誌だろうが、全く区別せずに情報を発信してるつもりなんですよね。ただし、そうはいっても既存メディアっていうのはフィルターがかかることは間違いないんですね。フィルターというのはなにかっていうと。例えば、一番大きなフィルターというのはスポンサーであったり、情報源だったり、あるいは時間であるとか。さっき制約がないといいましたが、時間的な制約でどうしても端折ってしまうところがあったりとか。あるいはわかりやすく話してしまったがために事実と違ってきたりとかね。そういうフィルターがないという点ではネットのほうが使い勝手がいいかと思いますけどね。
小口：岩上さんは、テレビの情報番組をやっているご経験からそのあたりはいかがですか？
岩上：確かにスポンサーへの配慮はあるんじゃないですかね。ただ僕は局アナでもないし、制作サイドにいたわけでもないから。コメンテーターなんで気楽にしゃべらせてもらいました。ただどこからお金がでているのか、ネットは気にしないというと、そんなことはないと思うんですね。IWJでいえば、結局一般市民が…ということなんですよ。大資本サイドには立たないですよ。お金と情報内容の関係性というのは一定程度あるでしょうね。
須田：ただし、情報発信者サイドの中にもフィルターがあって“ネット（メディア）にでてるから信用できるのか？” そうじゃない。発信者が誰なのかっていうのも１つポイントになってくると思いますけどね。
亀松：スポンサーの問題をね、テレビを事例に出したんで、テレビはスポンサーに配慮して、ネットはそうじゃないっていう風に、もし聞こえたとするなら、それは違うんですね。例えば、IWJや自由報道協会のように、一般の方からの寄付などで運営されているところっていうのは、ネットでは珍しいパターンで。ニコニコというのは、有料会員の課金システムですし。ネットのほとんどのサービスっていうのは、スポンサーによって運営される広告モデルが主流です。ただ、テレビのように、大スポンサーがドーンといて、その意向を伺いながらというのは、ちょっと違っていて。多少そこはスポンサーとの距離感も違うんですが。僕らは、スポンサーの意向を全く無視するわけではないんだけれども、売り上げの全体の比率は広告のほうが少ないから、テレビほど意識しなくていいという構造にはなっています。
岩上：海外も含めて考えてみても、３つだと思うんです。会員制のモデル、スポンサーによって提供されているモデル、ドネーション（寄付）によって成立しているモデル。このドネーションで成立するっていうのは、既存メディアにはないパターンなので、そこはおもしろいと思います。またその中で、ありそうでないものが“情報”をそのまま売買するモデル。どういうことかというと、出版のモデルというのは雑誌・本に入っている情報を読者が買っているというモデルなわけです。ところがネットの登場によって打撃を受けてしまった。なぜならば、情報がタダで提供されるようになってしまった。これもう元に戻らないですね。だから情報というのは個別に売り買いできるだろうと信じられていたのが、もう売買市場というのは個別には成り立たない。そうではなくて、例えば、じゃあドネーションって似たように思われるんだけど、IWJの場合、僕らの提供した情報１つに対して“それだけ買いたい”というのではなくて、「IWJの姿勢に共感するからよろしく頼むよ」ということだと思うんです。IWJがドネーションをしていただいているのは。こう考えると、ドネーションはあるけれども、売買市場はどんどん縮小していくという不思議な現象が進んでいると思うんですね。
亀松：少し補足的なことでいうと、確かに“情報の売買”という点では、ネットの場合はかつての出版と比較すると規模も少ないですし、不利な点があるんですが。去年あたりから風向きが変わってきている部分もあって。メルマガを一部のフリージャーナリストが有料で配信すると。去年有名になった方でいうと、津田大介さんが有料のメルマガをやって、かなり会員数を伸ばしているというのがあってですね。そういう意味では、意外とメルマガというのが見直されていて、情報の売買というのがそういう形で成立することが増えていますね。
あとね、ニコニコ動画の事例でいうとですね。震災の時に被災地に対しての募金をお願いしたんですね。その総額が２億円以上になったわけですよ。その金額というのは非常にびっくりするものであって。もちろん、それだけの金額が集まったということがびっくりなんですけども、ネットという場だけで、それだけお金を払う人たちがいるということが非常に驚きで。そういう意味では、だいぶ環境が変わりつつあるのかもしれないなと思いますけどね。
大谷：BLOGOSに関しても、フリーのブロガーさんやジャーナリストの方がたくさんいらっしゃいますけども、うちで情報を発信することで読者が増える。ファンが増える。 そうすると、その人に自然と「この人がメルマガ出すんだったら、購読してみようかな」とか「この人が支援して欲しいというんだったらお金出してみようかな」という人が、少しずつ増えているような気はしてますよね。
岩上：私は自分でいっておきながらなんですが。個々の情報を、お金を出して買うという市場が小さくなるんじゃないかと思いながらも、やはり情報が個別に売買される市場というのはネット時代でも確保したいと思っていて。今、IWJを新しいサイトに切り替えたんですが、そこでオンデマンドで、個別に情報が買える機能を持たせようと思ってるんですよ。つまり、岩上安身あるいはIWJ全体を応援したいと思っている人でなくても、岩上が抜いた“あのスクープだけは読みたい”“あの動画だけは見たい”…という人に対しての情報の提供もやっていこうと思ってるんですね。
須田：元々、良質なジャーナリズムを提供するという点で考えると、かなりコストがかかるんですよ。取材経費であったり、情報を集める作業であったり。“そのコストを誰が負担するんですか？”という問題っていうのが、これからネットメディアに問われてくると思うんですよね。
当然、ジャーナリストにも生活がありますから、一定のお金を稼がないとやっていけないわけですよ。しかし、今回３．１１でわかっちゃったのが、なにか特定の目的を持って、報道をコントロールしたいと思った方がいたこと。これが既存メディアに大きな影を落としたってことが間違いなくあると思うんですよね。
畠山：ネットメディアの将来っていうことですが。例えば、岩上さんのようなドネーションタイプのものや会員制のものというのは、個人のキャラクターってところに依存するところが、すごい大きいわけじゃないですか。これって選挙にすごく似てると思うんですよね。例えば、政治家っていうのは、有権者、選挙に行ってくれる人がお客さんなわけじゃないですか。だから、必ず選挙に行ってくれる人のための政策を商品としてやるわけじゃないですか。そうなると選挙にいかない無党派層というのは、お客さんとして見られてないから、そういった人達に対しての政策もでてこない。言ってみれば、無党派層というのは未開の市場であって、選挙に必ず行ってくれる年齢層の高い人たちに向けた政策っていうのが、社会でずっと支持されていくって結果につながっていくんですけど。
ネットメディアっていうのも、例えば岩上さんのIWJにお金を払って支援するということになったら。さきほどのスポンサーの関係とも絡んでくるんですが。そういう方々に支えられているというのを、岩上さんは無視するわけにはいかないじゃないですか。当然、意識するし、そういった方々が岩上さんに対して「こういうことを報じて欲しい」というリクエストがダイレクトにくるから。カスタマイズした情報を岩上さんが出すことも可能になるので。そういう意味では、色んな人がお金を出す、意見を出す、アイデアを出して参加することがネットメディアの質の向上につながるんじゃないかなと思いますけどね。
岩上：実は支えてもらっている中に、お金だけでなく労力の提供というかね。「自分は、お金はないけれども、お手伝いをしたい」ということで、各地での中継を手伝ってくれたりしてくれる方がいるわけですよ。いってみれば“労力のカンパ”みたいなもんですよね。これはバカにしてはいけないことで。市民の参加のレベルには色々な形があり、その参加によって１つのメディアが形作られているということはありうるんじゃないかと。これも狙ったわけではないんですが。こういうことは 既存のメディア、商業メディアにはありえないわけで。これも非常におもしろい現象だなと思ってます。
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２０１２年、ネットメディアが目指すのは・・・
小口：「２０１２年、ネットメディアが目指すところ」も聞いていきたいと思いますが・・。須田：ぜひ亀松さんにお話し伺いたいなと。新聞という既存メディアにいらっしゃったわけじゃないですか。そこを退社されてニコニコ動画に移ってきた。それはやっぱり既存メディアでは果たせない思いというのがあったと思うんですけれども。
亀松：大義名分があるというわけではないんですが、あえていえば。既存のメディアがやってないこととか、やれないことってなんだろうということを個々に考えていきながら、やっていくことかなと思っていまして。例えば、既存のメディアが取り上げない人っていますよね。番組のテーマにしても、切り口にしても、その都度都度やっていないところを突いていくというのが、今年も続いていくかなーと思ってます。
須田：やっぱり自由報道協会というのは、既存メディアとの対峙というのが、去年クローズアップされたと思うんですけども。やっぱりそのあたりというのが、今後もテーマになってくるんですか？
畠山：必ずしも敵対するわけではなくて。全然敵対しなくていいと思っていて。自由報道協会の記者会見っていうのも、既存メディアの方にもドンドンきてくださいといってますし。既存メディアの方が報じられない部分っていうのを、最初から最後まで記者会見を中継する・・・ニコニコ動画さんとかIWJさんとかビデオニュースドットコムさんとか色んなところがやってくださっているので。それは、既存メディアには絶対できないことだと思うので。ただそれが、例えば、日本の司法記者クラブだと“生中継ができません”とか、そういった制約があったりするので。そういった制約がない“場”というのを提供していって。それが最終的には一般の視聴者の方に還元できればいいのかなと思ってます。
小口：続いて岩上さん。２０１２年、ネットメディアが目指す方向はどうなると思いますか？
岩上：僕らIWJは思いがけないドネーションがあって、みなさんにお支えいただいたんですね。ただ、本当の真価が問われるのはこれからだと思います。経営の安定化、活動費は稼がなければいけないから、そのために会員制というのを始めてみたんですよ。でもそれがうまくいくかは全然わからない。ただそれはやってみないとわからないんですよね。一瞬先は闇の中でやれることをやりたいと思いますね。
須田：最後は大谷編集長にBLOGOSが目指すところを伺いたいですね！
大谷：私もライブドアニュースを数年前からやっていて。当時はこういう生放送のインフラってなかったんですよね。でもいまは一般の方でも、iPhoneとかあれば、すぐ生中継できるようになったわけですよね。去年になるとこれだけTwitterもfacebookも普及してきましたので。今度は一般の方が出してきた情報をどうすくいあげられるか。そういうことが一番重要かなと思ってますし、BLOGOSでいうと、そこで集まってきた情報をどうやってきちんと評価して、いいものはいいということをユーザーの助けを借りて、見せていけるのかというのが大事になってくるのかなと思いますね。
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ネットメディアはジャーナリズムを変えられていない！？
小口：ここでメールをご紹介しましょう。大谷：質問です。「コストや専門性や経験といった個々の記者の能力といったものを考えると、今のネットメディアやフリージャーナリストでは、やはり政治の中枢に入っていくような報道は難しいのでしょうか？」つまり、組織として新聞社だからできることもあるだろうし、あるいはそこで専門的な教育を受けている方だからできることもあるだろうと。一方で、報道の中では素人の方では難しい部分もあるのでは・・・という意見なのですが。
亀松：単純に人の数からいったら、新聞社の政治部の人達というのはものすごくたくさんいるわけですから、そちらのほうがアクセスしやすい。あと、記者クラブっていう制度もありますので、そういう意味ではアクセスのしやすさはあると思うんですが。ただ、フリーの人たちが政治の中枢にアクセスできないかといえば、決してそんなことはないと思うんですよね。例えばですけど、個々の政治家に対してアプローチするっていうのは、ジャーナリストの人達はそれぞれやっているところであったりするわけで。一概にはいえないというか。単純な量でいったら、新聞社などの“組織”は強いと思いますけど。
須田：ある意味でね“時間的な問題”ってのはあるんだろうと思うんですね。既存メディアの有利なところっていうのは、人間関係を構築するまでに時間がかからないんですよ。それは会社の看板をもってやってますからね。フリーランスであるとか、看板がないネットメディアの場合は、ゼロから人間関係を構築していかなければならない。だから非常に時間がかかる。そういった意味でいえば、日本の政治の中枢にすぐにアクセスできるか。有意義な情報がとれるかといえば、できないという問題ではなくて、時間の問題があると思うんですけどね。
岩上：政治家には会えるかもしれない。政治家というのは社会に対して開いている部分もあるんですよ。それに対して、何にアクセスできないかというと“官僚”なんですね。これは記者クラブという制度の中に入っている人間は、アクセスが簡単だけれども。外にいたらなかなか難しいですね。その差っていうのは、そう簡単に越えられるものじゃないし、今年１年とか来年、再来年で変わることはできないだろうと。番組タイトルの「ネットメディアはジャーナリズムを変えられるのか？」ですが、ほとんど変えられてないんじゃないかなというのが、当事者としての実感ですね。
畠山：ネットメディアっていうのを育てていかないと。例えば、役所の中にニコニコ動画っていうのが入れることができたっていうのも、インターネット報道協会っていうものの存在感が認められていたから入れたわけで。そこを支えていかないと、ホントに追いだされるわけですよね。例えば、警察庁なんていうのは、僕らみたいな会社員ではない人間は、記者会見どころか庁舎の中にすら入れないということがあるわけですよ。それが既存のメディアの人たちは入れるという状況があるんですけれども。今少しずつですけど、ネットメディアが官庁の中に入ることができてるっていうことは、そこから少しずつ穴を広げていって、警察庁にニコニコ動画が入ることだって可能になるんじゃないかなと思うんで。そこは支えないと、ドンドン情報の出口とか入口というのが狭まっていきますよね。
大谷：続いての質問。「年明け以降、テレビのニュースでは原発関連報道がすっかり減少してしまいましたが、みなさんはその理由をどうお考えでしょうか？やはり原発の報道をしても視聴率がとれないからという商業主義が大手メディアの思考の中にあるんでしょうか？」
須田：それはありますね。視聴率というのはある意味で、マーケットメカニズムが働いているんですよ。だから視聴率が高いところに対してはスポンサーがつくし。その高いスポンサー料も払われると。だからどうしてもテレビメディアは視聴率至上主義に陥ってしまう。これはしょうがない。ただ、この視聴率というのはどういった形で調査しているのか？これが問題なんですよ。視聴率を調べるための機器というのがあってね。これは色んなところに渡っているわけじゃなくて、特定の家庭に配置されてるわけなんですね。これが平均すると４人家族で、子供が中高生の家庭なんですよ。
小口：もっと無作為かと思ってましたけど。
須田：非常に恣意的。だから、中高生が見るような番組多いでしょ？ドラマでも、バラエティでも。だから私は視聴率というのは非常に恣意的に形成されてるんじゃないのかなと思ってます。
亀松：確かにドラマとかバラエティ番組の内容に関して、視聴率が影響力を持っているというのは、その通りだと思うんですが。原発に対する関心というものに関していうと。我々も東京電力の記者会見をずっとやっていて。そこではっきりわかるのは、見る人の数がはっきりと減っているんですね。ですから、関心を持つ人が減っているとか、同じ人でも関心を持つ度合いが減っているっていうのは事実なんですよね。
ただそういう逆風の中で、どうやっていくか考えていくというのは、ネットメディアだけでなく、既存のメディアにも同じような問題はあるのかなと思いますけどね。
大谷：最後の質問です。「放射能の影響について。例えば、低線量被曝の影響についても色々な見方があるようです。こうした情報をどうやって見極めて判断に利用していけばいいのでしょうか？アドバイスお願いします」 これはネットメディアに限らず、全てのメディアにおいてだと思うんですけど。これはもう情報の出し手の問題だと思うんですけど。
岩上：やっぱり証拠があるかどうかということは、すごく重要だったりしますよね。その証拠のレベルっていうのは色々ですよ。例えば、誰かがなにかを発言したという事実についての証拠っていうのはダダ漏れで証明できるかもしれないけど。「誰かが言った話」の内容についての検証はどうなるんだろう。そこにはやっぱり調査報道が必要だったりする。それはもう真実は簡単に見極められるもんじゃないですよ。苦労して、苦労して、苦労して、僕ら自身も模索しながらやってることで。みなさんも一緒にね、あがいてもらいたいと思いますね。
これまでのニコ生?BLOGOS
・第１回：石川知裕氏「野田政権大丈夫かな？」・第２回：一色正春氏・ 神浦元彰氏「sengoku38と考えるニッポンの領土問題」
・第３回：宮崎学氏「日本最大のヤクザ組織は警察です」
・第４回：ライブドア球団がNGだった真相とは 元取締役が語る「球界裏事情」
出演者プロフィール
岩上安身（いわかみ やすみ）ジャーナリスト。1959年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒業。
■ 岩上安身責任編集－ＩＷＪ ■
画像を見る畠山理仁（はたけやま みちよし）
ジャーナリスト。1973年生まれ、愛知県出身。
早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。興味テーマは政治家と選挙。2010年12月1日、オープン化が進む政府記者会見の現場をルポした『記者会見ゲリラ戦記』（扶桑社新書）を上梓。
・メルマガ そこそこ週刊 畠山理仁｜フリーランスライター畠山理仁のブログ
画像を見る 亀松太郎（かめまつ・たろう）
ドワンゴ・ニコニコ事業本部ニコニコニュース編集長。1970年生まれ。静岡県出身。
朝日新聞、J－CASTニュースを経て、２０１０年４月にドワンゴへ。ニュースサイトの運営と報道系番組のプロデュースを担当している。
画像を見る須田慎一郎(すだ しんいちろう)
経済ジャーナリスト。1961年生まれ。東京都出身。
日本大学経済学部卒。経済紙の記者を経て、フリー・ジャーナリストに。「夕刊フジ」「週刊ポスト」「週刊新潮」などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ朝日「ワイドスクランブル」、「サンデーフロントライン」、読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」、ニッポン放送「あさラジ」他、テレビ、ラジオの報道番組等で活躍中。 また、内閣府、多重債務者対策本部有識者会議委員を務める（現職）など、政界、官界、財界での豊富な人脈を基に、数々のスクープを連発している。
・須田慎一郎の政経コンフィデンシャルブログ
画像を見る小口絵理子（おぐち えりこ）
アナウンサー。
1998年、ニッポン放送入社。翌年から、朝のニュース・情報番組「高嶋ひでたけのおはよう！中年探偵団」昼のバラエティ「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」のアシスタントを担当。退社後は長野県庁の派遣研修員として中国・河北大学へ１年間留学。
・小口絵理子のアナウンススクール
