※この記事は2012年01月15日にBLOGOSで公開されたものです

「大阪一丸CM」より。


赤木智弘の眼光紙背：第208回

　大阪府が、イメージの悪い「ニート」という言葉で括られがちな、就業意欲がある若者たちを「レイブル」と呼び、イメージを変えていこうと提唱しているという。(*1)


　最初にこれを聞いたときに「レイブン」、すなわち不気味な印象を持つカラスの名前をつけたと勘違いして、ずいぶん嫌な名称だなぁと思ってしまった。

　「レイブル」とは「レイトブルーマー」の略で、遅咲きの意味だと言うが、そもそも「仕事に就く＝咲く」というイメージを乗っけている点で、今の日本の現実をしっかり見据えることができていない。

　就業の意欲があるのに仕事に就けないのは、そもそも仕事の供給量が少ないからだ。「仕事を選ばなければある」となどという人もいるが、そうした低賃金の仕事では、結局フリーターなどとして、実家に居つく形で依存するしかない。その状態で一時的に生活が成り立っても、親が引退したり死亡したりしてしまえば、生活が成り立たない。

　一方で、自立して生活できるだけの収入を見込める仕事は、極めて数が限られる。仮にフリーターではない仕事にうまくありつけたとしても、それはようやく一人暮らしが維持できる程度の収入の仕事であり、結婚して家族を養うことができる仕事は、もはや枯渇状態である。

　だからこそ「就活」などという言葉が生まれ、学生たちは勉強そっちのけで必死になって就職活動をしているのだ。そこに一度ドロップアウトしたニートが入り込む余地はない。

　こうした現状を踏まえていないと、単にニートに「人生をやり直せるかもしれない」という、上っ面だけの希望を与え、結局は失望させてしまうだけの事になる。また「中小企業なら職はある」などという、ニートはもちろん中小企業も見下したようなインチキ就職コンサル連中に無駄金を払うことになる。


　もちろん、名称を変えてイメージを変えようとすることは悪くない。悪いのはそうした小手先の改革を行えば、世間がニートに対する偏見を納め、ニートたちも自信を取り戻すかのようにイメージしてしまう、その考えの甘さだ。

　就業意欲がある人を労働市場が吸収し、なおかつ労働を通して自立出来るだけの金銭を手に入れられるようにするには、何より労働者への需要を生み出すことが重要である。現状では労働力を供給したい人が多くて、需要が少ない。そもそも労働は嗜好品ではなく、半ば義務と化している（憲法上の「勤労の義務」とは別の話）から、供給は常に国民の大半である。ニートに働いて欲しいのであれば、まずは国民の大半を労働市場で売りさばけるだけの需要を生み出すことこそが、行政のすべき仕事である。

　今回、大阪府がこうした提唱を行ったことは、そうした行政の問題を、さも「イメージが悪いからニートが働けないのだ」などとして、問題をあさっての方向に放り投げたかのような印象が強い。

　そして、そもそもの景気の問題や、人件費を削減しようとする企業の思惑、貧しい人ほど割を食う社会保障などなどといったさまざまな問題から目を背けようとしているのではないだろうか。

　こうした小手先の対応が、結局は問題をこじらせてしまっているかも知れない。私たちは行政のそうした動きに、もっと注意をはらうべきだろう。


*1：ニートに代わる名称「レイブル」　大阪府が提唱（大阪日日新聞）http://www.nnn.co.jp/dainichi/news/120111/20120111022.html

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プロフィール
画像を見る赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。