「意味のない二大政党」と石破氏 エコノミスト紙の討論会で政界を斬る - BLOGOS編集部
※この記事は2011年12月12日にBLOGOSで公開されたものです
自民党の前政務会長である石破茂氏が、日本の政党政治をバッサリと斬った。「今の民主党対自民党というのは、ほとんど意味のない二大政党」として、政策本位での政界再編を説いたのだ。消費税増税やTPP加入の是非をめぐって、両党とも賛成派と反対派を抱えて身動きが出来ない状況になっていることを批判した形。自民党の次世代リーダーとして注目を浴びている石破氏が政界再編に意欲を示したことは、政界に大きな影響を与えそうだ。【写真・文：安藤健二（BLOGOS編集部）】機能不全の政党政治
これは、英国の著名な経済紙「エコノミスト」が、都内のホテルで開催した討論会「ジャパン・サミット2011」。まる一日かけて8回のセッションをし、政財界からのべ30人以上の専門家が参加する。午前9時からスタートした「再考：日本にリーダーは必要か？」というセッションはエコノミスト誌のヘンリー・トリックス支局長が司会を務め、石破氏のほか、一橋大学客員教授の近藤正晃ジェームズ氏と上智大学教授の中野晃氏一氏が参加した。トリックス支局長らが「日本政治の低迷はリーダーシップの欠如に起因するものなのか？」と問いを投げると、石破氏は「今の政治が混迷しているのは、政治家の側も有権者の側も真実という物を広める努力をしていないため。今こそ政治家と有権者の側が信頼関係を結べるようにしないといけない」と話し、リーダーシップの問題よりも政党政治が機能不全になっていることの弊害が大きいと指摘した。詳しいやり取りは以下の通り。
「詐欺をやった者が勝ちになる」
トリックス氏：石破先生は真実を語ることの重要性についておっしゃってくれました。そして自民党は、税制改革の問題を随分長いことやってますけども、消費税増税の問題もそれに含まれています。しかし、野田政権の消費増税には反対しているのはなぜなんでしょう？石破氏：昨年の参院選での自民党の政策責任者でしたが、党内には反対もあったけれども、消費税は10％に上げるという公約を掲げて国民の一定の支持を得ました。私は野田さんがやる消費税引き上げの議論には決して反対をしていません。ただ問題は、民主党が一昨年に政権を取ったときに消費税を上げるということは一言も言わなかったということです。政権党として「消費税を上げますよ」と言うからには、「一昨年に消費税は上げなくても大丈夫ですよ。無駄を省けばいくらでもお金は出てくるんですよ、と言ったことは嘘でございました」ということを言ってもらわないと、民主主義は詐欺をやった者が勝ちだということになってしまう。
私は野田さんがそのことをきちんと認めるとともに、なぜ消費税を上げなくてはいけないのかということをちゃんと語ってください。そして「次の時代に負担を先送りしてはならない」ということをきちんと言ってください。
「ギリシャになるぞ」と言うけど、ギリシャよりもっとひどいんで、本来なら金利はもっと上がり、国債は暴落しなきゃおかしいのに、「日本の国債は外国が買ってるわけじゃなくて日本国民が買っているんだから、もはや踏み倒すことはあるまい」と信じてるから国債はまだ需要があるんですよ。「実はそうではない」ということがバレた途端に、国債は暴落、金利は暴騰。そのときは国の終わりなのであって。「外国から借りてないから大丈夫だ」なんてことを言うことを世の中にいるけど、「そんなことは間違いだ」ときちんと言わなければ、国民は納得できないと思いますよ。私は野田さんの足を引っ張るために、民主党の消費増税に反対と言ってるんじゃないです。「きちんと理由を示せ」「フェアにやってくれ」と言ってるだけです。
「システムではなく政党の責任」
会場から質問を受ける石破氏ら写真一覧
石破氏：そうですねー。今の民主党対自民党というのはほとんど意味のない二大政党だと私は思っているんですね。自民党の中には「消費税を引き上げるべきだ」「いや、そうじゃない」というのがいる。「TPPに参加すべきだ」「そうじゃない」とういうのがいる。
あるいは、「日本国は憲法改正は極めて難しいが外国の軍隊が駐留しているのはなぜなのか」「なぜ日本が合衆国に対して基地提供の義務を負うか」という点も意見が分かれています。それは日本国が合衆国防衛の義務を負わないから。その代わりとして基地に駐留させる義務を置いているわけですよね。私は合衆国の駐留は必要だと思っています。だけども、義務として駐留してもらうのではなくて「日本国民が合衆国のこういう部隊が必要だ」と理解した上で駐留を認めるのが正しいと思っているが、「そうじゃない」って人も自民党にいます。
同じ構図は民主党にもあるわけですね。「TPP賛成・反対」「税制改正賛成・反対」「日米安保条約改定賛成・反対」。（民主と自民の）どっちの党にも両方の意見があって、そのディスカッションの結論を見るのに、ものすごく時間がかかって、結論なんて出るわけなくて、足して2で割ってみたり、両論併記してみたり、これは国民に対して選択をお願いすることになりません。 民主主義の結論を求めることになりません。
それは政治家の利益を追っているだけであって、つまり自民党を出ちゃったら当選できない。いろんな団体が応援してくれないから。民主党を出ちゃったら当選できない。労働組合が応援してくれないから。そんな政党ならいらないでしょ。自分が当選することの方が国家より大事なんだったら、そんな政党はない方がいいんじゃないですか。
私は党内で「本当にこれでいいのか」って議論をし、分かれるべきは分かれる。一緒になるべきは一緒になる。そうしないと、一昨年の総選挙のテーマはなんでした。それぞれの政党が掲げた公約は。民主党は「政権交代」。それ自体はいいんですが、政権交代して何をやるかは（明確に）示さなかった。自民党は「責任ある政治」。あったり前でしょ、そんなことって話ですよ。
各論をきちんと示さないままに、違いをそのままにしたままの二大政党だから民主主義はワークしないように見えるのであって、それは政党の責任です。システムの責任だとは私は思っておりません。
「政界再編は絶対に必要」
トリックス氏：自民党にも民主党にも問題がある中で、やはり政界再編というのは必要なんでしょうか？あるいは新しい政党がこれから必要になってくるでしょうか？石破氏：私は政界再編は絶対に必要だと思っていますですよ。先ほど申し上げたように、自民党、民主党という大きな政党の中でいろんな意見があって一つにまとまっていない。だから国民に選択肢を示し得ない。そして何事も決まらない時間が過ぎて行くというのは、いいことだと思いません。アメリカやイギリスの二大政党がベストだというつもりはありませんので、海外との比較は置いておきます。
日本の国の中で、政党というのは何かやらねばならない目標があって、それを実現するために同じ考え方の者が集まるものです。自民党は大きく三つ（の目標が）あります「新しい憲法秩序を作ること」「自分のことは自分でやろうね。それでも足りなければ税金で助け合うよ」「経済的にとって一番いい税金。所得の再配分ということで一番いい税金のシステムを作りましょうね」というのが自民党の考え方です。その3つを実現するために自民党はあります。これは党の綱領で定めてあります。
民主党はそれがありません。何をする政党か分かりません。政党のミッションはただ一つ「自民党を倒せ」。以上おしまい。ということなのであって、再編は必要です。
でも、それは自民党の綱領に賛成しますか反対しますかということで、自民党も民主党も分かれていけば、それでいいのだと思う。政党そのもののために日本があるわけです。何を実現するのかということに基づいて政党は再編されなければならない。そうでなければ、政党政治は全くなくなる。出てくるのはポピュリズムかファシズムか、それでいいとは決して思えません。
