社員がみんな「素直で、イイヤツ」--サイバーエージェントが成長し続ける理由 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年12月08日にBLOGOSで公開されたものです
タイトルはサイバーエージェント取締役 人事本部長の曽山哲人氏の言葉だ。臆面もなく、こう語ってくれた。なにより曽山氏自身が、「素直で、イイヤツ」の筆頭のような人柄である。そうでなければ、ユニークな人事制度を次々と打ち出し、社員のモチベーションを高め、会社を成長させることなどできないだろう。
同社の人事制度の特徴は、若手の積極登用やチャレンジしやすい仕組み作りなどにある。また一方で終身雇用を打ち出し、退職金制度を用意。長く働きやすい環境を整えようとしている。すでに5年連続で日本における「働きがいのある会社」ベスト20社にも選出された。
サイバーエージェントの人事の取り組みがなぜ成功しているのか、どのように成り立っているのか。仕掛け人の曽山氏に聞いた。
「チームプレーで勝つと決めた」
「退職金制度」は2010年10月に導入を発表したばかり。30歳から積立を開始し、40歳から受け取れる。 業績と連動し営業利益の一定率を配分する。こうした制度は成長途上のネット企業ではあまり例がみられない。
導入を決定した理由は、「チームプレーで勝とうと決めたから」だと曽山氏は語る。安心して働ける環境を用意して社内のつながりを強化し、存分に力を発揮してもらいたいという。
ビジョンとしている「21世紀を代表する会社」になるためには、退職金は必要な制度であると以前から検討していたそうだ。ただし、将来の経営陣に禍根を残さないように、注意深く議論してきたという。
退職金と終身雇用――。これらの制度は長期にわたる安定を提供できる反面、組織を硬直させてしまうという懸念もありそうだ。なぜサイバーエージェントは柔軟な組織を維持できるのだろうか。
「当社は組織変更がものすごく多い。それに紐付くのが席の引越し、オフィスの引越しです。ちょっと記憶が曖昧ですけど、おそらく年に50～60回くらいやっておりまして、オフィスのレイアウト替えのパートナー企業さんからは『日本で1番多いんじゃないか』と言われています」
ほぼ週に1回ペースで組織変更があるが、これはすべて何らかのビジネスを成功させるためというゴール設定に基づいたものだ。これまでもAmeba事業を立ち上げるための組織変更や、また別の新規事業のためのレイアウト変更などが常に行われてきた。こうした動きを通して、柔軟性のある組織を維持しているという。
ただし、これだけでは終身雇用の弊害でもある「年功序列」がまかり通ってしまう。それを防ぐために、会社のミッションステートメントに「若手の台頭を喜ぶ」「年功序列は禁止」という文言を並べた。優秀な人材は1年目から抜擢しているという。
「僕らが目指しているのは、21世紀を代表する会社を創ることですから、これを実現するためであれば、年齢なんて関係ないし、そういったものだけで何かを判断するのは絶対に間違っている。若手の台頭はおそらく世界で1番だと思っています。新卒入社組で子会社の社長か役員をやっているメンバーがいま26人いるんです。ほとんどが20代です。設立10数年の会社において新卒入社で20人以上いるのは日本でも聞いたことないですし、世界でもほとんど例がないのではと思います」
サイバーエージェントの抜擢人事の仕組み
曽山氏によれば、ある2010年入社の社員は1年目で子会社の役員に抜擢され、さらにその年のうちに社長に昇格したそうだ。2011年もまた1年目で役員に抜擢された新入社員がいるという。
「本社の事業部ではなく、子会社の経営者というのがポイントになる」と曽山氏は語る。「やっぱり自分でキャッシュフローをみて、会社の登記をし、銀行口座にある残高を見ながら、みるみる減っていくのを実感して、どうやって業績を上げるかというのを考える。これは事業部で得られる経験とはまったく異なります」。
「経営者は経営者をやらない限り育たない」とサイバーエージェントは考えている。経営はいくら座学で勉強しても習熟することができない。だが入社1年目から経営者を経験しておくと、早いうちに実戦感覚が身につく。そのメリットは非常に大きいという。
現在、新卒入社組の子会社社長または役員26人のうち、3人はサイバーエージェントという上場企業の役員である。皆30代前半だ。新卒で入社し、30歳前後で上場企業の役員になれるフローがあること自体が珍しい。
「大手の企業だと60代になったら1人くらいは役員になれるかもしれませんが、当社では10年目～12年目で役員になりました。しかも1人ではなくて3人です。その3人もいたって普通の新卒でした。がむしゃらに仕事に取り組み、3人とも子会社の経営を経験し、見事に業績を上げ、営業利益を生み出すという実績を伴っています。単純に子会社の社長を任せただけではなく、経営の中核であるサイバーエージェント本体の経営陣となることで、さらに経営者として成長するうえ、経営人材を増やすことが会社の強化にもつながります」
では、抜擢にコツはあるのだろうか。
「本人が意思表明しているかどうか」が大事な点のひとつだと曽山氏は言う。「要は強いやる気のある人にやってもらう。それは声に出して言っている人。意思表明しているというのは1つの覚悟なんです。『そんなの無理に決まってる』って言われるかもしれない。その覚悟に向き合っていること自体に、精神的に強い思い入れがありますから。そこは重視しています」
またサイバーエージェントには「ジギョつく」という事業プランコンテストがある。これは内定者でも参加できるそうだ。内定者の時点で自分のアイデアを実現したいと声に出して言っている人は、そうでない人とは「全然違う」という。
社員はみんな「素直でイイヤツ」
大胆な若手登用は、サイバーエージェントの社風あってこそ成り立っている。曽山氏に、社員の人柄を一言で表してもらうと、「素直でイイヤツ」という言葉が返ってきた。
「本当に“いい人”が多いんです。“いい人”っていうとちょっと違うかもしれない。カタカナで『イイヤツ』が当てはまりそうです。学生にも、サイバーエージェントってどんな人がいるんですかって聞かれますが、僕は『本当にイイヤツが多いよ』って答えています。もっと言うとイイヤツとは『生理的に警戒しなくていい人』なんです。ここがけっこう重要ポイントだと僕は思っています。雰囲気がピリッとした人だと、当然、自分の言葉を選んでしまいます。それは上司と部下、仲間同士でもそうです。社内で揚げ足取られそうだとか警戒してしまうような状況にはしたくないんです」
社内に派閥など皆無だという。「仮にあったらすぐに私が解消させに行きます」（曽山氏）。
ただし、社内の人脈は大切にしているそうだ。「ずるい社内政治はダメですけど、健全な人脈もないとダメ。このバランスを意識できないままどちらかに偏ってしまう人が多いと思うんです。政治だけに偏る人と、人脈ができなくてどうのこうの言っている人。この辺のバランスをうまくとることがすごく大事。それができるのが“イイヤツ”かもしれません」。
サイバーエージェントでは、社内の健全な人脈を育てるため、月に1回、一人当たり5000円の懇親会費を各チームに出している。チームのメンバーでお互いに気軽に誘い合う関係を作るには、これくらいの制度は必要になる。
「この制度があれば、飲みにいこうよ、ランチいこうよって軽く言える。そうすると単純に一緒に仕事をしたのとはまた違う関係性ができる。他にも『横串ランチ』や『シャッフルランチ』という仕組みがあります。管理部門にある、経理、人事、広報など様々な部署を横断して何人かでランチに行ったり。こういう仕掛けはなるべく作るようにしていますね」
ただし、すべての企業が同じことをやればいいというわけではない。「常に両方正解です。飲みになんて行かなくていいっていう風土と組織もありだと思いますし、そうではなく、飲みに行って、交流したほうがいいというのもあって、両方正解だと思っています。要は正解に導くための運用を回せた会社が勝ちなんです」と曽山氏は語る。
「私たちは社員同士の関係性が強ければ強いほど、困ったときに声がかけられると思っています。この『困ったときに声がかけられる』というのは、粘りに変わります。組織の競争力の粘りに変わるので、飲みに行ってない組織の方がやっぱり困ったときの相談はしにくい。私たちは合理的に考えて、関係性強い方がいいだろうと解釈し、実際にやってみたら業績が上がったという感じです」
緊張感もたせるミスマッチ制度
10月に発表した新制度「ミスマッチ制度」は大きな話題となった。全社員の下位5％をD評価とし、この中から役員会の審議を経てイエローカードの人材を選ぶというもの。イエローカード2回目でレッドカードとなり、レッドカードになると部署異動または退職勧奨のいずれかを選択するというものだ。
「価値観や文化が合わない人はできるだけ若いうちに転職したほうが良い」と藤田晋社長はブログに書いていた。毎年社員の5％がクビになる恐ろしい制度か――とネットでは情報がひとり歩きしたが、実際はそうではないという。
「それだと最後は1人もいなくなってしまいますよね。もちろん、それが狙いではないです。役員会で議論したことですが、退職金や『休んでファイブ』という2年ごとに5日間回とれるリフレッシュ休暇が人気なので毎年取得できるようにするなど、福利厚生を厚めにしてきた。一方でそれだけだと日本の苦しんでいる企業みたいに問題が出るかもしれないと考えました。たとえば中途で入ってきてくれたメンバーの多くは、前職では年功序列という制度上のしがらみのせいで、どんなに頑張ってもすぐには報いてもらえてなかった。そういう懸念をいまのうちに潰す、問題があったら芽を摘むようにしました」
社内にフリーライダーが生まれないように、常に緊張感と向上心を持ち続けられるようにする制度だという。ただし、毎年5％のD評価は出るものの、必ずカードをもらうわけではないところがポイントだ。
「退職金は全従業員が対象。でもミスマッチでカードをもらうのはゼロかもしれない。僕らはこのさじ加減については考え尽くしました。5％をD評価にするという判断は厳しいですけど、運用は丁寧に、慎重にやりたいと思っています。あくまでD評価とカードは別物です」
だから制度の名前にも相当気を遣ったという。「やっぱりこれが『D評価制度』とか『なんとか退職制度』と呼んでしまうと、受け止め方が難しい。これは常務の中山が役員会で提案したんです。『ミスマッチという考え方だったら、上司と部下が合ってないということもあるだろうし、その部署の中でたまたま合ってないということもあるから、期待をかけた表現にもなる』と。すごくいいなと思って決まりました」
人材と業務がマッチするかどうかは、価値観と文化のウェイトが大きいと曽山氏は考えている。価値観と文化が7割、パフォーマンスと能力は3割程度だという。能力面は、基本的にギャップは採用時点でフィルターしているとの考えだ。
人事はコミュニケーションのハブ
サイバーエージェントの人事本部はこうした仕組みをいくつも作り出し、運用を続けてきた。ある意味では事業部以上にクリエイティブな部署といえるかもしれない。
「唯一、私たち人事本部が決めているミッションが『コミュニケーション・エンジンになろう』という言葉です。我々が経営と現場を結ぶコミュニケーションのハブにならないとダメだなと。経営と現場を結ぶ会話とかダイアログを、仕掛けとして作れるのは人事だけなんです」
この部分で手を抜く企業がかなり多いと曽山氏は言う。「たとえばわかりやすい例では、経営のメッセージをそのまま伝えてしまって、『社長がやれって言ってるんだからやれよ』みたいな伝え方になってしまうことがある。これは目も当てられない状況。あるいは現場でいろいろな声を聞いてきて、その十人十色の声を経営に『とりあえず現場はこう言っています』とだけ伝えるのもよくない。そこにどんな本質があって、何をすれば従業員がハッピーになるのか、業績が上がるのか提案をしなければ意味がないのに、そこのイノベーションがないんです。人事は通訳の役割であり、経営戦略の実行部隊だという自負でやっています」
