鉢呂前経産大臣ＴＰＰ会見「言葉狩りせずに伝えて欲しい」 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年11月16日にBLOGOSで公開されたものです
「死の街」「放射能つけちゃうぞ」などの発言をキッカケに、メディアから袋叩きに合い辞任した、鉢呂吉雄衆議院議員が、日本外国特派員協会でＴＰＰに関する記者会見を開いた。ＴＰＰ参加を推進しながらも、「関税撤廃の例外品目を勝ち取る」と、農協推薦議員の苦労も垣間見られた。外国メディアからは「後から参加してどうやってリーダーシップを取るのか」「農家にはさらに補助金を出すのか」と厳しい質問も投げかけられた。【取材・構成 田野幸伸、翻訳 清水泰輔（BLOGOS編集部）】
ゴーストタウンと言えずに辞任
鉢呂議員：今日会見を開くのに、2つの迷いがありました。1つは、2ヶ月前に英語を知らずに発言して大臣をクビになった事、もう1つは、ジャーナリストに大変恐怖心を持っております。ゴーストタウンと言わずに死の街と発言したことでマスコミの総攻撃を受けました。あの時も、記者会見で今の状態を招いた経産省の責任を強く強調したのですが、「死の街」だけが取り上げられてしまいました。今日は言葉狩りをせず、真意を伝えて欲しいと思います。恐怖心をなくしていただければありがたいです。
野田総理がＡＰＥＣでＴＰＰ参加の協議を始めると表明しました。私は、ＴＰＰの民主党プロジェクトチームの座長を務めています。ＡＰＥＣは2020年を目指すＦＴＡＡＰ（アジア太平洋自由貿易構想）の道筋。ＴＰＰに参加し、その主導権を握り、米国と中国を結びつける役割を担いたい。円高、空洞化で企業が苦しんでいる。貿易投資の環境を整備して、障壁をなくすことは経済にとってプラスになるという考え方だ。
他方で懸念材料もある。競争力の劣るセンシティブな産品（農産物など）を除外できるか、守れるか。日本の優れた医療、金融分野、食品表示などの制度が崩壊するのではとの懸念も出ている。
ＴＰＰへの参加は時期尚早ではないかとも言われた。この種のプロジェクトチームはガス抜き、結論ありきの場合も多いが、今回は民主党の意見を作り上げるために努力してきた。
政府に出す提言には、ＴＰＰへの反対意見も盛り込んだ。政府は慎重に判断をして欲しいと。それを受けて野田総理はＴＰＰ参加の交渉開始を表明した。提言を受け止めた結果の発言だと思っている。
日本はどちらかというと内向きになりがち、もっと積極的に経済連携のルールを作っていける国だと思っている。与党として、こういった考え方で政権の下支えをしていく。
質疑応答
Ｑ：米国政府は日本政府がＴＰＰにおいて全項目をテーブルに載せるに合意したと表明致しましたが、日本政府はそれは我々が実際に述べた事とは異なると述べました。
そこで私の質問は、あなたは実際に日本政府はＴＰＰにおける全項目をテーブルに載せ合意した認識しておられますか？もしそうでなかったら、日本政府は最初からいくつかの項目を除外するのか、それともいくつかの項目を除外したいという意思を持って交渉に入るのか、どちらでしょうか？
鉢呂：アメリカと日本のスタンスが違う。野田総理は全品目交渉テーブルに乗せると言ったとアメリカは報じたが、それは誤解でそういう発言はなかった。
それはそれとして、関税を撤廃する事について、すべてを交渉テーブルに乗せると、原則関税撤廃と聞いている。この分野については、交渉がスムーズに進んでいないとも聞いている。
各国ともセンシティブ品目がある。たとえば2国間ＦＴＡで守られている品目もそれぞれの国が抱えている。これをＴＰＰの交渉各国はどう考えているのか、必ずしも全ての関税が撤廃になる事はないだろうと考えている。
日本の関税の撤廃率は農産品以外も含めるとかなり高いと聞いている。全体で関税削減に向けて行くかが交渉。現実に日本、農産品については、センシティブな品目として除外、例外品目として勝ち取るべきだと考えている。
対中国をどうするのか
Ｑ：中国は日本にとって最大の貿易相手で、近年では二桁成長を遂げています。もし日本がＴＰＰに参加し中国が参加しない場合、両国の関係にどのような影響を与えるでしょうか？
鉢呂：今回のＴＰＰはＦＴＡＡＰ（アジア太平洋自由貿易構想）への一里塚、さらに加盟国が増えることは望ましい。アセアンの+3や＋6も中国を入れた経済協定も研究段階、日中韓の3国ＦＴＡも研究段階。ＴＰＰをブロック経済と考えずに、様々な2国間、多国間の協定を含む中で、ＦＴＡＡＰ21カ国の連携の集約に向かうことを考えている。日本と中国の貿易量を考えれば、中国と連携し、垣根の低いものを作っていく必要がある。
Ｑ：鳩山元首相が東アジア共同体の構想を表明した際に、日本政府は最優先すべき国は中国で、次点が米国だということでしたがその点についてはいかがでしょうか？また、ＴＰＰ交渉については既に９ヵ国によって話が進んでおりますが、これから日本はどのようにリーダーシップを掌握していくのでしょうか？
鉢呂：アメリカとの同盟を進化していくと同時に中国やアジアとも関係を深めていく。今回、「参加に向けて」という事がわかりづらいと言われますが、言葉通り、参加に向けて関係国と協議に入る。出来るだけ早く入ることで、ルール作りに参加することが大きい。もちろん、参加に向けての協議ですから情報を十分国民に提供して、国民的論議を経て結論を出します。
跳ね返すものは跳ね返す
Ｑ：山田前農水大臣が最近会見をし、ＴＰＰには反対という意思を表しています。その理由として日本の国家としての形を変えてしまう可能性があるからだとしています。山田氏の意見には賛成しますか？また、あなたが思う最良の日本の形とはどのような思いますか？私は現在の日本の形は米国占領かにおけるＧＨＱ、ダグラス・マッカーサー元帥によって強いられているものだと感じます。例えば日本の小規模農家はＧＨＱの農地改革によって作り出されたものです。これらを踏まえると日本という国家は海外の勢力によって作り出されたように感じますが、如何でしょうか？
鉢呂：多国間の協議で障壁をなくしていこうという事ですから。懸念はどのような交渉でもある。世界が貿易や投資で深く結びつく場合に、必ずしも守っていかなくてもいい制度もある。今や日本は高いレベルの透明性の連携が出来る国。守るべき伝統文化は守る。最終的には日本の消費者が受け付けないものは、どんなに海外から入ってきてもそれは撤退せざるを得ない。日本は自信をもって、懸念ばかり言い続けてはいけない。優れたものは世界に広めることが出来るという視点にも立つべき。労働や環境問題はＩＬＯの基準に入って各国がやれば、日本にとって有利なものもある。積極性が求められている。アメリカの様々な制度が戦後入りました。農業も小規模な農地所有に変えたのは事実。各国が制度改革を求めてくる可能性はあるが、日本は日本の立場で交渉の立場で論議をして、跳ね返すものは跳ね返す。
Ｑ：ＴＰＰ参加で一番大きなメリット、デメリットは？
鉢呂：メリットはルール作りに参加出来る事。様々な分野で障壁が下がる。例えば、海外で投資、工場を建てる時でも、安定的な投資の回収、その国と同じ環境で競争できる。透明性のある貿易投資の自由化、これがメリット。
デメリットは競争力の劣る農林漁業、第一次産品の全面関税撤廃。これは大きな課題。例外産品を勝ち取るという交渉は、どうしても必要。
寿司を通じて、日本の米を世界に売り込め
Ｑ：もし日本がＴＰＰに参加した場合、農家への助成金は単純に増えるだけなのでしょうか？又、あなたは北海道出身で、農家出身でもありますが、あなたの出身である地域の方々はＴＰＰ参加にどのような反応をすると思いますか？そして、あなたはどのようなことを彼らに伝えたいですか？
鉢呂：ＴＰＰは国が競争力の劣る分野について、補助する事については大きな制限はないのではないか。関税の消費者負担から納税、国の助成措置による支援策に移行するというのがＷＴＯの方向性にも合致していると思っています。
私の故郷は北海道で、米、小麦、乳製品、砂糖、土地の広さで収穫量が決まる、土地量型作物が多いです。民主党の中では数少ない、農協の推薦を受けている議員です。地元に言っているのは、世界の流れは障壁を下げて、関税を下げること。関税がゼロになれば、例えば米は9割外国産になると農水省は試算しているのですが、果たして、美味しい、品質のいいお米が海外産に駆逐されるのか。世界で和食が好評で、寿司も需要が高い。外国へ行っても美味しいシャリ、むしろ寿司を通じて日本の米を世界に売り込むチャンスでは。いずれにせよ、関税がゼロになれば大変なことですから、例外品目を勝ち取る必要がある。
反対という方は、そこで思考停止しているが、関税が下がっていった場合、その内外価格差をどういった風に納税者負担、直接支払い制度に変えるかという具体的なところの論議を行うべきだし、具体的な財源について、きちんと方向性を出さなければ農家の皆さんは安心しない。その具体的な財源論を踏み込んで行えば、農業者が将来も希望を持ってやれる形を政治として示せると確信をしております。
