※この記事は2011年10月29日にBLOGOSで公開されたものです

　2010年４月に国際宇宙ステーションで作業にあたった、宇宙飛行士の山崎直子さんが、10月25日に次女を出産したそうです。(*1)
　まずは、ご出産おめでとうございます。
　出産が大々的に報じられるのはテレビタレントくらいなもので、ニュース自体の扱いは小さく、私もヘッドラインを精査をして、はじめて気づきました。
　本当ならもうちょっと大きく取り上げられていいはずのニュースですよ。だって、放射線の害に対して不安に思う、今後出産予定の親たちに対して、これほど励みになるニュースはないのですから。

　JAXAではさまざまな手段を用いて、宇宙飛行士の被ばく線量を抑えることに務めているそうですが、それでも
国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、１日当たり１ミリシーベルトの放射線を受けてしまいます。(*2)
　みなさんもご存知のように、放射線の身体への影響は、短時間に一度に受ける量が多ければ多いほど比例して増えるのですから、線量としては１日で地球上での半年分といっても、体への影響で考えれば半年分では済みません。
　山崎さんは、２週間ほど滞在したそうですから、この短期間で20ミリシーベルト以上の被曝をしていると考えられます。それだけ放射線を受けた女性が、無事に次女を出産。しかも40歳という年齢での出産ですから、いろいろな方面から注目されてもいいはずの、非常におめでたいニュースです。

　いまの日本には、放射線の害を声高に訴える人たちがいます。
　中には「放射線の害が、子々孫々にまで伝えられていく」というようなことを叫んで、被災者に消えない烙印が押されたかのように言う人までいます。事故からこちら、ネット上では人だけではなく、動植物といった様々な「放射線の影響による奇形」が生まれているという情報が飛びかい、多くの人を不安に陥れています。
　しかし現実には、こうして宇宙飛行士が子供を産んでいます。これはけっして山崎さんだけではなく、男性宇宙飛行士もそうですし、また広島や長崎、スリーマイルやチェルノブイリで被曝をした人たちも、子供を産んで育てています。一時的に放射線の影響を受けても、子供を産んで育てることができる。そんな当たり前ことが、現実に行われているのです。山崎さんの事例はその１つです。
　山崎さんの場合は、国際宇宙ステーションに行った時点で妊娠をしていたわけではないので、妊娠している状態で比較的線量の高い場所に住む妊婦さんとは異なりますが、少なくともこれから妊娠をする女性に対して、これまでの被曝を理由に子供を産まないという選択をする理由はありません。
　不安になる気持ちはわかりますが、こうして現実に子供を産んで育てている人たちの存在を無視して、ごく一部の障害をクローズアップして「こんなに危険が！」と叫んだり、そうした情報にばかり注目しても、不安は晴れるばかりか、不安をより一層募らせるばかりです。
　こういう時にこそ、明るいニュースにもしっかり目を向けていきたいものです。

*1：山崎直子さん、次女を出産 （時事通信）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111025-00000073-jij-soci
*2：放射線被曝管理:宇宙医学 - 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター（JAXA）http://iss.jaxa.jp/med/research/radiation/

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赤木智弘（あかぎ・ともひろ）

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。