本を読む速度や読解力を高められる方法とは? 実は子どもの頃「やってはいけない」と言われたことが有益なようです(写真:yoshiurara/iStock)

インターネットの時代とはいえ、人が「本を読む」行為はしばらく続きそうだ。そして、せっかく読むのであれば、速く読めるに越したことがない。

しかし学生の頃、誰もが正しく読む指導はされてきたが、速く読む指導はあまり受けていない。しかも、学生の頃に「上手に読める」と先生に褒められていた人ほど、むしろ読む速度が遅い可能性もある。

本を読む速度が速い人と遅い人の違いはどこにあるのか、どうすれば速く読むことができるのか。Googleやナイキ、ハーバード大学を法人顧客に持ち、『LIMITLESS 超加速学習 人生を変える「学び方」の授業』の著者でもある脳トレーナー、ジム・クウィック氏の、科学的に正しい速読のやり方を紹介する。

意外に教わらない「速く本を読む方法」

なぜ人は本をゆっくり読みがちなのか。


1つには、多くの人が比較的速い時期――小学2年生か3年生の頃――に読む練習をやめてしまい、その状態で学習し続けても、読む能力(と、もっと重要なことに読む技術)はあまり伸びないからだという。

また、読むときに十分注意を向けられない人もいる。

子どもの話を聞きながら、テレビを見ながら、数分おきにメールをチェックしながら読んでいるので、注意がおろそかになって内容をよく理解できず、同じ段落を何度も読み返してしまうのだ。

読書の方法を紹介する前に、まず、人が速く読むことを阻んでいる3つの壁を確認しておこう。

壁その1 :返り読み

本の同じ行を気づくと何度も読んでいる状態のことだ。あるいは「うろうろ読み」(無意識に前の文章に戻っては読み直すこと)をしたことは? 逆行とは、視線が一度読んだところへ戻って読み直す傾向を表した用語だ。

ほとんどの人がこれをある程度、たいていは無意識にしている。そうすればよく理解できるような気がするからだが、現実はその逆だ。逆行、つまり返り読みをすると、読んでいる文章の意味や要点はたちまちわからなくなる。逆行は読書のプロセスを著しく破壊し、読む速度も遅くしてしまう。

壁その2 :子どもの頃と同じ読み方

読書力は知能の程度というよりむしろ技術によるもので、だからこそ学べるし高められる。「リーディング(読解)」と呼ばれる授業を最後に受けたのはいつだろう? 小学4年生か5年生だという人がほとんどだろう。そしてほとんどの人はおそらく、読む技術がその頃と変わっていない。

そこで問題だ。今のあなたの読む量と難易度は当時と同じだろうか。読むものははるかに複雑になっているのに、読む技術は古いままのこともある。

頭は言葉ではなくイメージで考える

壁その3 :頭の中で音読してしまう

サブボーカライゼーションとは、内なる声を格好よく言い表した言葉である。この文章を読んでいるとき、頭の中で文字を読み上げる声が聞こえるだろうか。それはあなた自身の声だ(そうだといいのだが)。サブボーカライゼーションは、読書速度を毎分わずか200語に制限する。読む速度が「考える」速度ではなく「話す」速度に抑えられてしまうのだ。実際には、あなたの頭はそれよりもずっと速く読める。

サブボーカライゼーションはどのような理由で生じるのだろう? 普通は初めて読み方を習う頃に経験する。その頃のあなたは、正しく読めているかが先生にわかるように、声に出して読む必要があったはずだ。

国語の授業で順番に教科書を音読したのを覚えているだろうか。あれに大きな緊張を感じていた人は多い。上手に読まなくてはと思うとプレッシャーだったし、発音を間違えないことも重要だった。そのときに脳が関連づけを作ったのだ。「読んでいる言葉を理解したければ、正しく音にできなくてはならない」と。

その後、「もう声に出さなくていいから黙って読みなさい」と言われる。このときに「読む声」が内在化され、それ以来、ほとんどの人が頭の中で音読するようになる。なにせ「聞こえなければ理解できない」からだが、その考えは正しくない。

一例を挙げよう。J・F・ケネディ元大統領が、毎分500〜1200語で読む超速読家だったことは知られている。速読の先生を呼んで側近に習わせたというから筋金入りだ。しかし、その話す速度は毎分250語ほどだった。読書中のケネディが脳内であまり音読していなかったのは明白だろう。言葉を理解するのに音に置き換える必要はないわけだ。

ここで時間を取って、自動車を1台思い浮かべてもらいたい。自分のでも、誰かのでもいい。どんな見た目だろうか。色は? 今、やってみよう。

どんな車が浮かんだだろうか。「色は青、タイヤが4つ、茶色い革張りのシート」といった感じかもしれない。では質問。「青」「タイヤ」「革」などの言葉が頭に現れただろうか。

それとも、そうした特徴を持つ車を想像しただろうか。頭は主に言葉ではなくイメージで考える。記憶力を扱った前章で述べたように、言葉は思考やイメージを伝えるための道具にすぎないのだ。

だから読書をするときは、内容を視覚化するといい。読む速度や読解力を大きく高められる。すべての文字を「音声」にする必要はない。時間がかかるし、句点や読点や疑問符を文中に見つけてもいちいち読まないのと同じだ。「私はアボカドテンブルーベリーテンブロッコリーを買いましたマル」とは読まないだろう。句読点はさまざまな意味を象徴する記号にすぎないと了解している。

言葉も記号だ。人間は言葉の95%を読む前に見ているという。その言葉は発音しなくてもいい。「――」や「……」を発音する必要がないように。音にしなくても見ればわかるのだ。

重要なのは、その言葉が表している意味だ。そして意味はたいてい、イメージのほうがうまく表せるし覚えられる。この考えを理解することが、サブボーカライゼーションを減らす第一歩になる。

指を使って読む

子どもの頃、「文字を指で差しながら読んではいけません」と言われなかっただろうか? 

そうすると読むのが遅くなるという昔からの思い込みもある。けれど子どもが自然とそうするように、指をガイドに使えば視線を文字に集中させられる。目は動くものに引きつけられるので、指を使って読むとむしろ速度が上がるのだ。

研究により、指を使って読むと、読書速度は25%から100%上がるとわかっている。練習するほど結果もよくなる。車のハンドルを初めて握るときに似て、最初は少し違和感があるかもしれない。しばらく辛抱して続けてみよう。スキルを初めて磨くのは、あとで適当にやっつけるよりも労力がかかるものなのだ。

指を使いながら読むと、触覚という別の感覚も学習プロセスに組み込まれる。嗅覚と味覚に強いつながりがあるように、視覚と触覚も密接に結びついている。子どもに何か珍しいものを見せたことがあるだろうか。その子は本能的に触りたがったはずだ。

また、指を使うと逆行が大幅に減る。この練習をすると読む速度が上がるのはそのためでもある。目は自然と動きを追うので、指を先へ動かせば、視線が前に戻りにくくなる。

指を使って読む練習をしよう。このテクニックを覚えるだけで、読む速度や読解力が大きく上がり、学習にも目覚ましい変化が起きる。指が疲れたら、腕全体を動かして練習しよう。腕の筋肉のほうが大きいので、指よりは疲れにくいだろう。

読書と学習のリミットから解放されると、信じられないほどの自由が手に入る。学ぶ力を最大限に使える人は、達成感を味わいながら、どんなタスクや困難にも負けない自信をもって世界を謳歌できる。

ぜひ皆さんにも挑戦してみてほしい。