関連画像

写真拡大

15歳のときから、当時在校していた札幌市立中学の男性教師にわいせつな行為をされ、30代になってからPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、フォトグラファーの石田郁子さんが、教師と札幌市を相手取り、3000万円の損害賠償を求めていた裁判で、東京高裁(後藤博裁判長)は12月15日、請求を棄却した一審判決を支持し、原告の控訴を棄却する判決を言い渡した。

一審から争点となっていたのは、20年間を経過すると賠償請求の権利が消滅してしまう「除斥期間」が過ぎているかどうかだった。石田さん側は、PTSDと診断された2016年を起算点であると主張したが、一審判決では認められず、除斥期間は過ぎていると判断されていた。

高裁判決では、事実認定をおこなわなかった一審とは異なり、石田さんが中学生だった15歳から大学生になった19歳までの期間、男性教師によるわいせつな行為があったことは認めた。

しかし、石田さんが大学生だった1997年の時点で、性暴力を受けたという認識はあったと判断し、除斥期間が経過しているとして、一審の判決を支持した。石田さん側はあらためて、子どもが性暴力を受けた時にすぐには認識できず、被害が長引くことを指摘し、高裁判決を批判した。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)

●PTSDの発症、「被害発生した時点」と認められず

石田さんが教師から性暴力を受けていたと認識したのは、2015年に児童買春事件の裁判を傍聴したのがきっかけだったという。自分が教師から受けていた行為に疑問を持った石田さんは、2016年2月に札幌市教育委員会に対し、教師によるわいせつ行為の調査と教師に対する処分を訴えた。

その直後、フラッシュバックを発症、PTSDと診断された。「毎日死にたくなるような」苦しみで、仕事や日常生活にも影響したという。

このため、提訴時から石田さん側は、2016年を被害が生じた起算点として訴えてきたが、一審判決では認められなかった。そのため東京高裁の控訴審で、教師によるわいせつな行為がPTSDの原因になったことや、教師と生徒という関係の中で19歳になった時点でも被害と認識できていなかったことなどを、医師の診断書や臨床心理士の報告書で立証してきた。

しかし、東京高裁ではこれらを認めず、19歳当時にすでに「教師が原告をもっぱら性的欲望の対象としてとらえていたにすぎないのではないかと認識できていた」と判断。裁判の傍聴をきかっけに、「教師に対する処罰感情が激化して」PTSDを発症したとした。このため、教師による不法行為があったとしても、除斥期間の20年は過ぎているとした。

●子どもへの性暴力、海外では除斥期間を延長

控訴審判決を受け、同日に東京・霞が関の司法記者クラブで石田さんと代理人弁護士が会見した。

代理人の一人である小竹広子弁護士は、「除斥期間の壁を超えないという一審の判断を見直す必要がないという結論が先になったと思わざるを得ない判決」と厳しく批判した。

「子どもに対する性暴力は、実際に受けてから時間を経て被害が出ることが、一部ではすでに知られています。そのため、他の国では除斥期間が長くなったり、時効が撤廃されています。こうした事実をまったく無視しています」(小竹弁護士)

また、同じく代理人の河邉優子弁護士も「PTSDについても、処罰感情が激化したから発症したなどという主張はこちらでは一切していません」と憤りをみせた。

「教師と性的な関係を持っていた最後の時期が大学生だったことは確かですが、中学生の時から先生という立場の人からそういうことを当然のように強いられている中で、大学生にまでなってしまった意味について、これまでずっと主張してきました。

この判決だと、幼少期から加害しても、そのままだまし続けて大人になれば、その後、加害者の責任は問えないという話になりかねないです。それはおかしい」(河邉弁護士)

●札幌市教委「わいせつ行為、調査する予定はない」

石田さんは一審から、子どもに対する性暴力の特殊性を訴えてきた。

「自分がされたことが、性的な行為だというのはわかるが、信用する先生から恋愛だと思い込まされてたので、性暴力だとすぐには気づけないです。性的な行為だとわかることと、性暴力であるとわかることとは別。でも、裁判官はそれを区別してくれません」

一方で、判決では一審とは異なり、東京高裁は石田さんが中学を卒業する前日に教師にキスされたことや、高校生入学前にも身体を触るなどの性的行為があったこと、また、高校生になってそれがエスカレートしていったことなどについて、「認められる」と判断した。

石田さんは提訴前から札幌市教育委員会に対して、教師によるわいせつ行為の事実を調査して、教師に対して処分を下すよう求めてきた。東京高裁の事実認定を受け、石田さんは「最高裁に上告するか、ほかの手段になるかわかりませんが、まだあきらめていません」と語った。

札幌市教育委員会は弁護士ドットコムニュースの取材に対して、判決について「市の主張が認められているものと考えているところです」とコメント。一方で、教師のわいせつ行為について、「調査する予定はまったくない」とした。