開発陣が本当に作りたいクルマが作れる時代になったことも影響

 SUVというと、大人数でたくさんの荷物を積んで移動するというイメージが強い。スポーツ・ユーティリティ・ビークルという名称自体、そういった使い方が語源だ。

 しかし、最近のSUVは後席が狭いモデルも多く、デザインからして尻すぼみだったり、ファストバックのようなかなり傾斜したリヤゲートまわりとなっているなど、見るからに狭そうだ。実際に乗ってみると、頭ギリギリに天井が迫ってきていたり、乗り込むときもけっこう大変だったりする。ユーティリティどころではないが、なぜこのようなSUVが生まれてくるのだろうか? もちろん決定的なものはないものの、開発者のインタビューなどから浮かび上がってきた理由をまとめた。

1)裾野が広がった

 現在のSUVというのは、初代ハリアーやムラーノなどが切り開いた、いわゆるクロスオーバーと呼ばれるもの。つまり本来のクロカン派生のSUVをベースに、セダンやワゴン、スポーツカーなどのエッセンスをプラスしているのが特徴だ。つまりなんでもありといえばありで、さまざまな解釈がなされて、実際にさまざまなモデルが登場してきた。そのなかのひとつがクーペ的なもので、流麗なスタイルを取り入れるとなると、どうしてもパッケージングは犠牲になってしまう。

 当初はさすがに社内規定などもあり避けられてきたが、ここまでSUV人気が続き、売れるとなると、裾野はどんどんと広がっていくことになる。最近では後席が狭いけど、かっこいいからいいだろうといったモデルまで、裾野が到達してきたと言っていい。

 またトヨタでは、車種毎に分けられたカンパニー制を採用することで、最少限の意思決定でのクルマ作りを可能にしている。つまり昔なら会議や審査にかけて、どんどん平均化されてしまうところが、いまは作りたいクルマが作れるようになっているというのも影響しているだろう。

いま大人4人では使わないユーザーもSUVを選んでいる!

2)デザイナーのこだわり

 後席が狭いと、リヤのラインを流麗にしやすくなるなど、デザイン幅が広くなる。昨今はメカ面の進化は小幅になっているということもあって、どのメーカーもデザイン性向上に力を入れていて、デザインを中心に開発されていくことも増えてきた。そうなると、少々実用性を犠牲にしてもいいから、かっこいいスタイルにしようということになる。これは日本に限らず、海外でも同様で、SUVとクーペの融合と言い出したのは輸入車のほうが先。クーペを混ぜるとデザイン的にはかっこ良くなるが、パッケージングと両立しにくいのは当然だろう。

3)そもそも後席はあまり使わない

 大人4人で移動しなければ、後席が狭くても別に問題ない。乗れないわけではないので、必要に迫られれば、少々我慢すればいいだけ。カップルや新婚なら、ふたりで乗ることが多いだろうし、家族でも子供が小さければすんなりと乗れる。2ドアクーペと同じような使われ方であれば成立する。

 さらに最近では奥さんのセカンドカーや子離れ世代もターゲットとされるので、なおさら4人での移動はまれになる。それを前提とすれば、後席は狭いけどかっこいいSUVというのが成り立つわけだ。

 SUVが出過ぎて、ネタがなくなったという人もいるが、デザインコンシャスなSUVというのも、心惹かれるものがある。狭いSUVしかないのはどうかと思うが、広いSUVがあった上で、いろいろなスタイルのSUVがラインアップされていれば問題はないだろう。