渡部建の「不倫騒動」に見えた3つの致命的ミス
まさかのスキャンダルが浮上しました(写真:Pasya/アフロ)
「人間はかくも欲深きものなのか」
このニュースを聞いたとき、そう感じた人は多かったのではないでしょうか。
テレビのレギュラー番組を9本持ち、タレントの最高峰と言われるMCも務めるなど、仕事は絶好調そのもの。プライベートでも誰もが認める15歳年下の美人女優と結婚し、2018年9月に第1子が誕生するなど順風満帆であり、スキャンダルとは無縁の存在と思われたアンジャッシュ・渡部建さんに女性問題が浮上しました。
文春オンラインの記事によると、渡部さんは複数女性との不倫を認め、妻である佐々木希さんに謝罪したとのこと。まだ詳細は明かされていないものの、もし報じられている通り、「複数女性と関係」「妻が幼子を育児中」「外出自粛期間の密会」の3点が事実であれば、芸能活動の無期限自粛も当然と言えるのかもしれません。
誰もがうらやむ幸せを手にしているように見える渡部さんが、なぜこのようなスキャンダルを起こしてしまうのか。数多くの芸能人が不倫スキャンダルで仕事を失う中、なぜ欲望に勝てなかったのか。
かつて著書の編集者として渡部さんとやり取りを重ねた経験があり、約2万組の対人コンサルタント、さらに同じ47歳で1歳男児を持つ父親という立場を交えつつ、単なる不倫の是非ではなく、成功者ほどリスクが大きい欲望の本質について掘り下げていきます。
欲望に振り回されるほど理性を失う
現時点までの報道で、渡部さんに3つのミスが見られました。
1つ目は、欲望のコントロールミス。渡部さんは複数女性と不倫をしてしまったわけですから、まったくコントロールできていなかったと言ってもいいでしょう。人間なら誰しも何かしらの欲望があると同時に、それを抑える理性も持ち合わせているものですが、環境や心境に応じてそれらが増減しやすいところがあります。
不倫をする男性は、言わば欲望に振り回され、理性が失われてしまった状態。もともと人間は、平穏で長く続くものほど、本来の価値を忘れて過小評価しやすく、不穏で刹那的なものほど、実際以上に過大評価しやすい傾向があり、前者が妻子、後者が不倫相手になりがちです。
渡部さんだけでなく、ビジネスパーソンのみなさんも、「目先の欲望に敏感な一方、すでに得ているものに対して鈍感になっていた」「恵まれた環境やリスクの大きさを甘く見て、欲望に負けてしまった」という経験はないでしょうか。さらに、「いずれやめるからいいだろう」「自分だけは大丈夫」などと身勝手な正当化をしたことはないでしょうか。欲望を押し通すときは日ごろ理性的な人でも、このような危うい思考回路に陥ってしまうのが怖いところです。
では、欲望に振り回されそうなときはどうしたらいいのか。たとえば、不倫の欲望が高まったときは、あまり考えずに会うのを1回我慢してみる。それができたら次は2週間、さらに1カ月相手を遠ざけてみる。すると、よほど執着している相手でない限り、「リスクもあるし、まあいいか」「そこまで魅力的な人ではなかったかも」などと思いとどまれることが多いものです。
1回、2週間、1カ月と時間を経過させることで理性を取り戻し、欲望に打ち勝つ。言わば、欲望を満たす時間を後回しにすることで、欲望と距離を置くことにつながり、結果的にリスクを回避できるのです。特に欲望のベクトルが、普遍的な3大欲求と言われる性欲や食欲の場合はエスカレートしやすいだけに要注意です。
小さなストレスも欲望で解消する危うさ
欲望に振り回され、不倫に走ってしまう人の特徴として、もう1つ挙げておきたいのは、“快感”という名の成功体験が忘れられなくなること。欲望を満たす行動を続けるほど、感覚がマヒしてエスカレートしていく傾向があり、だから渡部さんも複数女性との不倫に至ってしまったのではないでしょうか。
欲望を満たして快感という成功体験を得ると、ちょっとした不満もストレスと感じやすくなり、それを解消するために再び欲望を満たそうとして、異性、食、買い物などに走りがち。小さなことでも「ストレス解消のために欲望を満たさなければいられない」という思考回路が定着し、さらに危機回避の感度が落ちるため、周囲から見たら「何でそんな当たり前のリスクに気づけないの?」と思うようなことをしてしまいます。
欲望をコントロールするためには、まず異性、食、買い物などの欲望そのものから、できるだけ目をそらすことが前提。そうするためには、公私どちらの面でも、中・長期の目標を立てて、その達成に向けて行動していくことが大切です。
パナソニックの電動自転車でイメージキャラクターを務めるなど、家族や子育てに対する良いイメージも一変してしまった(写真:つのだよしお/アフロ)
たとえば、好奇心旺盛なはずの高校生が試験期間や受験期間は恋を我慢できる。食べることが好きな女性が露出の多い夏に向けてダイエットをはじめる。このような大中小の目標を立てて、そこで達成感や充実感を得る楽しさを味わっていけば、目先の欲望に振り回されるケースは減るものです。「欲望を満たすことより、目標を達成することのほうが楽しい」と思えれば、おのずとその人生は素晴らしいものになっていくでしょう。
今回の件で渡部さんは、「いい年して大人になりきれない」「父親の自覚がない」と言われてしまいました。世間の親がそうであるように、家事や育児を目標の中に組み込み、それが達成されていく楽しさを感じられていたら、ここまで欲望に負けることはなかったでしょう。渡部さんは苦しい状況の今、40代後半になって生まれた第1子の貴重さを噛みしめているのではないでしょうか。
セルフブランディングの公私混同
2つ目は、セルフブランディングの公私混同というミス。渡部さんと言えば、「芸能界のグルメ王」と言われる飲食店の情報網だけでなく、心理学にも詳しいうえに、夜景鑑定士、ダイエット検定、高校野球検定などの資格も取得しています。
食、心理学、夜景、ダイエットと、女性が興味を持つものや、「モテ」につながるものが多いことに気づくのではないでしょうか。これらは欲望を満たすというよりは、「それが得意なキャラクターとなってバラエティ番組出演につながる」というビジネスの面が大きく、実際に渡部さんは「漫才師のようなトークや、代名詞となるギャグがない」という課題を克服し、これらの知識で多くの出演を勝ち取っていきました。
また、最近ではYouTubeチャンネルでも心理術を紹介する動画を公開していましたが、これらはあくまで“芸能人・渡部建”としてのブランディングであり、スキルであれば問題ありません。しかし、美食家やシェフたちとのつながりが深く、オンラインサロン「渡部建のとっておきの店、こっそり教えます」を運営するなど、さまざまな人々と接する機会の多い渡部さんは、「遠そうで近い」という芸能人の中では異色の存在。
だからこそ複数女性との不倫という報道を見た世間の人々は、真偽はさておき「心理学の知識を不倫に使っているのではないか?」「モテるために食や夜景の知識を得ているのか?」などという疑念を抱かれかねないのです。
渡部さんはレギュラー番組の多さから「ステータスが高い」「お金を持っている」ことは一目瞭然。加えて、「王様のブランチ」(TBS系)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ系)などの女性視聴者がメインの番組出演が多いため、女性の好む情報をよく知っています。
芸能人と言えど、これだけ女性との会話が盛り上がり、モテる要素を持っている男性は少なく、さらに好感度を上げ、距離を縮める心理学を知り、それを試したくなるような交流の場がたくさんある。
今回の報道は「彼は女好きだから」「性欲が強いのだろう」という短絡的な結論ではなく、「バラエティ番組への出演が目的だったものを公私混同して使ってしまう」という状況を作ったセルフブランディングのミスに見えてしまうのです。
活動自粛の理由にふれない不可解
3つ目は、スキャンダル発覚時の対応ミス。詳細が報じられる前に所属事務所が芸能活動自粛を発表したのは、「早めに手を打っておきたかった」のでしょう。ただ当然ながら、「早ければいい」というわけではありません。
事前告知のような形にすることで、「見る側に心の準備をさせ、ショックをやわらげられる」というメリットがある反面、「なぜ理由にふれないのか」と疑念を抱かれるデメリットがあります。さっそくネット上やワイドショーのコメンテーターから、「説明なしに自粛してガードを固めるのは姑息」という声が挙がっていますが、まさに正論。人気商売の芸能人だけに、黙って逃げたような印象はマイナスでしかなく、MCを務めるほどの人気タレントなのですから、すぐにでも自分の口で語るべきでしょう。
それが行われないため、批判のピークが訪れるまでの時間が長くなり、渡部さんに対する人々の心証は悪くなっていく一方。ダメージコントロールの観点では、「正直に話すことで批判のピークをいかに早く作り、イメージ回復に向けて動き出していくか」が重要なだけに、適切な初動対応だったとは言えないのです。
現時点で別居などには至っていないようですが、反響の大きさを見る限り、報道後に世間の反応を見て、離婚の決断を下す可能性もゼロではないでしょう。家庭のことは2人の問題であるものの、影響力の大きい夫婦だけに、近いうちに妻の佐々木希さんにもコメントが求められるはずです。
ただ渡部さんの活動自粛は長期に渡る可能性もありますが、決して復帰できないというわけではないでしょう。不倫の過去があっても現在活躍している芸能人は多く、それは一般のビジネスパーソンも同様であり、あなたの勤務先にもそういう人がいるかもしれません。イメージが重要な芸能人と言えど、それをどう上げるかは仕事の実力次第であり、その意味で渡部さんは禊の期間後が頑張りどきとなるでしょう。
ネット上には「消えろ」「引退決定」「もう2度と出てくるな」などの厳しい声が目立ちますが、1度の失敗を点でとらえて抹殺するのではなく、再起までの線でとらえるような懐の深い世の中であってほしいところです。
人間の欲望は果てしなく、罪深い
最後に、渡部さんとやり取りしていたときの印象を書いておくと、「非常に効率的で無駄がない仕事ぶり」「相手の意向を踏まえて話す柔らかさ」「芸能人というオーラを出さず気さくな対応」など、仕事のできるビジネスパーソンと話しているような感覚がありました。
「芸能人だから、あまり近づかないで」という感じはなく、むしろ近づいて交流してくれる。芸能人特有の強い自己主張もなく、周囲を気づかい、「相手が何をすれば喜んでくれるか」を考えているような人でした。とはいえ、当然ながら複数女性との不倫を擁護する気にはなれません。
渡部さんは「コンプライアンスに抵触するリスクが低く、炎上しづらい安全安心の芸風」と言われて重用されてきました。さらに、佐々木希さんとの結婚で好感度が上がり、グルメ王の座も安泰であり、1歳男児もかわいがっているなど、リスクを冒す理由がまったくわからないのです。
それだけに、やはり人間の欲望は果てしなく、罪深いものであることを改めて感じさせられました。これは決して芸能人だけの話ではなく、ビジネスパーソンのみなさんも、順風満帆なときこそ、さらなる欲望を求めて失敗しやすいことを覚えておいてほしいのです。