湖北省の患者数は「ゼロ」となったが…… ※写真はイメージ(写真:財新記者 丁剛)

新型コロナウイルスの震源地である武漢を含む湖北省で患者数が「ゼロ」に。だが、なかなか陰性にならない「長期陽性患者」が新たに発生している。彼らは感染力を持つのか。慢性的な感染者となってしまうのか――。中国の独立系メディア「財新」が取材・分析した。

4月26日、武漢を含む湖北省の全地域で、新型コロナウイルス肺炎の患者数「ゼロ」が実現した。湖北省と武漢市での感染予防策が、緊急で超長期のものから通常の対策へと変わったことを受けて、共産党中央の指導グループも4月27日に北京へ戻った。

だがその裏で、「長期陽性」という新たな患者の存在が人々の注目を集めている。

「陽性患者が感染者と見なされない」

武漢市金銀潭病院のある医師は、「病院には陽性患者がまだいるが、彼らはもう感染者とは見なされていない。病院は総合的な評価を行った後に次々と退院させ、社区(訳注:団地のようなコミュニティー)の隔離拠点に送っている」と財新記者に話した。

4月24日、国家衛生健康委員会医政医管局の焦雅輝は、中国中央テレビ(CCTV)のインタビューで「長期陽性」という表現を初めて用いた。湖北省で入院治療を受けている患者のうち、約15人の軽症患者らが核酸検査(訳注:PCR検査など)の結果を待っているが、ほかにも長期間にわたって陰性にならない患者が30人余りおり、彼らがいわゆる長期陽性患者だという。

湖北省が患者数「ゼロ」を実現できたのは、患者数から長期陽性患者を除いたからだ。

”長期”はどれだけの長さか。彼らは感染力を持つのか。どう治療すべきか――。数多くの疑問について研究結果が待たれる。

北京地壇病院感染二科の主任医師である蔣栄猛は、同病院のSNS公式アカウントで、「長期陽性の期間は3週間か4週間か、あるいは2カ月以上か。 まだ明確な定義はない」と投稿している。

北京、広州、武漢の多くの感染症専門家によると、理論的には長期陽性患者の感染力は弱く、患者が一生ウイルスキャリアであり続ける可能性はあまりないという。「ある文献によれば、一部の患者が回復後にウイルスを排出することはあるが、病原性は著しく低下し、感染源となる可能性は低い」(蔣栄猛)。

発症から49日間陽性だった中年男性も

広州市第八人民病院の感染科主任である蔡衛平は、「今のところ長期陽性患者が感染力を持つかどうかは結論が出ていない。患者のDNAサンプルを培養して観察するなど引き続き研究が必要だ」と財新記者に話した。

「もし長期陽性患者の体内で活発なウイルスを再生産できなければ、周りの人に感染することはなく、慢性的な感染状態ではない可能性がある」(蔡衛平)

4月24日、上海市科学技術協会などが主催したシンポジウムで、中国工程院院士(訳注:理系研究者最高の栄誉とされる)であり、天津中医薬大学の校長でもある張伯礼は次のように明かした。

「武漢の一部の無症状感染者が長期間にわたって陽性となり、専門家を困惑させている。ただ、患者の体内のウイルスに対して実施したDNAシーケンシング(訳注:遺伝子解析の一種)の結果によると、一部の患者のウイルスは死んでいた」

「長期陽性」という言葉が生まれる前から、同様の現象は注目を集めていた。

3月22日、武漢中部戦区総病院の疾病予防管理科主任である王瓊(けい)書や、陸軍軍医大学基礎医学院の教授である繆(びゅう)洪明らは、医学関連の査読前論文プラットフォーム「medRxiv」で論文を発表。そこでは特殊事例として「1人の中年男性が発症から49日間、陽性だった」と書かれている。

同論文によると「新型肺炎患者のウイルスが排除されるまでに要する時間の中央値は20日間、発症から治癒するまでは最長37日間であり、重症・危篤の患者であっても明らかな差はないと考えられていた」という。  

この中年男性は1月25日に発熱し、体温は最高38.1度だった。自分で解熱剤と抗ウイルス薬、漢方薬などを服用し、1週間後には体温が正常に戻った。だが、2月7日に親族が新型肺炎だと診断されたため、翌日に病院で核酸検査を受けた。

合計9回の核酸検査の結果は3月11日に陰性となった以外はすべて陽性だった。2月20日と3月14日には抗体検査も実施。結果はIgG(訳注:血液中に最も多く含まれる抗体で、液性免疫の主役)が陽性、IgM(訳注:細菌やウイルスに感染した際、最初に作られる抗体)は陰性だった。

回復患者の血漿で治療、翌日すぐ陰性

ヒトが新型コロナに感染する過程では、まずIgMが出現するが存在する時間は短い。その後IgGが出現し、比較的長い時間存在する。IgGが陽性、IgMが陰性ということは、この患者は感染から一定期間が過ぎており、急性期(訳注:症状が急に現れる時期)ではないことを意味しているという。


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3月15日、この患者は新型コロナから回復した患者の血漿を用いた治療を受けた。4時間後に発熱し、体温は38.9度まで上昇したが、医師は輸血による反応だと判断。翌日に体温は下がり、同16日と17日の核酸検査では陰性となった。

「もし血漿治療を行わなかったら、この患者は慢性的な感染者となり、ウイルスと共生関係を築いていたかもしれない。ほかにもどれだけの患者が同じような状況にあるのかを知りたいと考えている」(同論文の考察部分)

この患者は家庭内感染によって発症した。親戚の年配女性も感染しており、発症から陰性となって退院するまでに27日間を要した。研究者は、家庭内感染におけるウイルスの感染力と毒性は比較的弱いが、感染期間が長く、人体から排除するのが難しいと分析している。

(財新記者:馬丹萌、黃姝倫、蔣模婷、曾毓坤)
※敬称略。原文は現地時間4月28日20:25配信