外出先での長時間のスマホの利用に欠かせないのが、おなじみの「モバイルバッテリー」です。iPhoneは、もともとバッテリーの持ちがよいとはいえ、動画の鑑賞や4K動画撮影などを楽しんでいると、残量はガンガン減ってきます。また、バッテリーが消耗した古いiPhoneでは、モバイルバッテリーなしではやっていけない……という人も多いでしょう。

今回は、そんなモバイルバッテリーについて、iPhoneと組み合わせて使ううえで知っておきたい容量に関する知識と、モバイルバッテリーを選ぶポイントを紹介します。

○「スマホ○回分」という表示は信頼できる?

モバイルバッテリーのパッケージには、たいてい「スマホ○回分の充電が可能」といった、充電回数の目安が書かれています。しかし、実際にフル充電したモバイルバッテリーをつないで充電してみると、表示された回数ほど充電できないこともしばしば。「iPhone 2回分」と書いてあるのに、2回目の充電を完了できずに途中でバッテリーの残量が尽きてしまったりします。

モバイルバッテリーのパッケージには、特定のスマホを何回充電できるかが目立つ位置に大きく表示されていることが多くなっています


こうした現象が起こる理由の1つは「変換ロス」。モバイルバッテリーに使われているリチウムイオン電池は、一般的に電圧が3.7Vなのですが、これをUSBで給電しようとすると5Vへ変換する必要があります。この変換の過程で、容量の一部が目減りしてしまうのです。

では、具体的にどのくらい減るのでしょうか? 仮に「3.7V/容量10,000mAh」のモバイルバッテリーがあったとして、5Vに換算すると7,400mAhということになります。つまり、5,000mAhのバッテリーを内蔵するスマホを2回充電できるように見えて、実際には1.5回弱しかできないわけです。おおむね、表示容量の6〜7割と考えておけば、がっかりすることはないでしょう。

ここで厄介なのは、メーカーがパッケージに記載している「スマホ○回分」という表示は、この変換ロスを考慮して記載している場合もあれば、そうでない場合もあること。後者は、容量を実際よりも大きく見せようとしているわけで、メーカーによってはこうした表示はまったく信頼できないこともある、ということは頭に入れておいたほうがよいでしょう。

○「mAh」と「Wh」、2種類の容量表示について知る

ところで、バッテリーの容量を表す単位は、実は2種類あります。よく知られているのは「mAh」(ミリアンペアアワー)という単位です。モバイルバッテリーの製品ページに書かれている「5,000」「10,000」「20,000」など、1,000を超えた値は単位がmAhとみなして間違いありません。

市販のモバイルバッテリーのほとんどは、目立つ位置に容量が「mAh」の単位で記載されています


これに対し、スマホなど本体機器側のバッテリー容量の多くは「Wh」(ワットアワー)という値で書かれています。Appleの製品ページを見ると、iPadはこの「Wh」でバッテリー容量が記載されています。iPhoneは製品ページには記されていませんが、ハードウェアの分解記事でおなじみの海外サイト「iFixit」が、「Wh」に換算したバッテリー容量をTeardownのページで検証、公開しています。

iPadのバッテリー容量は「Wh」で記載されています。ノートPCも、Whで記載されているケースが多く見られます


この「Wh」は、正確には「ワット時定格量」と呼ばれ、国内線や国際線で機内に持ち込めるモバイルバッテリーの容量制限は、この「Wh」で記載されています。ほとんどの場合、160Whを超えると機内への持ち込みができなくなります。

これはJALのホームページ。機内に持ち込める容量がWhで記載されています


この「mAh」と「Wh」は、前述の電圧(多くの場合は3.7V)を掛ければ相互に変換できます。仮に15,000mAh(=15Ah)であれば、これに3.7Vを掛けることで、55.5Whとなります。現行のiPhoneで例を挙げると、iPhone 11 Pro Maxは15.04Whとされています。

厄介なのは、電圧がきっちり3.7Vではなく、微妙に異なるケースがあること。上記の例だと、同じ15,000mAhでも、3.7Vであれば55.5Whですが、これが3.5Vだと容量は52.5Whとなります。つまり、mAhだと同じ容量でも、Whに直すとズレが生じる場合があるわけです。

モバイルバッテリーのメーカーによっては、Whの値、および電圧の値を明示しないことで、正確なバッテリー容量を把握しづらくしています。理由はやはり、少しでもバッテリーの容量を大きく見せたいためです。

それゆえ、モバイルバッテリーを選ぶ時は、「mAh」に加えて「Wh」でもバッテリー容量を表記しているメーカーを選んだほうが、ハズレを引く確率が下がるといえます。さらに、電圧(V)も併せて公開していれば、より安心できるといえるでしょう。

「mAh」と「Wh」の両方で表記し、かつ電圧(V)も記載しているメーカーは、それだけ信頼性が高いとみなしてよいでしょう


○旅行や出張に便利な「パススルー充電」とは?

モバイルバッテリーの体積と重量は、バッテリーの容量に比例します。そのため、このどれかが決まれば、残りはほぼ自動的に決まってきます。したがって、同じ容量でなるべく体積が小さい製品を選ぼうとしても、そう極端に違いがあるわけではありません。せいぜい形状の違いで選ぶくらいでしょう。

そのようななか、モバイルバッテリーを選ぶ場合のポイントとなるのが、充電器選びの記事でも紹介した急速充電規格「USB PD」への対応の有無がひとつ。そしてもうひとつ、チェックすることを個人的におすすめしたいのが、「パススルー充電」への対応の有無です。

USB Type-Cポートからの出力がUSB PDに対応していれば、iPhone 8以降との組み合わせで高速充電ができます


パススルー充電とは、モバイルバッテリー本体の充電中にスマホを接続すると、スマホが優先的に充電され、それが終わってからモバイルバッテリーが充電される機能のこと。この機能があれば、コンセントが1口しかなくても、数珠つなぎにしておけば朝までに両方の機器の充電が完了します。宿泊先のホテルなどで、夜中に起き出してつなぎ替える必要もありません。

モバイルバッテリーがパススルー充電に対応していれば、充電器−モバイルバッテリー−スマホと数珠つなぎにした状態で、優先的にスマホを、次いでモバイルバッテリーを充電できます


モバイルバッテリーとスマホを自宅で別々に充電する人にとっては、必須の機能というわけではありませんが、旅行や出張などでホテルに宿泊する機会が多い人は、この機能の有無で使い勝手ががらりと変わります。そうした利用スタイルが見込まれる人は、購入前にメーカーの製品ページで対応をチェックすることをおすすめします。