台風接近で飲料水を備蓄する家庭が増え、スーパーの売り場は品薄状態に(2019年10月、時事)

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 台風が相次いで日本列島に近づき、影響を及ぼしています。特に「台風19号」は上陸前から、気象庁が暴風や大雨への対応を呼び掛けていたこともあり、食料や飲料水の備蓄、屋外のものを屋内に移動させるなど、事前に対策をした人も多かったようです。

 一方、ネット上では、こうした状況下で「何もしてくれない夫」に対する妻たちの不満が噴出。「上陸前日なのに飲みに行って深夜まで帰ってこなかった」「全く手伝ってくれなくてイライラした」「夫の危機意識のなさにあきれた」といった怒りの声が上がっていました。

 災害などの非常時にしっかりと協力し合える夫婦関係を築くには、どうすればよいのでしょうか。夫婦カウンセラーの木村泰之さんに聞きました。

日頃から「分業」する習慣を

Q.「台風への備えをしない」「何も手伝わない」夫と、その妻の怒りの声について、どのように思われますか。

木村さん「昨今の自然災害は、ニュースでも『100年に一度』『命を守る行動を起こす』といった表現がされるような規模です。もちろん、場所によってはそれほど被害が大きくないケースもありますが、台風から遠く離れていても、大雨の翌日に洪水が起こるようなことも多々あります。

そう考えると、どこかひとごとだったり、あまり関係ないこととして捉えたりする夫に怒りが出るのも当然です。家を守る立場として、夫の危機管理意識の希薄さは、他のことよりも強く言いたくなるでしょう。

日頃、夫がちょっとしたことを忘れたり、いいかげんにしていたりすることでさえも腹が立つのが妻です。ましてや、災害の備えに対しての鈍感さや、『何とかなる』という意識には、感情が強く出てしまうのも無理はないでしょう」

Q.災害などの非常時に必要とされる「行動力」「適応能力」「協調性」などの有無は、夫婦によって異なります。こうした要素を持っている夫婦/持っていない夫婦は、何が違うのでしょうか。

木村さん「災害時の行動力や適応性、協調性というものは、そうした状況になったときに急に現れるわけではなく、日頃から何かしらの意識を強く持っていることで発揮されます。例えば、マンションの避難訓練などに定期的に参加していたり、行政が示す住居周辺のハザードマップに目を通していたりする夫婦は『万が一のときにどういうことをすべきか』というシミュレーションができています。

しかし、何となくテレビやネットだけで情報を得ている夫婦には、そうした想定ができません。『疑似体験をしておかなければ、いざというときに困る』という意識の有無が、非常時の違いを生むと思います」

Q.非常時の対応・対策について「夫婦のどちらかが非協力的」「夫婦間で温度差がある」場合、どうすればよいでしょうか。

木村さん「コミュニケーションや行動に工夫が必要でしょう。日常的に何をするにしても、お互いに共同作業をしておくことが大事です。例えば、『この洗濯物を取り込んでおいて。そしたら私が畳むから』『ベッドの収納を開けるのを手伝って。開けてくれたら、私が夏物をしまうから』など、全ての作業を1人で行わずに、分業する習慣を付けましょう。また、温度差がある場合は、災害時の対応事例の動画などを一緒に見て感覚を合わせることも効果的です。

反対に、どうせ手伝ってくれないと思い、作業をしたり、知識を身に付けたりすることを1人で行うのはNGです。また、『手伝ってくれないならもういい』などと協力を諦める言葉を発するのも避けるべきです。日頃から夫婦で一つのことをする意識を高めることが重要です」

Q.台風19号のように、規模や被害などが事前にある程度想定可能な天災が起きる可能性は、今後も十分に考えられます。こうした危機への対応に関して、夫婦間のトラブルやすれ違いを未然に防ぐために、夫と妻それぞれが意識すべきことは何でしょうか。

木村さん「まずは、世界的にみても災害の多い日本という国に生まれ育ち、そうした環境下で夫婦になっていることを意識しなければいけません。そして、日頃から積極的に地域の人との交流を夫婦で行うことです。災害時に直面する困り事は男性と女性で異なりますから、いざというときのために、妻は女性の、夫は男性のコミュニティーに参加しておくことも大事です。

周りの人との関係を密にすると、自然と夫婦の会話の中でも危機意識や問題意識が高まってきます。つまり、住んでいる地域の話題が増えてくると、夫婦や家族だけでなく、より広い視野で物事を見るようになっていくのです。そうなると、夫婦のすれ違いが少し小さく感じられるようになります。

周りの人と交流することで、日頃の“登場人物”が増えますから、夫婦のことだけで頭がいっぱいになることは減っていくでしょう。このような思考のつくり方が大事なのです」