増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

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・広告リスク
広告が気に入らなければ買わなければ良いだけ、パンが無ければケーキをお食べなさいとは言えない時代になってしまいました。今、マリー・アントワネットが生きていたら、不謹慎と炎上したことでしょう。(炎上どころか、当時のフランスでもあんなことになってしまいましたが)

今回は数年前のポスター広告ということで、恐らく出稿当時は限定的な露出しか無かったものと推察しますが、今の時代、今回の炎上のようにこうした過去の行為でも掘り返され、批判を浴びる可能性は十二分にあります。テレビなど露出の高い媒体広告はもちろんですが、インターネット時代になり、広告としてはほとんど認識されないようなわずかなものであっても、ネット上には無尽蔵のデータ蓄積ができるため、今回のような「過去の蒸し返し」は今後もあり得るでしょう。

広告を作るのは広告代理店ですが、それを出稿するのはスポンサー(広告主)です。自分らが作ったものではないという言い訳は当然通りませんので、批判を受けるリスクは広告主が負うことになっています。

問題は広告を作る際、そこまでのリスク管理や覚悟ができているのかということです。

・東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞という圧力
今回問題となった、「ハーフの子を生みたい方に」というコピーを最初に見た個人的印象は気持ちの悪さでした。着物を着る→外国人から言い寄られる→交際(結婚?)→妊娠出産と、とても生々しいメッセージを感じたからです。

広告コピーに文句を付けること自体、野暮であり意味ないことはわかっています。ただ、そもそも「その広告は何のために行うのか」という根本的な目的は、広告を作る立場で、スポンサー側の人間はいの一番に考えなければならないものです。

この広告を作ったコピーライターさんは、この広告の評価として、2016年の東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞を受賞されました。(TCCサイトに掲載中)

広告的にはイケてるという評価なのだと考えられます。

広告主側も、ブランドマネージャーのような専門職を置いている場合もあれば、営業部門の中についでのようにある販促担当だったり、あるいは社長の一存で進める会社など、さまざまです。しかし一度トラブルになれば、当然会社の組織的事情など一切関係なく、批判されるのは今回のように会社そのものです。

特に広告専門でもない方(社長や経営者に少なくありません)が広告代理店から提案を受けると、なんか否定すれば自分の感性が鈍いとかダサいと取られるのではないかという無言の圧力を感じることもあるのではないでしょうか。相手は広告賞を受賞するほどのクリエイターの作品です。チラシ広告に文句をいうのとは恐らく違った思考が働いてもおかしくありません。

・原点は販売促進
バブル時代、感性広告などといわれて、意味不明のCMを作る企業がカッコいい、ベタベタな販売促進広告はダサい、という価値観がかなり広がり、同時に広告を作る側の人が文化人などとして評価されるようになりました。ですが、やはり時代は変わり、単に目新しい、意味不明。それどころか批判や炎上を呼びかねないリスキーな広告はもはや通用しません。

いや、どんな批判もすべて受け止めるという覚悟のできる、オーナー企業のトップ以外、そんなリスクを負うことは不可能です。特にコミュニケーションリスクは日々の営業に直結しますから、広告を担当する方が専門家かそうでないかを問わず、広告効果とリスクをしっかり判断して展開することが欠かせません。

今の時代であれば、単に「注目を集める」「関心を持ってもらう」という目標はあまりに中途半端すぎます。広告予算を数十億投入できるならまだしも、大手広告代理店なら相手にしないような予算規模で広告展開している企業の方が圧倒的に多いはずの環境で、よくいえば高邁な、率直にいえば分をわきまえない目標設定は間違いだと思います。

私もテレビなどあり得ない、きわめて限られたマーケティング予算をやりくりして、どうすれば広告効果が出せるかをひたすら考えて出稿してきました。媒体選択含め、広告主が戦略と目標を考えなければならないのです。その結果、販売促進につながるというある程度の確信を持てる時にだけ、広告を出せば良いはずです。

単に効果が出ないどころか、炎上・悪評リスクを負ってしまう時代になったことを今一度経営者は認識すべきだと思います。