被害にあった西原さん(仮名)が見せてくれた契約書には大人顔負けの文言が並ぶ。大学生には十分な脅しになるだろう

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《学生サークルTLに無理やり勧誘され、強引にお金を巻き上げられてしまいました。弱い立場の高校生や未成年に、脅しをかけて、まるでカツアゲのようです。怖くてどうしていいのかわからず、夜も眠れません》

【写真】最高幹部7人。“神7”の謎のスタジオ撮影写真

 これは今年の3月にネットに投稿された相談だ。ほかにヤフー知恵袋などにも同様の相談が数件寄せられていた。

毎月のノルマ

 イベントサークルの運営費を取り立てようと、東京・西麻布の路上で元メンバーの男子大学生の首を絞めてバッグを奪ったとして、警視庁麻布署は、強盗の疑いで日本大学商学部4年の村尾光康(21)と同大国際関係学部4年の清水勝護(22)の両容疑者を逮捕した。

「もみ合いになったが、バッグを拾い上げただけ」などと否認しているが、学生が逃げ込んだタクシーの車載カメラには、学生を車から引きずりおろそうとする村尾容疑者の様子が映っていたという。

 捜査関係者によると2人は複数の大学の学生が集まるイベントサークル『TL』の幹部。村尾容疑者が副代表でナンバー3、清水容疑者が最高幹部でナンバー4だった。

「TLとはトゥルーラブの略で、いわゆるインカレサークルです。'14年に村尾容疑者の兄が立ち上げて、約10人の幹部と約150人のメンバーで構成されています。

 幹部メンバーらには毎月4人を入会させるノルマがあり、達成できない場合は4人分の会費12万円の罰金が課されていたそう。幹部の上位7名が“神7”的扱いで最もおいしい役どころ」(社会部記者)

 入会時には学生証などのコピーをとって、契約書にサインさせ、やめる際には10万円以上の高額な退会費を請求していたという。

 TLに75万円以上を騙し取られたという西原亮さん(仮名・21)によると、

「イベントサークルをうたってSNSなどで人を募っていますが、実際はイベント勧誘サークルで、ねずみ講式に人を引き入れていくところでした。自分も新宿の事務所に連れていかれ、どうすれば集客できるか説明を受けました」

 ツイッターで5つのアカウントを持つ方法や、SNSでのセールストークを仕込まれたという。さらに、

「バーベキューパーティーやクラブでの大規模イベントに参加できるのかと思って高い会費を払ったのに、行ってみるとイベントの設営やお客さんの荷物係をやらされました。おかしいと思ってすぐに退会を申し出ましたが、3回分の9万円のイベント料を請求され、そのお金は約束どおり支払い退会しました」

 と、手口を明かす。

 しかし、退会後もTLはしつこかった。

「代表自ら連絡してきて、投資話を持ちかけてきたんです。代表はとても話がうまくて“投資に失敗したとしても損害は自分がかぶる、損はさせない”などと言われ見事に騙されてしまいました。

 その後は投資に失敗したとだけ聞かされ、投資家に投げたから詳しくはわからないなどと言い訳をされて投資家の名前を明かさない。学費から工面したお金なのでどうしても返してほしい」

 西原さんは被害者を集め、弁護士に相談するなど法的準備を進めている。

高級思考だけど、感想は浅い

 SNSを中心に活動していたというTL。最高幹部と呼ばれる7名のツイッターやインスタグラムをのぞいてみると─。

 連日のようにパーティーに明けくれ、クラブでシャンパンタワーをしたり、コスプレをしてバカ騒ぎをしている写真がこれでもかと掲載され、とても大学生とは思えないカネの使いっぷり。(以下《》内はすべて村尾容疑者のツイッター投稿より)

《昨日はミィーティングからの寿司三昧 俺全然食べてないのにお会計5桁いったよ》

 別の日には赤坂で美女と蟹を食べている画像とともに、

《最近蟹を良く食べますが蟹は何回食べても飽きないしどんな食材でも合う気がする》

 と、当たり前のことを評論家気取り。

 西麻布の会員制ラウンジで市場には99パーセント出回っていないというウイスキー『白州』を飲み《さっぱりしてて呑みやすく美味しいのでおすすめです》などと浅い感想を述べている。同時に逮捕された清水容疑者の誕生日には、

《相棒であり友であるしょーごの誕生日お祝いを

 毎度のことですが年齢の本数以上のシャンパンを》

 どこかのバーを貸し切って男女でバカ騒ぎしている。シャンパンタワーは当たり前で、プレゼントはヴィトンのベルトなどをポン!

 夏にはセブ島やマレーシアに数名で旅行。格言めいた言葉もたびたび載せている。

《最近の若者は将来のことを考えずに勿体ないな。時間は有限、無駄なことに時間を割かないほうがいい》

 そんな村尾容疑者の人物評は「ゴルフのスコアを改ざんする根っからのイカサマ野郎との噂」(大学ゴルフ連盟関係者)と、さんざん。TLについては、逮捕案件以外にも金を騙し取られたなどの相談が10件以上、警視庁に寄せられているという。

 国民生活センターによると、マルチ取引の相談は年々件数が増え、'18年は9月時点で4192件とハイペースで推移している。

 マルチ商法などの被害者心理に詳しい立正大学の西田公昭教授によると、

「今の大学生はインスタントにビッグになりたいという心理が基本にあります。'00年以降、この傾向が強くなっているのですが、背景には大企業の低迷やIT長者の登場などがあります。

 セレブな人生に憧れていて、そこに至るまでの地道な努力には思いが至らないんです。何かのチャンスにうまく乗れた人が成功すると勘違いして、このようなマルチ商法にハマってしまうんですね」

 村尾容疑者の実家を訪ねたが母親と思われる女性が「何もお話しすることはありません」と言うのみだった。