福岡大学附属大濠高等学校 濱地 真澄投手「目指すは試合を支配する投球」

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 今年の福岡県を代表する好投手として注目される濱地 真澄。濱地が脚光を浴びたのは昨年夏の福岡大会である。3回戦で昨春選抜出場の九産大九州と激突すると、その試合に先発した濱地は3安打完封、そして4回戦の福岡工戦では1安打完封と華々しい活躍を見せ、昨秋の福岡県大会でも2完封と圧巻の投球を見せた。濱地のウリは球速表示以上と感じさせる伸びのあるストレート。そのストレートについて、福岡大大濠・八木 啓伸監督も「相手が分かっていても打たれない凄味がある」と評するほど。

 キャッチボールを見ても、60メートル程の距離からでも助走をつけることなく投げこんでおり、シュート回転することなく真っ直ぐ伸びていくライナー性のボールをどんどん投げ込む姿には非凡さが伺えた。優れた素質を持つ濱地のこれまでのピッチングを振り返るとともに、今年の意気込みを伺った。

脚光を浴びた昨夏の福岡大会

濱地 真澄投手(福岡大学附属大濠高等学校)

 濱地の投手人生のスタートは小学校3年の時。チームとしては小学校、中学校ともに大きな大会に出ることはなかったが、投手としての才能は当時から光っていた。小学校6年生の時(2010年)には、「NPB 12球団ジュニアトーナメント ENEOS CUP 2010」で福岡ソフトバンクホークスジュニアチームとして出場。因みにこの時のホークスジュニアチームの主将は現在、福岡大大濠の主将であり、濱地が絶大な信頼を置くキャッチャー・松本 敦輝だった。

 さらに中学校3年の時には、第8回15U全国KB野球秋季大会に出場。この時からすでに140キロ台の速球を投げ込んでいた濱地が、「この学校で甲子園にいくため」と選んだ先は、福岡大大濠。再び松本と同じチームになったのであった。

 だが、入学当初は肩、肘のケガに苦しむ。中学まで軟式だった濱地は初めて握る硬式球に戸惑いがあった。「硬式は縫い目がありますし、ゴムだった軟式と比べると肌触りも違いますし、初めて投げた時はそのストレスで思うように投げることができずに時間がかかりました」

 入学時は、走り込みや、器具を使わない腹筋、背筋といった地道なトレーニングの繰り返しだったが、「それがあったから今に生きている」と振り返る。1年夏が終わってからは練習試合で投げる機会が増えてきたが、この頃はまだ自分の思うような投球が実現ができなかった。そして秋は福岡南部大会Bパート3回戦で福岡工に敗れ、春は2試合に先発し勝利投手となったが、まだ思うような投球ができなかった。勝たせることができず、先輩たちに申し訳ない気持ちだった。次の夏こそ、機会があればベストピッチングをという思いで、調整を続けてきた。

 そして迎えた夏の大会。2回戦で朝倉光陽に勝利し、3回戦の相手は選抜出場の九産大九州。この試合の先発のマウンドに登ったのが濱地であった。九産大九州との対戦に、やりにくさはなかった。この試合、濱地は「らしい」投球を見せる。ストレートの球速は140キロ半ばだが、濱地が追求する「球速よりも速く感じるストレート」で九産大九州打線を圧倒。九産大九州打線は引っ張ろうとしても、濱地のストレートに振り遅れてほとんどが逆方向だった。

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 濱地のストレートについて、福岡大大濠の八木監督はこう評する。「濱地の魅力は、相手がストレートと分かっていても打ち返せないストレートです。それがアイツの魅力だと思います」そして指揮官が絶賛するストレートをこの試合で十二分に発揮していた濱地は、1点を先制した5回表、打席に立った。打力はないが、投手心理を読むことが得意だった濱地はストレートを思い切り空振りした。

「この時、狙っていたわけではないのですが、その時の空振りが、ホームランを狙っている空振りだと相手投手に思われたのだと思います。変化球に的を絞ったら、それがきました」内角に甘く入った球を捉え、打球はレフトスタンドへ。自身の本塁打で2対0とすると、濱地は最後まで乱れず3安打完封勝利。まさに一人舞台で、選抜出場チームに勝利したのであった。

手応えと課題が残った秋の大会

濱地 真澄投手(福岡大学附属大濠高等学校)

 見事な快投だったが、濱地はかなり苦労した試合だったと振り返る。「初めて夏の大会で投げたので、独特の雰囲気や暑さなど初めての経験でしたので、その疲労感がかなりありました。これが夏の大会なのかと」

 夏の大会というものを実感した濱地は続く4回戦・福岡工戦でも好投し、秋に敗れた相手に1安打完封。5回戦の飯塚戦でも先発し、8回まで2失点の好投を見せた。9回裏に1点を取られサヨナラ負けを喫したが、夏は3試合に登板し、登板した試合はすべて完投。26.2イニングでわずか3失点と福岡の高校野球ファンに期待を持たせる活躍を示したのであった。

 さらなる活躍を誓った2年秋だったが、新チームスタート直後、濱地は練習試合で右手の薬指に死球を受け、骨折してしまう。しばらく投げることができず、秋季大会まで再びトレーニングに明け暮れた。そして秋初めての登板が、秋季福岡県大会3回戦の柏陵戦だった。

「ケガ明けで調子は良くなかった」と振り返る濱地だが、この試合最速146キロのストレートを武器に1失点完投勝利を挙げる。そして4回戦の福岡工大城東戦では、「結構打たれてしまい」6安打を打たれたものの、要所で締めて完封勝利。5回戦では登板せず、準々決勝の自由ケ丘戦で再び登板すると3安打完封し、本調子を取り戻していた。

 ここまでの好投を振り返ると、「夏は非常に良い経験をさせてもらいまして、エースとしてやらなければならないという気持ちが出ていました。また薬指を骨折したことで、今までは無駄な力が入っていたのですが、思った以上に力が抜けて、変化球の切れも良くなりました」と手応えを示す。そしてリードする捕手の松本も、「変化球はスライダー、カーブ、チェンジアップと特別、球種は多くないのですが、夏よりも精度は上がったと思います」と捕手目線から見てもレベルアップしたことを感じていた。

 そして、勝てば九州大会出場が決まる福岡県大会準決勝。相手は剛速球右腕・梅野 雄吾(2016年インタビュー)擁する九産大九産。先に1点を与えてはいけないと思っていたが.、1回表、3番梅野に適時打を打たれ、先制点を許してしまう。「やってはいけない先制点。カウント球として投げにいった球を打たれました。ここから絶対に点を与えてはいけないと思い、全力で投げていきました」この後、濱地は九産大九産打線を無失点に抑えるが、対する梅野も素晴らしい投球を見せ、無安打無得点に抑えられてしまい完封負け。九州大会出場を逃し、長い冬を迎えることになった。

[page_break:日々の努力と優れた素質がマッチすれば大投手になれる]日々の努力と優れた素質がマッチすれば大投手になれる

濱地 真澄投手(福岡大学附属大濠高等学校)

 この試合を振り返って濱地は、「本当に悔しい負けでしたね。負け方が悔しすぎますし、自分の責任で負けたので、この悔しさを練習にぶつけるしかありませんでした」

 それからの濱地は、投球練習、キャッチボール、走り込み、トレーニング、食事などに一層、力を入れている。ストレートは146キロまで速くなったが、スピード表示にはそれほどこだわりがなく、求めるのは周囲を圧倒するストレート。まだまだ自身のストレートに満足はいっていないという。さらなるレベルアップを目指すため、練習に取り組む姿勢も変わっていた。また体を大きくするために、食べる量を増やし、現在は183センチ86キロまで増量。この冬は「無駄なぜい肉を落とし、筋肉に変えていくトレーニングをしています」と語るように大きくなった体をうまく使いこなせるにしている。

 目的意識を持って練習に取り組んでおり、その変わりようは八木監督も認めている。「濱地は素質もすごいですし、投手として独特の感性を持った投手です。しかし1年生のころはまだ取り組みが甘いところがありました。でも一球の怖さを知ったことでだんだんストイックになってきましたね」これは八木監督が求めていた姿でもあった。

「本気になって取り組んで、彼の素質、独特の感性に努力した分がうまくマッチすれば、高校だけではなく、次のステージでも大投手になれる可能性を持っています」と監督が絶賛するほどの濱地。私立だけではなく、公立校にも強豪が揃う激戦区の福岡県を勝ち抜くためには、やはりエース濱地の投球が鍵となる。

 そんな濱地が求めるのは「試合を支配するような投球」だ。「ストレートは、相手がストレートだと分かっていても抑えられるストレート。けれどストレートだけではだめですし、変化球もしっかりと磨いていきたいです。理想としては自分が投げて、その試合を支配するようなピッチングができればと思います」

 強豪が揃う福岡県。立ち向かう強豪に圧巻の投球で、福岡の頂点を勝ち取る。

(取材・文/河嶋 宗一)

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