佐野日本大学高等学校 五十幡 亮汰選手「中学短距離二冠が語る速く走るためのポイント」

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 現在は俊足をウリにする選手も多くなっているが、その中でも群を抜いた脚力を持つ選手が少なからずいる。佐野日大の五十幡 亮汰もその1人だ。

 ご存知の方もいると思うが、五十幡は中学時代、東京神宮リトルシニアでプレーする傍ら陸上部に在籍し、100メートル、200メートルで全国大会優勝経験を持つ俊足の選手だ。しかも、今年高校生ながら世界陸上に出場したサニブラウン・ハキームに勝利したのだから恐れ入る。

 そんな五十幡選手にこれまでの野球と陸上の関わりを振り返りつつ、速く走るためのコツ、そして野球選手として課題に置いていることを伺った。

速く走るためには3つのポイントを意識している

走る五十幡 亮汰選手(佐野日本大学高等学校)

 日の入りが早くなっている11月。暗くなると選手の顔が分かりにくくなってくる。171センチ63キロと五十幡は決して大きい選手ではなく、多くの選手の中に混じるとよく分からない。しかし走るメニューとなれば、一目で五十幡の姿が分かる。何といっても速いのだ。ストライドが大きい走行、群を抜くスピードで一緒にスタートを切った選手を大きく引き離し、快足を飛ばす五十幡の姿を見て思わず「速い!」と声を上げてしまうほどだ。

 五十幡はいかにして、ここまでの俊足選手になったのか。五十幡は幼稚園の時はサッカー少年で、外に出ることが多く、動き回ることが好きだったという。「今思えば、幼稚園の時からとにかく走り回っていたからこそ足が速くなっているのかもしれません」

 小学1年から野球を始めた五十幡は、駆けっこでは常に一番。中学では野球部が軟式しかなかったので、東京神宮シニアでプレーしながら陸上部に入部した。硬式野球をしながら陸上部に参加する球児は多いが、五十幡は中学トップクラスの陸上選手になった。陸上部ではどんな教えがあったのだろうか。「僕が教わったのは3つです。走り方が修正されたことはありませんが、スタートをしっかりと切ることと、太ももを自分が上げ過ぎと思うかもしれないぐらい大きく上げて、そして力を抜いて走ることですね。そうするとタイムがぐっと上がったんです」

 陸上競技といえば、コンマ何秒を争う世界。それだけスタートは大事だ。が、スタートを意識しすぎるとガチガチになってしまいそうである。だからこそ力まないで走ることが大切だという。力まない時はどんな心境で走っているのだろうか。五十幡はしばらく考えた後、出した答えは「何も考えないことですね」

 何も考えない。この考えに至った理由を聞くと、「タイムが悪い時は、何か余計なことを考えていて、集中できずにスピードも出ていないんです。二冠を取ったときも力を抜いて走ることができたからこそ優勝できたと思います」

 力まないことは野球界でも大事にされているテーマだが、それは陸上でも同じことだった。

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チームメイトと走る五十幡 亮汰選手(佐野日本大学高等学校)

 200メートルの予選ではライバルの選手に負けていたが、その原因として力みがあった。リラックスして走ることを意識し、決勝ではサニブラウンに勝って優勝を果たした。そして次が100メートルだったが、五十幡は準決勝でもギリギリのタイムを残して決勝に勝ち進んだということもあり、気楽に走れば良いと思っていた。そしてコーチの方にも「気楽に走ったらどうだ」と言われて、リラックスした心境で走ることを決意。10秒92と自己タイムを記録して優勝したのだ。そして五十幡はこの後行われたジュニアオリンピックで100メートル10秒79を記録している。

 リラックスしうまく力が抜けた状態となって、無心になり自分のフォームで走る。五十幡のフォームを見ると、確かに太ももが上がっている。それをゴールまで貫くことができたからこそ、驚異的なタイムをたたき出すことができたのだろう。

 しかしこれが野球の走りに生かされているかというと、また別だという。「陸上の場合は、スタートを切ってから30メートルは前傾をして、そこからだんだん体が上がっていってさらにスピードも乗っていくという形ですが、野球は塁間27.431メートル。その長さで陸上の走り方をすると、加速する前にベースに到達してしまうんです。だから野球の場合は、スタートから速く走れるように足の回転を速くすることを意識して走っています」

 そうやって考えて走っている球児はどれだけいるだろうか。陸上でスピードに乗る走り方を知っているスペシャリストだからこそ語れる感覚だといえるだろう。逆に野球の走りが陸上の走りで生きていることもあるようだ。ベースを回る時、小さく回ることが要求されるが、その小さく回ることが、陸上でも役に立つという。そのためコーナーの回り方が非常に上手いと言われることが多いようだ。

「陸上でコーナーを回る時も、野球と同じく左回りなので」ダイヤモンドを回るのは陸上と共通しているところがあったのだ。

 そんな五十幡だが、盗塁は苦手だという。苦手なのは陸上で得意としていたスタートだった。「野球は投手のモーションや、クイック、どのタイミングで牽制を入れるのかを見て、スタートを切らないといけません。また僕は体が前傾して、頭が下がってしまう癖があるので、それを見抜かれるという感じですね」

 足が速いけど、盗塁は苦手という選手は実は多い。それは投手との駆け引きを苦手にしていたり、スタートのタイミングをまだつかみ切れていなかったりすることを課題に挙げる選手もいるが、五十幡もその一人だった。自慢のスピードを最大限に出し切るために、五十幡は色々な俊足選手のスタートの切り方を勉強にしている。

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メニューに取り組む五十幡 亮汰選手(佐野日本大学高等学校)

 ここで五十幡に、足が速くなるため、盗塁技術が上手くなるために普段のランメニューから意識していること。そして足が速くなりたい球児へ五十幡なりのアドバイスをいただいた。

「力まないで走る感覚というのは日頃から意識していかないといけないですし、速く走れる走法やリズムなどは普段から走らないとつかめないと思っています。ただ走るというだけではなく、そういう事を意識すればよいかなと思っています。また僕もまだまだですけど、盗塁がうまくなるには、ランメニューから盗塁を想定したメニューもあるので、そういうメニューを積極的にやっていくことが大切だと思います」やはりテーマを設定して走るしかないのだ。

 そして最上級生になった五十幡。各メディアでもドラフト候補として紹介されることについて、「取り上げて頂くのはありがたいことですが、まだ自分はその期待に見合うだけの選手になっていません」と厳しく自己分析。走塁、打撃、守備すべてを課題においているが、最も課題にしているのは体力面の強化。今はたくさん食べたり、プロテインを飲んだり、ウエイトトレーニングで体を大きくして、さらに長打力を付けていきたいというのがテーマだ。

 足に絶対的な自信を持つ五十幡は外野の頭を抜ける打球をより多く打てるかで変わってくる。五十幡は外野の間を抜ければ、すぐに三塁打を狙っているようで、そんな打球が多くなれば、五十幡はさらに選手として脚光を浴びることだろう。

 そこで、中学時代に記録した三塁打のタイムを話題に挙げた。中学時代、五十幡が記録したタイムは「10秒76」。三塁打のタイムが11秒を切るのは非常に少なく、プロの選手でもほとんどいない。そのタイムを中学生だった五十幡が記録したのだから、どれだけ驚異的なのかお分かりいただけるだろう。が、そのタイムを0.01秒上回る「10秒75」を記録したのがオコエ 瑠偉(関東一・東北楽天ゴールデンイーグルスドラフト1位・2015年インタビュー【前編】 【後編】)だった。五十幡は自身のタイムもオコエのタイムもネット上で知ったようで、「0.01秒負けているのは悔しいですね。来年はそれを上回りたいと思います」

 そこには同じ俊足選手としての負けらない意地が垣間見えた。 

(取材・写真/河嶋 宗一)

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